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攻略対象の事情。  作者: 冬晶
ハルディナ・グレイスコールという少女
24/83

2色のスプーンとシリアスは何処へ

 

「ファエラの養子息子として中央魔術園へ通うこと。出来るかい?」


 正面には笑顔の父様、右へ視線をずらせば優雅に紅茶を楽しむ母様。うん?どうしてそんな方向へ話が飛ぶのだろう?あまりにも平然とする大人二人に戸惑い、今度は左へ視線をずらせば、兄様はぽかんとした顔で、さらにそのまま左へずらせばルカが、気づかずに人参を噛んでしまった時みたいな顔をしていて、うん、こっちが普通の反応だよね。

 結局身内じゃないかと突っ込むべきか、さらっと性転換することにされている事について言及すべきか、とりあえずシリアスな雰囲気が家出してしまったので探してきてもいいですか駄目ですかはい真面目に現実と向き合います。


「あの、えっと、どういうことでしょうか。」

「15歳になれば、代理人や後見人を通すことなく当主として立つことが出来る事は知っているね?」


 はいと頷く。この国では15で成人としての権利が認められる。だから魔術園の教育課程も15歳、中学部3年生までで一区切りついているのだ。ゲームで言えばそこまでが育成パート、その先一年の高学部が共通ルートで次の一年大学部が個人ルートになっていた。現実としては中学部までで魔術園を卒業して、当主補佐や領主補佐として家に戻るケースも少なくないという。

 父様の続けて曰く、ファエラ家を潰えさせるわけにはいかない。だからディン兄様は15でこの家から離れる。正式にファエラの当主になるから。けれど、一人だけのそれを家と認めるわけにはいかない。双皇から新たに爵位を与えられた訳ではないから。


「妻を迎えるのが一番いい方法なのだけれどね。それを選択する権利までディンから奪いたくはないんだ。」


 だから養子を迎えるのが妥当な案だと考えているよ。そう言って、やっぱり、良い笑顔な父様。そのお顔のせいで雰囲気が可笑しなことになっているんですけどわざとですか?


「ちょっと待ってください。」


 今まで黙って事の次第を見てきたルカが口を開く。


「当然のように偽装して入所することになっていますけど、そもそもそんなことできるのですか?」

「転換魔法について言っているなら、問題は無いと言えるよ。魔法自体はそれほど難しいものではないから。」


 そして、手続きなんかの面で言っているのなら、それも問題ないと。


「メルティナ、ロゼルティナは君のいくつ上だったかな?」

「あらいやだ、お忘れですか?4つ上ですわ。」


 うふふ、あはは、と花でも飛んでそうな夫婦間の空気。あれ、今結構シリアスな話題だよね?そうだよね?そしてロゼルティナって魔術園の今の所長じゃないですかああそうかヘルバグラスティ…結局コネとツテの社会じゃないですかやだー。

 心なしげっそりとした顔をしてしまったのは許してほしい。だってなんか壮大な話してたと思ったのに、なんか、なんか、ねえ…?!母様も昨日までのきりっとした女主人な雰囲気はどこへやったのですか…?兄様もそれならと納得しないでください、いや、あんまり反対されても困るけれど!


「…ではルナは、今後ずっと男として生活していくことになるのですね?」


 わずかに眉を寄せて言うルカ。でも私は知っている、その顔はちょっとうれしい表情を隠すための上っ面だと…!なんでみんなそんな歓迎モードなの?!一人娘の人生の分岐点じゃないのここ?!望んでいた展開だけど何かが違う気がするのは私だけかな?!


「そうだね。少なくとも魔術園を卒業して何年かまでは男として生きていかなければならない。それが嫌だと言うのなら、入所の許可はできないよ。」


 正直戸惑いはある。性転換まで行けばそれもう別人じゃないかとか、そうなればメイアの立ち位置が更に微妙なものになるんじゃないかとか、冷静になればきっともっと出てくると思う。けれどここまで来て否やはないし、と言うか、たぶん私もこの雰囲気にのまれていたところもあったんだろう。


「我が真名をかけて、誓いましょう、成し遂げて見せます…!」


 ふんす、と鼻息も荒く宣言する。それを受けた父様はなぜか、どこか仄かに寂しそうな色の映る笑みを見せて、


「ではエルド・グレイスコールもその真名を以て条件を守り、できる限りの助力を約束しよう。」


 後になって思えば、手段こそ違えたものの、父様はいずれこうするつもりだったのだろう。でなければここまでうまく話を持ってくることはできなかったはず、だと、思いたい。いや、いくら父様でも即座にこんな計画練り上げられないと思う。きっといくつか構想があって、このタイミングに一番効果のある案が、これだったのだ。

 後の事は大人に任せなさい、と言った父様が翌日、ルナ・グレイスコールがこの屋敷から姿を消す理由を話してくれたのも、やっぱり元から考えがあったからなのだろう。



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