第八十八話 文化祭終了
まあ、アルトちゃんを見つけ一安心していたんだけど……
「なんで僕はここにいるんだろう?」
しくしくと僕は舞台裏で泣いていた。
「まあ、元気出せ……」
刹那くんがポンポンと肩を叩く。その彼もタイトミニで、ポイントに青の線を配した紺色の制服。
一方の僕は黒いゴスロリ調の服とロングヘアに見せるためのウィッグ。
僕らは女装して、出番を待っていた。
この学校には『ミスタートキワ』というコンテストがある。
まあ、簡単に言えばミスコンの男子の部で、僕たちも出る予定だった。
なんで男も参加するコンテストにわざわざ女装か? そんなの朱音さんと舞さんの仕業ですよ。
『絶対似合うから!』
そう言って押し切られてしまった。僕を見て美狐さんが、
「く、空狐、あんた、ほんとさいこ、あはははははははははっ!!」
とお腹を抱えて笑い出した時は死にたくなった。
現在、女子の部で、舞さんが出てる。
練習用の胴着を着て、ムーンライト代わりに長刀で演舞を行ってる。
最近、魔法だけじゃなくて朱音さんから槍術も習ってるからなあ。
舞さんは運動は苦手な方だったけど、見る人が見れば、本来の得物が槍だってわかりそうなくらいは堂に入ってる。
にしても舞さんどうしたんだろ? 今じゃ殆ど退魔士としての訓練になってるし。
やっぱり何が何でも攻撃魔術習得に反対しとくんだったな……
僕は溜め息をつく。関わって欲しくなかった。日常でいてもらいたかった。
そして、舞さんは本日トップの47点を取って戻ってきた。
「どうだった空狐くん!」
と戻ってきた舞さんに微笑む。
「かっこよかったですよ舞さん」
僕の返事に舞さんは嬉しそうに笑った。
女子の部が終わり、ついに男子の部……と思ったら、僕は舞さんに腕を引っ張られ体育館裏にいた。
なぜ体育館……古い漫画なら果たし合いや告白の場、って、まさか?!
僕は緊張する。こ、このタイミングで?!
「空狐くん……」
そして、舞さんが非常に真面目な顔で、ああ、待って。まだ心の準備が!?
「ポーズ取って!」
舞さんがばっとカメラを出す。
はい?
自然と僕は前かがみのポーズを取っていた。あれえ?!
ぱしゃっとシャッター音。ああ、そうか、最近のパターンは残念でしただっけ……
「次お願いね!」
はいはい。
僕は再びポーズを決める。だんだんどうでもよくなってきた。シャッター音が増えていく。
「空狐、こっち向きなさいよ」
美狐さんの言葉にきらっとポーズを決めながら振り向く。
全く、なんで僕なんだろう? ポーズ決めて、ウサギがピョンと跳ねて、狐が遠吠えして、魔王はロリコンで、女神は妖精になって剣に宿り、滅びの地平に咲く命の花、かくして世界は仮初めの平和でくるくる回って、私は流星に手を伸ばして、業火に焼き尽くされて、人の善意と可能性は一角獣に託され……うにょーーーー!!
「かわいいポーズ!」
ミス常磐に私はなる!
「せいこー!」
まいおねーちゃんがにやりと笑ったけどクーは知りません!
私は舞台裏に戻る。
「く、空狐大丈夫か?」
なぜか心配そうに刹那くんが問いかけてきた。
「ほええ? なんでそんなこと聞くの? クーどこかおかしいですか?」
おかしいところなんてないと思うんだけど……
と、なぜか刹那くんは憐れむような、遠い目になる。
「そうか、まあ、頑張れ……」
ぽんぽんと私の肩を叩くとすたすたとステージに向かってしまいました。
うーん、刹那くんがなにを言いたかったのかはわからないけどクーも頑張るよ!!
ばっと舞台に出る。
「はーい、空狐でーす!」
はっ!? なにが起きた? 僕は確か舞さんに呼び出されて……何も思い出せない。
ま、まあ思い出せないならいいか! いつの間にか46点取っていたなんて僕は知ーらない!!
「あははははははは! 空狐、あんたほんと面白……ぶははははは!!」
美狐さんが笑っているけど気にしないんだからね!
そして、出し物は全て終わり、片づけをしてから後夜祭となりました。
ぱちぱちとグラウンドの真ん中で燃えるキャンプファイヤーを見つめる。
「きれいですね」
「うん、でも……空狐くんの火の方がきれいだよ」
なんて舞さんが笑ってくれる。
え、あ、うう、脈絡がおかしい気もするけど、なんか嬉しいな……
と、僕たちがのんびりと火を見ていたら、軽快な音楽が流れてきた。
そっちに振り向く。確か、ステージが設営されてた場所だけど……
そこで美狐さんがダンスを披露し、そのバックで朱音さんと刹那くんがギターを弾いていた……っていいのか部外者がそんなことして?
と、思うけど、みんな喜んでいるし、いいのかなあ?
こうして、僕らの文化祭は終わりを告げた。
鈴:「文化祭編終了です」
刹:「日常編はこれで終わりだな」
鈴:「おう、次からは一気にラストまで駆け上がる」
刹:「そういえば、これが始まってもう三年か」
鈴:「区切りを付けるにはちょうどいいかもな」
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