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狐火!~狐少年の奮闘記~  作者: 鈴雪
第十七章 文化祭
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第八十七話 アルトが迷子


アルトside


「ねえ、つぎは……あれ?」

 三人に提案しようと振り返ると、くーこくんとまいちゃん、そして美狐さんはいませんでした。

 場所は一号棟と二号棟を繋げる二階の渡り廊下。きょろきょろと周りを見ますが、くーこくんたちはいません。宣伝をしてる人、どこに行こうか話してる人たち。あとは、図書委員の古本市。

 あちゃー、私って背が低いからみんなたまに見つかられなくなっちゃうんだよね。

 うーん、まあもう迷子なんて歳じゃないし、学園もそこまで広くはないからそのうち合流できるよね。よし、一人で色々回ってみよー!

 そう考えて私は歩き出しました。


 三階の廊下を歩きながら、はあっと、私はため息をつく。

 一人で色んな場所を回ったけど、行く先々で私は子供扱いされました。同年代の子も、私の見た目や口調から子供扱いです。

 くーこくんやまいちゃんたちもなんだよね。二人のことは好きだけど、そこは不満。一応同い年なのになあ。

『アルトちゃん、よくできたね』

 練習中うまくいけば、まいちゃんは私の頭をいい子いい子と撫でてくれて、

『大丈夫アルトちゃん?』

 と、私が転んだら、心配そうにくーこくんが抱き起こしてくれたりした。ううう、本当は子供扱いは嫌なのに。

 なんで私は成長しないんだろう? 自分で自分の体質が憎らしくなる。せめて精神面と同じスピードならいいのに……

「ママみたいになるのはずっと先かぁ」

 本人はなりたくてなったんじゃないって言うけど、やっぱりああいう、ぼんきゅっぼんな身体は羨ましいなあ。まあ、私の身長でそんなにあったら不気味だろうけど。

 と、考えながら、一号棟三階にある3-Bの喫茶店に入ろうとして、歩いていたら誰かにぶつかってしまった。

「あ、ごめんなさい」

 私は謝ってから、離れようとして、

「あん? それだけかガキ?」

 いかにもな不良に絡まれた。しかもメンチを切ってくる。

 不良は二人、それぞれリーゼントとモヒカンで、どちらもサングラスをかけて、チェーンをアクセサリーにしてる。リーゼントは特攻服、モヒカンの方はカプコン破れしてる。

 わー、今時リーゼントやモヒカンって珍しいんじゃないの? しかも鎖じゃらじゃらって、まるで二十年前の漫画から出てきたみたい。

 見れば、他の生徒たちは不良たちを見ようとしないし、何人かがびくびくと怯えてるし、しかも、内装も、机や椅子がひっくり返ったり、飾り付けが外れて少しばかり荒れてる。もしかして、嫌がらせ受けてたのかな?

「子供だからってナメたら承知しねえぞ、あっ?」

 と、リーゼントの不良……面倒だし、リーゼントでいいや。見た目小学生を脅すなんてなんて器量が小さいなあ……どうしよう?

 今の私自身は見た目通りの小学生程度の力しかないし、でも手元にあるあれを使えば……

 私は腰の後ろに手を伸ばし、躊躇う。

 この場に人は多い。人外関係者の学園だけど、一般の人もいる。なにより……

『化け物!』

 イヤだった。またそう言われるのは。

「なんだその目は? 文句あんのか?」

 と、躊躇していたらリーゼントが手を伸ばしてきて、

「あら、ずいぶん珍しい生き物がいるわね」

 後ろから伸びた細く綺麗な手がリーゼントの頭を掴みました。

「あだだだだだだ?!」

 ギリギリとその白い指が頭蓋骨にめり込むような音がします。

 振り向けば、そこに空狐くんよりも綺麗な白銀色の髪の人、美狐さんがいました。

「美狐おねえちゃん?」

「どうも、アルト。探したわよ」

 み、美狐さんいつの間に後ろにいたの?

「て、てめえ、ブラザーを離せ!」

 もう一人の不良、命名モヒカン。が飛びかかるけど、無駄な犠牲が増えただけでした。

 ジャブ、フリッカー、ストレート、アッパー、リバーブロー、ガゼルパンチ、デンプシーロール――

 肘打ち、裏拳、正拳、てりゃああああああ――

 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ、WRYYYYYYY!!

 圧倒的ではないか美狐さんは……

 喧嘩、いえ、不良は反撃一つできないから、一方的な虐殺が目の前で展開されます。


「跪けッ!」

 ぼこぼこにしたリーゼントとモヒカンに美狐さんが命令します。

 一応、急所を外していたので、そんなに酷いケガではありませんが……いえ充分に酷いです。顔が腫れて膨らんでるけど、ほとんど血は出ていません。せいぜい鼻血くらい。教室を汚さないような配慮でしょうか?

「ひぃ……」

 ひざまずかせた二人の手前に、美狐さんはそばのテーブルにあった皿を取るなり、載った食べ物を床に零します。そして……

「食べなさい。ただし口だけでね」

 えええ!? い、今の学校はみんな土足で歩いてるのに?!

「え、いや、汚っげふっ!」

 跪きながらも文句をいいかけたモヒカンの顔面を、椅子に腰掛けてふんぞり返ってる美狐さんが、蹴り飛ばしました。

「口答えすんじゃないわよ駄犬が。そんなに嫌なら、屋上から紐なしバンジーする?」

 ひ、紐なしバンジーって、大怪我じゃすまないよ?

 半泣きになりながら蹴られなかったリーゼントは首を振る。ま、まあ、怖いよね。助けられた私もちょっと怖いし。

「じゃあ食えよクソガキ。ちゃんと綺麗に食いなさいよ。少しでも残ってたら、鼻にフォークぶっ刺すわよ」

 お箸じゃなくてフォークですか?! 股が三つだから間に刺さっちゃうよ!

 不良達がすんごく可哀想に思えたのか、嫌がらせを受けてた側の生徒もつい助け舟を出そうとします。

「も、もう許してあげても」

「安心なさい。ちゃんと許してあげるわよ。尤も、今日一日中こいつらがタダ働きしたらだけど」

 ま、まあそれくらいは当然かもとは思うかなあ。ちらっと見れば、結構手間をかけたと思う装飾の数々。

「や、やらせていただきます」

 こくこくと従順に頷くモヒカンとリーゼント。もう完全に心折れてるね……

「ああ、壊れた器材の弁償と、こっちの客の料金も、あんたらが支払いなさいよ」

 と、美狐さんが勝手に零したお菓子を食べるはずだったお客さんを示す美狐さん。

「ええ?!」

「あ? あんたたちに選択肢はないのよ。わかった?」

 嫌そうな顔をしたリーゼントの顔の前に、どすっと床がへこみそうなほどの勢いで床を踏みつけ、美術品のように精緻で綺麗な顔を、鬼のような形相へと変貌させ不良を睨んで脅す美狐さん。

 これは、怖い。かなり怖い。

「ひぃ! わ、わかりました!!」

 凄む美狐さんに震え上がる不良達。この光景に、場にいるメンバーが私を含めて思わず口にする。

「鬼だ……鬼がいる」

 すると、美狐さんが振り向いてクールに艶笑する。

「違うわよ。鬼じゃない。狐よ」

 訂正した瞬間、彼女の影が狐の形に変わってにやけていたのは、恐ろしくて誰もつっこみませんでした。


「大丈夫だったアルト?」

 ごしごしと床を拭くモヒカンとリーゼントに背を向けると、美狐さんが聞いてきました。

 えっと、やりすぎだと思いますけど助けてもらえたんですから、ちゃんとお礼を言わないとね。

「ありがとう。お姉ちゃん」

 と、私が笑うと、美狐さんは一瞬遠くを見る目になりました。

「……心花」

 ぼそっと美狐さんが呟きます。え?

「え? どうしたのお姉ちゃん」

「え、あ……ああ、何でもないわ。行きましょう」

 と、美狐さんは私の手を掴んで歩き出しました。

 心花……か。美狐さんの記憶に関係ありそうだし、せつなくんに教えておこうかな?

「美狐さん、アルトちゃん!」

 と、教室を出たらくーこくんたちがこっちに駆け寄ってきました。

「あ、まいちゃん、くーこくん」

 はあはあと息を荒く息を吐く空狐くん。

「もう、心配したよ。でも、安心した」

「あはは、こんなに人いるから迷子にもなっちゃうよね」

 と、二人が笑う。

 むう、やっぱり子供扱い。でも、いいです。二人が私のこと心配してくれてるのはわかりますから。

「心配させてごめんね」

 私は二人の手を掴んで謝りました。

鈴:「すごい地震でした。東京にいた僕も立ってられないくらいで、がしゃんがしゃんってグラスやらが割れる音がしました。タンスやらも位置がずれ、高い位置に飾られていた写真やらも落ちてきました」

刹:「亡くなられた方、行方不明者も多いしな。テレビで惨状を見た時は驚いたな」

鈴:「この場で地震で亡くなられた方々のご冥福を祈らせていただきます」

刹:「そして、こんな状況でも、これを読んでいただければ幸いです」

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