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狐火!~狐少年の奮闘記~  作者: 鈴雪
第十六章 美狐さんのいる日々
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第八十四話 美狐さんと刹那くん


 美狐さんと舞さんと一緒に天野邸に向かう。

「そうですか、さっきの決闘はそのために」

「ええ、戦ってたら体が妙にうずうずと血が騒いだし。体を動かす毎にはっきりとしてきたわ」

 と、美狐さんが話す。ああ、そういう目的だったんだ。

 てか、さっきまで戦ってたのにもうそんなに仲良くなれるって、女の子はやっぱりわからん。

「空狐、あんたとうろつき廻っていた時にもね」

 僕?

「なんとなく思い出したけど、あんた、うちの兄貴と雰囲気そっくりよ」

「記憶戻ったんですか?!」

 お兄さんいたんだ。美狐さんみたいな妹って苦労してんだろうなあ。

 そこまで考えてデコピンされた。あいた!

「断片的なのよ。さっきからので思い出したところはいくつかあるけれど、肝心のところはまだ思い出せないわ。あと、あんた今失礼なこと考えたでしょ?」

 ああ、そうですか。勘がいいですね。

 とぼとぼと歩けばうちが見えてきた。対面の天野邸も十分見える。さて、刹那くんはこの難題を解決してくれるかな?

 インターホンを鳴らすとはーいと朱音さんの返事が帰ってきた。

「や、空狐、舞。なにか用?」

 朱音さんが家から出てくる。いつも通りの格好に、僅かなバニラビーンズの匂い。もしかしてシュークリームとか作ってたのかな?

 そして、朱音さんは美狐さんを見ると目を細めた。

「そちらの方は?」

「あ、この人は」

 僕が紹介しようとしてずいっと美狐さんが前に出た。

「玉藻美狐よ。あんたがこいつの言う専門家?」

 お互い観察するような視線が絡まる。

「正確にはうちの旦那ね」

 不穏な気配が空気を支配する。えっと、どうしたんだろ?

 そこでぴぴぴとなにかが鳴る。朱音さんはポケットからキッチンタイマーを取り出す。

 ふうと息を吐く。

「とりあえず上がったら。お茶出すわよ?」


 僕らの目の前にお茶とシュークリームが並べられる。

「君らはコーヒー派だったわね」

 と僕とイヴはコーヒー。

 美狐さんはじっとシュークリームを見つめている。なぜかアルトちゃんは美狐さんに懐いて隣に座っている。

「焼き加減は合格、香りもいい。後は味ね……」

「あのね、お姉ちゃんのシュークリームってスッゴく美味しいんだよ!」

 アルトちゃんも誇らしげに笑う。

 確かに、朱音さんのシュークリームは有名店に見劣りしないくらいすごく美味しいからね。

「まあ、食べながら話しましょうか」

 朱音さんの言葉に美狐さんの状況を話す。美狐さんはシュークリームを口に入れて、目を見開く。

「これは! 絶妙の焼き加減のサクサクのシュー生地に材料の持ち味を殺さない絶妙な甘さのとろーりクリーム。適度に作られた空間が軽さを演出して、全てにおいてパーフェクト!!」

 うわ、美狐さんべたほめ。

「あんた、なかなかやるわね」

 ニヤリとクリームのついた顔で笑う美狐さん。

「恐悦至極」

 にやっと笑う朱音さん。なんとなくその笑みを見て、二人は割と似た者同士だと思った。

「で、記憶ねえ。ずいぶん厄介なもんなくしたものね」

 朱音さんがずずっと紅茶を飲む。

「そうなのよね。ところで、あんたの旦那、専門家って聞いたけど?」

「ああ、それなら待って。あと十秒」

 十秒? なんか前にも似たことあったような……

「三、二、一……」

 朱音さんがコーヒーを淹れる。

「朱音、コーヒー」

 作業着姿の刹那くんが現れた。

 ゴシゴシと目元を拭う刹那くん。その顔や服のあちこちに油汚れ。

「ふあ、腕の回路がうまくいかないなあ……構造から見直すっかなあ?」

 そう呟きながら椅子に座って、朱音さんが差し出したコーヒーを飲む。

 そして、眠そうに丸まっていた背筋がだんだん伸びていって、ぴんとなる。

「あ、おはよう空狐、そちらのお嬢さんは?」

 ひしひしと美狐さんからの、本当に大丈夫か? と言いたげな視線が刺さる。

 大丈夫ですよ。多分……


「へえ? 記憶ねえ。ずいぶん厄介な」

「そうよ。自分が記憶を失った状況と場所に、自分が何者だったのかも含めて雲隠れしているのよね」

 刹那くんはポリポリ頬をかく。

「じゃあ、朱音よろしく」

 そしていきなり朱音さんに丸投げして僕は滑った。

「なんで私よ?」

「お前、記憶逆行の術持ってたろ?」

 何気ないその一言に朱音さんはへっ? と首を傾げ、ぽんと手を打った。

「忘れてた」

 忘れないでください! 精神関係の術は割と高度なんだから!

 ああ、美狐さんの視線がさらに痛く!

「朱音さん、記憶逆行ってなんですか?」

 舞さんが手を挙げて尋ねる。

「大まかな範囲の記憶を引っ張り出すものでね。前にド忘れを思い出すために組んだ術があるのよ」

 スゴいけど理由がショボい!!

「それで一度幼児退行しちまったんだよなあ」

 不用意な発言をした刹那くんが朱音さんに殴り飛ばされる。

 幼児退行……大丈夫ですか?

「それは試作品。今は必要な分まで遡れるから」

 朱音さんがそういうなら大丈夫かな?

 そして、朱音さんは美狐さんの後ろに立ち、両手を美狐さんの頭に触れない程度の空間で構える。

「行くわよ?」

「ええ」

 術が発動する。

 淡い光が美狐さんの頭を覆う。数秒すると光は消えて朱音さんが手を離す。

「どう? なにか思い出した?」

 美狐さんは少しの間動かずに、そして、ぽんと手を叩いた。

「そういえば明日、近場に新しい喫茶店がオープンする予定だった」

 その一言に僕ら全員がっくりした。

「他はなにかない?」

「残念だけどないわ」

 朱音さんはうーんと唸る。

「術に問題ないはずだけど……聞きにくい体質なのかしら?」

 朱音さんがうーんと悩む。

「じゃあ、刹那よろしく」

 そして、あっさり刹那くんに譲った。

「オッケー」

 そう言って刹那くんが取り出したのは……紐の付いた五円玉?

「まさか催眠術なんて言わないわよね?」

 美狐さんが汗を垂らして僕と同じ疑問を問いかける。

「なわけないよ。ただの気分」

 なんか安心したよ。

 刹那くんは糸を垂らして五円玉を揺らす。そして、空いている左手を翳し、たった一言。

「『思い出せ』」

 その場のなにかが変わった訳じゃない。だが『どこかを変えた』それだけは理解できた。

 それがなんなのかはわからない。そして、美狐さんは……

「言われただけじゃねえ」

 がくっと刹那くんは肩を落とした。


 刹那くんと朱音さんが相談し始める。

「術も『言霊』もダメってどうなってんだ?」

「これって彼女自身の法則が……」

「なら、やっぱり四……」

「だとしたら……だけど」

 僕の耳でも聞き取りずらい距離と音量で話す二人。

 一方の美狐さんは、アルトちゃんにおねだりされて尻尾をもふられていた。

「ふかふかー」

 楽しそうに尻尾をもふるアルトちゃん。

 美狐さんは少し不機嫌そうに尻尾を動かす。

「くーこくんの尻尾も綺麗だけど、お姉ちゃんの方がきれー」

 そりゃあ、男よりは女の方がねえ?

 そこで舞さんに肩を叩かれる。

「ねえ、空狐くん。尻尾出して」

 はいはい。

 舞さんに頼まれて尻尾を出す。すでにもふられることにはなれた。

 そして、話が終わったのか刹那くんたちがこっちに来た。

「魔術関係は全部ダメだったということで俺が発明したこの『記憶野復元メット~まさに、眠り姫だ~』を使って、記憶を……」

 そう言って刹那くんが取りだしたのは怪しげな機器やコードが大量に取りつけられたヘルメット。それを見た瞬間、全員が動いた。

 朱音さんと僕と美狐さんが同時にグーパンチ。

「そんな!」

「怪しげな道具!」

「使うなあああああああ!!」

 叩きこまれる拳に刹那くんがひっくり返る。そして、取り落としたヘルメットは、

「やあ!」

 舞さんの槍で両断され、

「えい!」 

 アルトちゃんのハンマーで叩き潰された。あ、アルトちゃんってハンマーなんだ。


 刹那くんは残骸の前で号泣していた。

「おおおおおおお、ひでえ、ひでえよお」

 発明した本人にしては子を奪われたような感じかもしれんが、すまん。それは信用できん。

 朱音さんは咳払いして、

「とりあえず、原因もわかりませんし、暫くはここに滞在していただいて」

「やだ」

 即答だった。言葉を途中で止められた朱音さんも呆気に取られる。

「あんた達から不穏な気を感じるからよ」

 その言葉にいつの間にか泣きやんだ刹那くんが、じっと美狐さんを見ていた。いつものおちゃらけた感じじゃない。

 もしや、今までのは演技か? 美狐さんにキャラを誤魔化すための。

「でも、どうするんですか? 住む場所もお金もありませんよね? 」

「別に良いわよ。どこでだって寝れるし、腹が減ったらトンボや蝶とか虫を食えばいいし、喉が渇いたら公園の水を飲めばいい話よ」

 なんつーワイルドな……

「確かに、意外とトンボやミミズとかってうまいしな」

 と頷く刹那くん。こらそこの悪食納得すんな。

 朱音さんに叩かれる刹那くん。

「でも、お風呂とかどうするの? 原因調べるならここには色々あるか、らいた方がいいと思うよ」

 さらに、朱音さんが美狐さんを説得しようとする。

 そして、美狐さんはため息をつく。

「わかった。そこまで言うならなら少しの間、ここに居させてもらうわよ」

 美狐さんのその返答に朱音さんはにっと笑った。

鈴:「どうも作者です」

刹:「どもー」

鈴:「美狐邂逅編はこれにて終了、次回からは本編に戻ります。にしてももう後二カ月で今年も終わるかあ」

刹:「確か今年中に終わらすって言ってなかったか?」

鈴:「頑張らせていただきます……」

刹:「おうがんばれ」

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