ルナとハルド
せっかくだから、と父様がロゼルティナ様をお茶に誘い、屋敷に戻ればサロンに紅茶とお菓子がすでに用意されていて。
「まあ、ルナ、やっぱりルカとそっくりになるのね。」
お姉様はお変わりなく、と嬉々として迎えてくれた母様と、
「ああ、地のマナ適性を封印したのか…辛くはないか?」
心配そうな、どこか残念そうな兄様と、
「…うわ、思ってたより似てる。」
思いっきり顰め面してくれたルカ。ねえその反応は失礼じゃないかい?お客さんの前だよ?
「双子なんだから、似ていて当然でしょう?」
「うわ声まで変わってる。ねえ、僕みたいな声でその喋り方やめてよ。」
「…ルカ、お客様の前だよ。」
口を開けばますますうえぇ、と言わんばかりの顔になり、さすがにそれはどうなのと咎めれば、母様の対面に座ったロゼルティナ様は気にしなくていいとにこやかに言う。特に父様も何か言うわけでもなく席に着いたので、ひとつ軽く溜め息を吐いてからメイアの引いてくれた椅子に座った。
ルカの後ろに控えるマイアは微笑ましいものを見ているかのように目を細めている。見守らないで!止めて!
「でも、そうね、あまり似ていては意味が無いわね…」
困ったわ、とこちらもまたまったく困っていないような顔で母様が言う。髪を整えてみたらどうかしらと言うロゼルティナ様に父様が賛成して、いやあの、お茶とはいえ食事の席で散髪とか、え、待ってなんで既にスタンバってるのメイアその散髪セットどうしたの、あ、ちょ、ま、
「まぁあ!そっくり!」
準セミロングくらいあった髪があれよあれよと言う間すらなく顎のラインに揃えられて。それを見た母様の第一声がものすごくキラキラしているのはどうしてでしょう…顔の前で両手を重ねてとか、どんなお嬢様仕草…
「メルティナ様、これは喜ぶべきところでは無いかと…」
そんな雰囲気の中そう言い出せた兄様はとても素晴らしいと思います。ルカに至ってはもう見たくもないと完全にそっぽを向いていますよ…そんなに嫌か、君。
溜め息を吐きつつ再度メイアの持つ鏡を覗き込めば、うわあ、うん、ルカの気持ちが分かった。自分そっくりの顔が勝手に動いてるってものすごい違和感だろうね…
すっかりルカと瓜二つになってしまった見た目に、さてどうしたものかと目を伏せるとふと、浮かんだ案があった。
「メイア、鋏とって。」
その言葉に一瞬考える素振りを見せたメイアは、それでも鋏を手渡してくれた。それをそのまま前髪にあてて、ぱつん。これで少しは印象変わったんじゃなかろうかと鏡を覗き込んで、うわあ斜めになってる、と左に寄せて、
「…え、」
空色の目は緩やかに目尻を下げ、反対に眉はすうっと山を描く。オレンジ一色の長めの髪はぱつんと切り揃えられ、けれど前髪は左目を隠すように流されている。女性的とまでは言えないけれど、他の男の人とは違う不思議な雰囲気を纏ったその人は、私に気付くと見とれてしまうような笑みを湛えて言った。
“…客人とは珍しい。ここを知っているのは俺くらいかと思っていたんだが。”
低く、それでいて柔らかい声でその人は言うと、優雅な仕草で立ち上がり、自分の向かいへと私をエスコートしてくれた。
“しかしせっかくの縁だ。すこし休んでいくといいよ。ああ、俺はーー”
「――ハルド。」
転がり落ちた声はけれどしっかり響いたようで、それを聞いた父様がそれは良いと頷く。
「うん、そうすると幾分印象も変わるね。ハルドと言う呼ばれ名もいい響きだ。」
そうしよう、と父様は何か書類を準備し始めたけれど、そんなこと気にしている余裕はなかった。
ハルド・ファエラ。風属性の攻略対象で、ミステリアス系美青年。二週目以降の隠しキャラで、三人いるその中ではルート解放の難易度は真ん中。ほかの攻略対象たちとあまり交流がないのか、イメラのルートでは名前も出てきたかどうか、と言う程度だった気がする。ああそうだ。あのゲームでファエラはこのキャラだった。クール系教師は、グランデ。ディン・グランデだ。この二人だけは、ゲーム本編外で真名が公開されていなくて、確か、攻略サイトでも伏せられていたっけ。
…これは、どういうことだろう。やっぱり私にも使命があって転生させられた?ヒロインとくっつくように?ではなくヒロインとくっつかせないように?もしくは全く別の何か?こんなパターンもありなの?どうすればいいの?もう容姿は変えられない、名前は自分で固定してしまった、今更やっぱなしは効かない。…ならば。
この姿で、全うするしかない…?
――――――――――――――――――
―――対象A03:ハルディナ・グレイスコール(呼名ルナ、第一属性風・第二属性地・第三属性火)、転換並びに第二属性封印魔法により以後をハルド・ファエラ(第一属性風・第二属性火)と記載する。
これを以て第二分岐期間終了。以後第三分岐期間まで流れの整頓を再度最低限行う。
留意事項
①対象B02の過干渉を防止すること
②対象A02の記憶解除のタイミング
③対象A03の前記憶の保持
なお、管理者については情緒の安定を第一とし、出来得る限りケアを行うこととする。




