第六話 歓迎パーティー
尻尾を触られて二時間ほどたった。
その間、舞さんと明日のことをいくつか相談しようとしたのだが、なぜかすぐに部屋に戻されてしまった。
そして、その間、家に誰かが入る音も何度かあった。むー、何してんだ?
しかたないから、やることのない僕は自分の刀『天月』の手入れをし始めている。鞘から抜いた『天月』は僕が見習いというのも含め、滅多に使わないから、刃こぼれも、余計な汚れもない。 長さ約六十センチ鎬造り、刃紋はのたれの打刀。それなりの重さで重量バランスがよく、どんな体勢でも振りやすい。
この刀は僕が十三歳になった日に、母さんがくれた木霊家の家宝だ。はっきり言って値段は付けられないほどの価値がある。
本来なら木霊家当主が持つものなんだけど、刀との相性が僕が一番いいからといって渡された。
術式増幅率も、魔力強度も高く、ついてる特殊能力も含めて僕には少し宝の持ち腐れ感がある。
だから、手入れは念入りにしているし、この刀に相応しい使い手になるのは僕の目標の一つである。
拭い紙で刀から古い油を取り去る。
それからぽんぽんと打粉を振りかけて、満遍なく塗り付けていく。
次に新しい紙で粉を拭いてく。そして、最後に油を塗りなおして完了。
手入れの終わった刀を鞘に戻したら、
「空狐くん」
とんとんとドアがノックされる。タイミングバッチシ。
「何ですか?」
「準備終わったからこっちきて」
準備? なんのことだろ?
呼ばれて居間に入る。とそこに舞さんだけでなくなぜか龍馬とハルがいた。そして、その後ろには色とりどりなご馳走。
「え?」
にっと三人が笑って、
『ようこそ木霊 空狐くん!』
えーっと?
「あの、なんで二人が?」
舞さんの方を見る。だって、今日僕が来ること知らなかったよね?
「えへへ、実はね、さっきのあれ嘘」
「……嘘?」
舞さんが頷く。
「最初からみんなで、空狐くんの歓迎パーティーをやることにしていたんだ」
「え?」
くくく、っと三人が笑う。
「でも、今の空狐の顔よかったな」
「うん。びっくりしたって感じがありありと感じたよ」
「写真準備しといたほうがよかったね」
なんか、はめられたって感じがする。けど、三人が僕のためにパーティーの準備をしてくれたのは、とても嬉しかった。
「では、改めて空狐くんの歓迎パーティーを始めたいと思います」
舞さんが仕切りなおす。
その言葉を合図にソラがグラスを配って、龍馬がそれに紅い液体を注ぐ。
「それでは、このパーティーの主役空狐くんに一言お願いしたいと思います」
「え? あああああ」
いきなり指されても、コホン。
「えっと、本日はこのようなパーティーを開いて頂いて、まことに恐悦至極、感激極まりなく」
「空狐、何か変だぞそれ」
と龍馬が野次を飛ばす。うう、なるようになれ。
「うん、細かいことは除いて」
グラスを掲げる。みんなも掲げる。
『かんぱーい!』
チーンと澄んだ音が鳴って、中の液体が踊った。
よし、まずは一口。
おお、これは濃厚なフレーバーと奥行きのある風味、そしてフルーティー……ってかこれ、
「ワインじゃん!!」
しかもかなり上等だよこれは!
「わざわざ、奥の倉庫から引っ張り出してきたんだよ」
舞さんが朗らかに告げて一口飲む。
「僕ら未成年ですけど!」
「よいではないか、よいではないか」
「びみょーに用法が違うような」
「なら……お主も悪よのう?」
「聞かないで。 あとそれの用法も違うと思うよ」
僕のつっこみに、舞さんがため息を吐く。
「もう、空狐くんは硬いなあ。ほら、ハルたちは普通に飲んでるよ」
ほんとだ。二人とも普通に、しかもハルお代わりまでしてるーー!!しかも、こっち見ながら龍馬ニヤニヤしてるし。ハルは、少し不機嫌そう。
やっぱ僕がノリ悪いから?
「ね? 硬くならずにさ」
そう言って舞さんがぐいっと飲み干してお代わりを注ぐ。お代わりするんかい。
はあ、まあいっか。せっかくだもんね。
気を取り直して、僕もワインをもう一口飲んだ。
あと、一話か二話で一日目が終わりそうです。
がんばろう。