午後の物思い 2
「アンタが誰に惹かれようと自由だけれど、あの子はお勧めできないわよ。」
いや私がルミィを気にしていたのはそういう意味じゃなくて、と弁護しようとしたところでフィーから思わぬ追撃をもらい目を瞬かせる。フィーがルミィの親友ポジなのはゲームでも今でも変わらない。そんな彼がルミィをそんなふうに言うのはどういうことだろう。というか、そうだよ、友達の友達は友達、なんて主張をする気はないけれど、それでも共通の友人が居れば多少の交流はあってもいいんじゃないのだろうか。同じクラスならなおさら。
「何か思い当たるところがあったみたいね。たぶんその通り。あの子、アンタの事避けてるのよ。」
どうしてなのか、未だに理由はわからないけれどね、と彼は物憂げに溜め息を吐く。ああ、やっぱり避けられてたのか。しかしまたどうして。何か心当たり無いの、とフィーにつつかれよくよく思い返してみるが、挨拶を交わしたのがいつだったかすら思い出せない。
「…まあ、それでなくてもあの子自身のガードも固いし、ナイトよろしく睨み効かせてる奴も居るし、望み薄よ。諦めなさい。」
諦めるも何も私一応異性愛者なので…って、この場合そういう言い方も誤解を招くのか。誤解というか混乱というか、今、恋愛対象は男ですって言ってもややこしくなるだけなのは明らかなので、どうしたものかと視線を泳がせる。それがいけなかったようで、
「ちょっと!策練るの禁止!いくらアンタでもあの子の嫌がることしたら承知しないわよ?!」
「なに騒いでんの。御陰で見つけ易かったけど。」
ガタッ、とフィーが立ち上るのとほとんど同時くらいに、生垣の切れ間から呆れた様な声と共に茶色の髪の青年が現れる。
「やあルカ。何かあったのかい?」
あえてフィーには触れず迎え入れれば、ルカは至極面倒そうに口を開く。
「フィーに伝言。クロル教諭、用事が入って、面談の時間を早めたいってさ。出来れば直ぐに打ち合わせしたいって。」
受け取ったフィーは、あらそう、と取り乱した様子など微塵も残さず頷くと、
「じゃあ今日はこれでお暇するわね。」
「フィー、私は彼女をそういった目で見ていたわけじゃないよ。」
「…どうかしら。今はそういうことにしておいてあげる。」
納得していない、とありありと浮かぶ目で私を一瞥して、フィーはガゼボから出て行った。絶対勘違いしてる。あれは娘を渡すまいとする母親の目だった。フィー男だけど。たぶん心の底から紛うこと無く男だけど。
「喧嘩?」
フィーの足音が聞こえなくなってから、私よりも幾分柔らかい声でルカが問う。
「いや、ちょっと厄介な勘違いをさせてたみたい。」
「へぇ。あの子って?」
「ルミィ・エディス。ルカは何度か話したことがあるよね?」
「ああ。…あー、」
なるほど、とルカは苦く笑う。
「あの溺愛具合は見てる分には面白いけど…はぁ、お前に向くとはね。」
「そういうんじゃないってあんまり主張するのも却って疑われるかと思ったけど、失敗だった。」
「言ったらよかったんじゃない?女性は範疇外って。」
「言おうかとも思ったよ…」
「言わなかったんだ、偉い偉い。」
「他人事だと思って。」
「今は他人だし?」
ルカの口角は上がる。私の眉根は寄る。にまにまとした口元を隠しもせずに、ルカはさっきまでフィーが座っていた場所に腰を下ろす。
「それにしたって、本当になんで急に興味がわいたわけ?」
わずか首を傾げてルカが問う。どこまでどう話したものかと、またゆらりと視線を彷徨わせて、
「そう言えばまったく話したこともなかったよな、と思って。」
「…心が体に引っ張られることってあるの?」
「ルカまで疑う?!やめてくれよ…」
いやに真剣に訊いてくるその声に、思わず天を仰ぐ。ジーザス、おお神よ、とはまさにこの気持ちの事か。
「冗談きついよ。」
「本気で訊いてるけど。」
「もっと悪い…」
「…その様子じゃ本当にないんだね。」
だからそう最初からそう言ってる、と力なく返せばようやく納得したようで、寮に帰ろう、と立ち上がる。その顔も見ずに私はひらひらと手を振って先に帰っていてと返す。
「ご覧の通り傷心極まってるんだ。少しひとりにして置いてくれたまえよ。」
わざとらしくそう言えば、ふっと笑った気配がして、悪かったって、と一言残してルカは去って行った。




