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攻略対象の事情。  作者: 冬晶
ハルディナ・グレイスコールという少女
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決意と交渉と梨ゼリー

 

 その日は久しぶりに全員揃っての夕食だった。そう言えば、この世界の、というかこの国の料理は言うならばヨーロッパ系ミックスにここ独自の物を混ぜ込んだようなものなのだが、出され方は日本的…というのか、一品ずつ出てくるのではなく大体の物が一緒に出てくるのだ。料理の温度なんかは、そこは魔法のおかげで冷めにくく温まりにくくなっているようだった。なんて便利。

 何が言いたいかというと、つまりメインを食べ終えてからデザートが出されるまでに、一度テーブルの上が総入れ替えされるのだ。その分時間がかかる。大抵紅茶なんかを飲みつつまったり過ごすのだが、お腹もいい具合に満たされたこのタイミングというのは、話し合いには絶好の時と言える。ので。


「父様、母様、お話があります。」


 いざ、リベンジ。


「…入所の話かい?」


 父様はそっと母様と視線を交わし、言う。その声は思っていたより柔らかかった。ルカはちょっと不満そうだった。うん、結局相談せずに切り出しちゃったなぁ。兄様はきょとんとしていた。聞いたら怒るかな。


「はい。いろいろと考えてみました。でも私には、交換条件として差し出せるものが見つかりませんでした。だから、」


 何をそこまで意地になっているのだろう、とも自分で思う。けれど、どうしても。どうしても、魔術園へ通いたいのだ。通わなければならないと、それが決定事項の様に頭に張り付いているのだ。


「…だから、私が、グレイスコールでなくなれば、入所を許してもらえますか。」


 ざ、と。音を立てて雰囲気が変わったように感じた。ルカは目を真ん丸に見開いてこっちを見てきたし、兄様は唖然としているようだった。母様でさえ驚いたように一瞬身を固くしていた。使用人たちでさえその手を止めるような中で、唯一、父様だけは淡く笑んでいた。


「どうしてそこまで中央魔術園にこだわるんだい?グレイスコールでなくなる、ということがどういうことか、解らずに言っているわけではないね?」

「はい。貴族でなければ、魔術園に通うのは難しい事です。だから、私はどこかの家に養子へ出なければなりません。そのあてはもちろんありません。だから結局、父様や母様の御手を煩わせることになります。苗字が変わったところで、と言う方もいらっしゃるでしょう。かえって状況を悪くするばかりなのかもしれません。けれど、それでも、どうしても、私は魔術園に通いたいのです。」

「…ディンの傷を、目を、治すために?」


 笑みのまま、父様の目がすぅと細められる。父親ではなく、それがきっと宰相としての顔なのだろう。掌がじっとりと汗ばむのが分かった。兄様が何か言いかけて、母様に制される。


「はい。その方法を、探すために。」


 膝の上でぐっと両手を握る。挑むように父様を見る。


「そして、私はこの力を十二分に使いこなせるようになりたい。魔法をもっと具体的に体系付けて、こんな不慮の事故がもう起きないようにしたい。そのためには中央魔術園でなければいけないと、園へ通わなければならないと、そう思うのです。」


 父様は、そう、と息を吐いた。そうして私にひとつ問うた。


「メイアは、どうするの?」


 ばくん、と心臓がなった気がした。予想外だった。そこまで考えていなかった。

 真名を交わした主従関係は基本的に一生ものだ。だから、私がこの家を出ていくならメイアも連れて行かなければならない。それは、私のわがままでメイアにつらい生活を強いるということ。…あるいは、ここなら、メイアをそのままハウスメイドとして置いてくれるかもしれない。でもそれはメイアの誇りを滅茶苦茶に傷付けることになる。

 どちらを選ばせる?ああ、せめてメイアには相談しておくべきだったのだ。全く自分の事しか頭になかったなんて。情けなさと申し訳のなさに天を仰ぎたくなるような気持で、けれど、それを表に出すわけにはいかないから。


「メイアは、メイアには、着いて来てもらいます。園は全寮制です。侍女従僕の同伴も許可されているはずです。メイアの誇れる主人であるよう、努力を尽くします。」

「…それをすべて、成すと?」


 柔らかい声が、かえって怖かった。小娘ひとりにそれができるのかと、問われている気がした。震える息を吐いて、無理やり唇の端を持ち上げて笑んで見せる。


「私の持てる、総てをかけて。真名に誓いましょう。」


 わがままついでに、ルカとの連絡手段を持たせてもらえるとなお嬉しいのですが、と言ってみる。父様は少しの間目を閉じて、何か考えているようだった。無言のまま、デザートの洋ナシのコンポートが並べられる。どうやらゼリーに仕立ててあるらしい。

 食べていいのか、否か。じ、と淡い琥珀色に輝くそのつるりとした表面に視線を這わせていると、向かいから、そうだね、と声が聞こえた。



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