プロローグ
小学生の頃だったかの、理科の授業。電池と、コードと、豆電球を繋ぐというごく簡単な回路の実験で、先生が言った注意事項。
“電池だけをコードで繋いではいけませんよ”
それは“とてもあぶないこと”であるとーー
ーーその“とてもあぶないこと”がいま、目の前で起きていた。
いや、正確には私はコードも電池も使っていないどころかこの世界に存在すらしていないのだけれど、この状況はまさしくそうだし、原理なんて全く理解していないというのに“これら”を繋いだのは紛れもない私、で。
え、とか、あれ、とか、そんな意味のない言葉が頭の中を渦巻いて。まるでそれに呼応するかのように、手をのばした先の“それら”はくるりと楽しそうに完璧なまでの円を描いて、美しく澄んだ空のいろに輝いて。
もはや私の制御下にない“それら”はしかし、この次にどうなるのかを恐ろしいほどハッキリと私に伝えてくる。
だめだ、と、もしかしたら口から転げ落ちたかもしれない。けれど、それを耳が拾う前に“それら”はいっそう美しく光って、
ーー爆発。
轟と空気が叫ぶ。
カーテンが窓ガラスがベッドシーツがカーペットが甲高く悲鳴をあげる。
物書き机が椅子が本棚がクローゼットがなぎ倒されて、けたたましく断末魔が響く。
阿鼻叫喚の地獄絵図、私はその音を聞いていた。
音だけを、聞いていた。
「大丈夫だ」
あたたかいものに、包まれていた。
猛り舞う風の刃がその身にとどくほんの一瞬前。幼い双つの腕がこの体を内に引き寄せて優しい声でそう言う。
それがあんまりにもいつも通りで。私は馬鹿正直にああ、大丈夫なのか、なんて思ってしまった。だから音がやんで、風がおさまって、私を抱き締める腕の力が弛んだ時になにも考えず顔をあげた。ありがとうと、そう言おうとして。
「、え」
ばたばたと、アカが降ってきた。
鉄臭くて妙に温かいアカは見慣れたその顔の半分を覆っていて。知らずとひぅ、と喉が鳴る。アカはその間も絶え間無く降ってくる。温かいのに、アカに触れられたところから体温を奪われていくような気がした。手が震える。脚が震える。それなのに、
「大丈夫だから」
どうして笑っているの。どうして頭を撫でるの。どうしてそんな、
ーーひとつだけになってしまった深い深い海のいろが、ただただやさしく私を映していた。