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攻略対象の事情。  作者: 冬晶
ハルド・ファエラという攻略対象
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午後の物思い

 

 中央魔術園に限らず、この国では魔法を扱う者をマナ適性とは別の適性によって四つの所属に分けている。園ではさらにその中で、力量と素行に応じて下から1、順に上って10、そしてJ、Q、Kと能力階級が設けられ、まあ要するにトランプに準えられているわけだが、それは一旦置いておこう。


 所属のひとつはグラーアル。聖杯、僧侶を司るハートマークは純然たる魔術への適性が最も強い者の証。知性に優れ、強力な魔法を事も無げに放つ。

 ふたつはアチェアロ。剣、騎士を示すスペードマークを戴くのは武道に通じその身を以て戦う者たち。杖ではなく武器を手に最前線を駆ける彼らは、最も人口割合が高い。

 みっつはクラヴィア。棍棒、農民を表すクローバーマークは自然との、世界との高い親和性を意味する。故に彼らは生命の廻りを理解し、癒術を施す。

 よっつはバクノート。硬貨、商人を指すダイアマークを纏うは交渉を得手とする賢しき者たち。あらゆる種族と、時には世界の神秘とさえ契約を交わし、その身その能力を使役する稀有な存在。


 これらは適性とは違い遺伝に因るところが大きく、また属する人数も大きく異なるため所属によって寮が分けられたりするわけではないが、専門魔法の授業ではクラスを超えて所属ごとに指導を受ける。所属を表すマークは左側に胸章として、第一属性の色で染め抜かれる。そしてその上に刺繍されるのが、中央魔術園独自の能力階級だ。これによってクラス分けがなされ、その者の実力を最も端的に示すものとなる。能力と立ち居振る舞いが相対的でなく絶対的に評価されるこの学び舎では誰が意図するでもなく実力主義めいた風潮があり、日本のようなクラス間の交流なんてのは専門魔法科の時くらいなものだ。


 つまり、何が言いたいかというと。私は、ハルド・ファエラは、この6年間ずっと、乙女ゲーム『真名を君に』のヒロインルミィ・エディスと同じクラスだったということ。

 同じクラスでなければ顔を合わせるのも稀なくらいなのだから、攻略のためには彼女もハイスペックな攻略対象に合わせて高い能力を持たせなければならない。けれど、あまりに最強ヒロインに寄ってしまってはストーリーの展開上よろしくない。故に彼女に与えられたのは“制御できない高い資質”というある種の枷だった。それがあるために彼女は園に入所し学び続けることが出来、それがあるせいで思うとおりに成果が残せない。それに付随する葛藤や挫折などの悲喜交々が、初学部中学部ではほのぼのしい友情イベントと共に、高学部大学部では恋愛イベントと共に描かれるのだが、まあそれも今は置いておくことにして。

 要するに、ヒロインが能力階級9以上の最高クラスに在籍しているのは、暴走した際周囲に被害が及ぶのを最低限に抑えるためであって、ヒロイン自身のスペックはそれほどなのだ。その自覚は本人にもあり、だから彼女は積極的な学びの精神を持ち、自らの社交性を武器に精力的に立ち回る。その姿が攻略対象達の興味を引き、庇護欲をそそり、或いは同情を誘う。


 の、だが。

 この6年間、私はおそらく、一言たりとも彼女と言葉を交わしていない。初学部3年間は、能力階級もおおよその目安みたいなものなのでクラスの人数も多い。関わりを避けようとしなくても挨拶を交わすかどうかという程度のクラスメイトは少なくなかっただろう。その3年間のうちで起こる友情イベントなんて把握していなかったし、そもそも一応隠しキャラなのだから用意されている友情イベントの数も少ないだろうと気にしていなかった。

 ところが、中学部に上がり、能力階級10のみのクラスになってからも、それが変わらなかったのだ。クラスは20人程度、さらに言えば初学部3年間を共に過ごした者たち。当然クラス内の空気は気安いものになる。だというのに、彼女は不自然なほど自然に、ハルドとの接触を避けているように見えた。私にも覚えのある友情イベントがいくつか起きていたから、マナキミのストーリーは進んでいるのだろうけれど、なればこそハルドとのみ無接触、というのは少し不自然ではないだろうか。

 最初のうちこそ私の本来の目的のための道に横槍が入らなくて良かった、と喜んではいたけれど、その目的のうちのひとつは数週間前に達成、というか調停というか、双方の示談による終結というのか、お互い納得の上での合意という形で収まった。残るひとつは短期で成果が出るものではなく、むしろ人生の課題とするようなものなので、目下の尽力の元が無くなった今、ふとこの6年を振り返ってその違和感に思い至ったのだった。

 母様の娘なのだからと、もしかしたらクラヴィア所属かも知れないという淡い期待は早々に打ち砕かれ。当てにしていた少年と親交を深め、治癒魔法について調べれば調べるほど兄様の傷は治せないという裏付けばかりが集まって。何かないかと足掻いているばかりで時間が過ぎ、とうとう兄様の体は隻眼で活動できるように出来上がってしまった。自分でも解らないくらい悔しくて、ルカとぶつかりフィーと揉め、兄様と会談を重ね、気付けば6年が経っていて、正直ヒロインの動向を気にするどころか、ここが乙女ゲームの世界であることすら忘れていたのだが。


「なんだか、今日は随分と上の空ね?珍しい。」


 向かいに座る青緑に紫紺が混じる癖っ毛な青年が、山吹の目を細めころころと笑う。その胸章はクローバー。彼こそが私の当てにしていた隠し攻略対象、クラヴィア所属の第一属性光、ヒロインの親友ポジにしてオネェキャラのフィー・レッダ。出会った当初は普通の喋り方だったというのに、さらには、ゲームでそんなキャラになる原因であった父親と和解しているというのに、気が付けばこんなことになっているのは、ストーリーの強制力というやつなのだろうか。


「…この6年間を、少し思い出してしまってね。」

「やだ、なに隠居間近の当主みたいな事言っているのかしら。アタシ達まだまだこれからだっていうのに。」


 誤魔化すわけでもなくそう言うと、フィーは口元に手を当てさらに笑う。声変わりも済んだ男性の声なのに柔らかく違和感なく響くってどういうことだろう。


「その通りさ。でも自分の中では大事なものがひとつ落ち着いたんだ。少しくらい物思いに耽ったっていいだろう?」


 対して私の声の低い事と言ったら。兄様程ではないにせよ、年々低くゲームのCVに近くなっていく声質に、なんだか申し訳なくなって口調までゲームのハルドに寄せることに決めたのは、声変わりして間もないころ。乙女の夢をぶち壊すような真似は出来なかったよ…


「少しくらい、ねぇ…学業に支障をきたす程にならないといいのだけれど?」


 ほらまた今だって、と指摘され無言で肩を竦める。それをどう受け取ったのか、フィーは不意に真剣な顔になると声を潜めて言う。


「自覚がないなら言ってあげるわ。アンタ年度が始まってからここ数日、ずっとルミィの事目で追っかけてるわよ。」


 ほあ、と間抜けな声が出なかったのは奇跡だろう。




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