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攻略対象の事情。  作者: 冬晶
ハルド・ファエラという攻略対象
33/83

正午の遭遇

 

 人生は何とも儘ならないものである。やっぱり私は溜め息を吐いた。

 朝会えば挨拶をし、隣にいたフィーにぎょっとした顔をされ。日中どこかしらで遭遇すれば声をかけ、隣にいたフィーやイメラにじとりと睨め付けられ。踵を返し遠ざかっていくような足音を拾い見まわしてみれば急いたように歩くルミィの背が見え。そんな状況が二週間も続けばそろそろ諦めるべきかとも思えてくる、そんな昼休み。いつものように私はガゼボで休憩を取っていた。

 広い広いこの学園の庭園、その一角にある迷路のような生垣を抜ける途中にあるここは、その微妙な立地のせいかほとんど人が通りかからず穏やかな時間の流れるような隠れ家的スポットなのだ。さらに言えば、今は私が惑わしの魔法を周りにかけているので、誰にも見つけられないと言ってもいいだろう。

 だから、その生垣の切れ間から不意に現れた山吹にとっさに反応できなかった。山吹から銀の髪、湖のような青緑の目、え、あれ?ヒロイン?

 きょん、とお互い目を丸めて見詰め合う中、うっすらと開いた彼女の唇から微かに音が漏れる。


「オワタ…」


 おわた?オワタって今言ったこの子?今までの行動と合わせて気付く一つの可能性。とにかく今は話し合いの方向にもって行かねば。


「失礼。ここはあまり人の訪れない場所だから驚いたよ。良ければ少し話し相手になってくれないかな?」


 やんわりと、なるべく重く響かないように意識してそう言うも、なぜか彼女はガチン、と身を固くして。


「いえ、わたくしこそご休憩中失礼いたしましたわ。どうぞそのまま、お休みくださいませ、わたくしはこれで…」


 合っているようで合っていない視線、片手は鞄の肩ひもを握りしめ、もう片方で何か鞄の中を探っている。意識して感情を抑えた声、そしてじりじりと下がっていく体…なんかこれ知ってるぞ森で熊とかに会った時の対処法じゃないかねえ。ええなにそれ想定以上の悪反応だけどええ、待ってこの機を逃すとたぶんもうチャンス無いよねこれって!


「…王道巨編と言えば、竜の探検派?最後の御伽噺派?」


 賭けともいえるこの発言に、彼女は目を見開いて動きを止めた。どうして、そんな疑問が彼女の水面に映り込む。


「それとも携帯できる魔獣かな。私は自ら地図を描く迷宮探検が好きだったけれど。」


 ゆらりと水面が波立つ。もうひと押しだろうか。


「おにぎりの具は梅干し?鮭?ツナマヨはあまり好みではなかったんだよね。イクラは高いから、偶のご褒美だった。煮卵なんてのもあったね。」


 そう言ってゆるりと笑って見せれば、掌から力が抜けるのが見て取れた。うろ、うろ、と視線が彷徨い、何度か口を開いては閉じ。やがて決心したように、キッと私を見据えて言った。


「“我は誓う。我が真名を以てこれより真実を語ると誓う。”」


 おおう、これはなんと。真名に誓うのは、真名を交わした相手でなくともかなり強い拘束力を持つ。下手したら下位魔法書面による誓約よりよっぽど信頼のおけるものだ。でも、そこまで鬼気迫る様な顔するほどのことだろうか。いやまあもちろん応えるけれど。


「“我は誓う。我が真名を以て真実を応え、其方を意図して害さぬと誓う。”」


 ぽわ、ぽわわ、と青緑と空色が二重螺旋を描き、やがて消える。問題なく誓約が交わされた証拠だ。その残滓が消えるまで見届けて、ようやくルミィは私の向かいに座ってくれた。


「…どういう、ことなの。」


 さて、誓ったはいいものの、何から話そうか。誓約が成った以上発言は信用するけど人は信頼できかねる、と言わんばかりの緊張度合いでルミィが尋ねる。ううん、距離が遠い。仕方がないけどなんか完全に敵認定されているみたいだ。


「うーん、まず最初に、ええと…」


 見てもらった方が早いか、と首のチョーカーを外す。向けられていた胡乱な目が見開かれるのがわかる。良かった、これがどういうものか知っているみたいだ。


「転換と抑制の二重陣…え、じゃあ、女の子…?」

「そう。本名はルナ・グレイスコール。第一属性風の第二が地、第三が火。」

「グレイ…ちょっと待って、え?」

「ルカとは双子だよ。いろいろあって男としてここに通ってる。」


 どういうことなの…と頭を抱えるルミィ。その気持ちはとてもよくわかりますとも。


「えっと、ハルド…あー、ルナ、も、その、転生者、なんだよね?マナキミの知識はあるの?」

「呼び方はハルドで。そう、転生者。21世紀現代日本で女子大生やってたよ。知識は一応。」

「そ、かぁ…じゃあ年上かなぁ…私、高校卒業できなかったから…」


 細かい年号は覚えていないから何とも言えないけれど、ほぼ同世代ということで良いんじゃないかな。そう言えば、ルミィは少し悲しそうに笑った。はて。首をわずか傾げるも、記憶が戻ったのはいつかと問われ思考がそちらに流れる。彼女は入所式のその当日に記憶を取り戻したのだそうだ。つまり、何をどうあがいても“ヒロイン役”からは降りられない状態だったと。


「だから決めたの。私が目指すのは自立エンドだって!」


 個人ルートへのフラグを誰にも立てられずに高等部の一年を終えると、大等部へ進学した際に生徒会長に任命され、恋愛イベントが一切起きず首席で卒業を迎え、皇館の皇族専属魔術師見習いへ推薦される。それが通称自立エンド。入所当初の目的まさにであり、純粋にRPGとして楽しめると意外に好評だったエンドだ。


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