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攻略対象の事情。  作者: 冬晶
ハルド・ファエラという攻略対象
34/83

正午の遭遇 2

 

「それはまた…どうして。」


 マナキミ好きだったんでしょう、と問えば即答で勿論と返ってくる。なら何だってそんな色気のない道を。


「それは…その…」


 途端に視線を泳がせ、いや、ともあの、ともつかない言葉と共に掌を握ったり開いたり。よほど話しづらい内容なのか、まだ話すに足りる相手だと判断できないのか。


「言い辛いことを訊いたね、ごめん。無理に話さなくていいから、どうかそんな顔をしないで?」


 そりゃまあ確かに、同郷だったからと言っていきなり信頼せよとは無理な話なのだし、誓約があると言ってもならば洗いざらい喋れるかといえば当然そんなことはないのだ。まして彼女は“ゲームのハルド”を知っていて私を避けていたのだから、おそらく“ゲームのハルド”に対してマイナスな思いがあったのだろうと予想ができる。

 けれど、ふむ、意外だ。隠しキャラについてはネット住民方のネタバレ注意のクッションがそれはそれは厚く、本当に真面目にネタバレを探す気力を持って探さないと見つからないレベルだったのだけれど、それはむしろ彼らのストーリーに対する評価が高かったかららしく。というかそもそもがストーリーであそこまでの人気を獲得したと言っても過言ではないのだから、そんなキワモノキャラが登場するとは考えにくい…まあ人の好みは千差万別であるし、或いは一定層に的を絞ったのかもしれないし、実際プレイしていない私には知る由もないのだけれど。

 なぜか押し黙ってしまったルミィを見遣れば、羞恥半分恐怖心半分、みたいなよくわからない顔をしていた。


「…ルミィ?」


 名を呼べばはっとこちらに注意を向けるも、すぐにまた視線をあちらへこちらへ…言うべきか判断がつかない、というよりはどう切り出したものかと悩んでいる様にも見える。

 下手にこちらから声をかけない方がいいかなと、そのままの状態にすること暫し。ぎゅうと両手を握って彼女は口を開いた。


「ハルドは、ファエラなんだよね。」

「そうだよ。」

「…ファエラ教諭…ディン、さんも、ファエラだよね。」

「そうだね。ゲームでは苗字違ったよね?」

「うん。ゲームでは、グランデ。ハルドは…貴女は、ファエラ教諭と、仲良い?」


 やけに切羽詰った様子で訊かれて、きょとんとルミィを見返す。まあ、普通の兄弟くらいには仲が良いと思うけれど…いまいち意図が掴みきれない。是と返せば今度はじっと探るように見つめてきて…ううん?


「ルミィ、ディン兄様と何か、あった?兄様見た目あまり穏やかではないけれど…とても面倒見のいい人だよ?」


 思わず取り成すようにそう言えば、ルミィはその湖のような眼を真ん丸にして…ああ、そうか、ゲームのヒロインより伏し目がちなんだ、ルミィは。だから幾分雰囲気が凛としている。それによく見れば心なしか髪質もふわふわ、よりはさらさら、に近い気がする。

 じゃなくて、そう、兄様。隻眼吊り目の長身で割と鍛えられた体をしていて、確かにゲームの立ち絵そのものまさになんだけれども、実際人として相対した時の威圧感たるや。熊を視線だけで追い払ったとか、中位の夜獣ならば素手で打ち払えるだとか言われる程度には怖いのだ。加えて自分にも他人にも厳しいもんだから…兄様、もうすぐ22ですよ、浮いた話のひとつもないなんて…いやまあ攻略対象に恋人が居たら都合が悪いってのはあるんだろうけど、でもねぇ…今となっては大事な家族なんだから、もうちょっとこう…あれ、なんの話だっただろうか。


「…にい、さま。」

「…うん?ああ、そうなんだ。兄様が10歳の時に父様がうちへ引き取って。」


 それからずっと同じ屋敷で暮らしていた、と答えると、ルミィは両目を零れんばかりに見開く。


「…どうして、って、訊いてもいい…?」

「そうだね…これくらいなら調べれば判るだろうし良いかな。ファエラ家が無くなってしまったからだよ。」

「なく、なって…」


 呆然とルミィは呟く。どうやらゲームの設定と違うらしい。となると、この世界がイコールマナキミの世界とは考えにくくなってくるのだろうか。私やルミィの存在によるズレならまだしも、二人ともが干渉し得ないところで重要な出来事があるとなれば、それはもう、類似した世界、もしくはパラレルワールドということにならないだろうか。

 さてこれはちょっと頭の痛い展開になってきたぞと額に手を当てれば、腕時計が目に入る…うわぁ。


「ルミィ、この上なく残念だけれど、もう時間みたいだ。そろそろ戻らないと。」

「え、あ、」


 針は昼休憩終了10分前を指していた。ここは割と園の端の方だし、午後イチは上位夜獣学だ。専門棟へ移動しなければならない。私はそのまま行けるように教材を持ってきているけれど、ルミィの鞄は見たところそこまで厚みのある物じゃない。そう言って立ち上がると、


「ま、待って、あと一つだけ!じゃあ、どうしてディンは眼帯してるの?」


 それは。


「…私の所為だよ。私を、庇ったから。」


 それについては先日終結した。納得もしたし、けじめもついた。…でも、やっぱり、あれは私の所為なんだ。それだけはきっと私にとって、この先何があっても、変えられない事実なんだと思う。見開く湖に漣が立つのを見ていられなくて、口を開こうとするルミィに、そっと顔を笑みの形にして遮る。


「さあ、もう戻ろう。続きはまた。ルミィが望んでくれるなら、機会はいくらでもあるから。」


 ね?と手を差し出せば、ルミィはぴしっと身を固くして、刹那、ぼんっ、と音が出そうなほど耳まで真っ赤になった。あれ?どうしたの?頭を抱えて、顔と声とシチュエーション…と唸るのを見るに、どうやら私は図らずも“ハルド”の出会いイベ台詞をなぞってしまったらしかった。というかこの状況自体が出会いイベントだったようで。

 …あー、うん、どんまい?


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