第七十九話 二日目はバーベキュー!!
朝、何時もの時間に起きて、布団から出て着替える。
着替え終えたらタオルと天月を持って部屋を出た。
顔を洗ってから、セミナーハウスの外で人払いの結界を張って、僕は日課の素振りを始める。はあ、山の中だから空気も美味しい。素振りにも気合いが入る。
が、そこで気づいた。なにかの物音、しかも同じように人払いの結界?
なんとなく気になって、一端素振りを止めてそっちに行ってみる。草をかき分けると少し開けた広場がある。そこで舞さんが動き回っていた。
いや、ただ動いているわけじゃない。杖の筈のムーンライトをまるで槍のように扱い、目の前の虚空を突き、薙ぎ払う。
数回の攻防の後に顔をしかめて後ろに飛びすさり仕切り直す。
僕の目にはだんだん、目の前の対戦相手が誰なのか見えてきた。身長は舞さんと同じくらい。得物は剣だろう。
舞さんはそんな敵に対して、槍を動かし逡巡、そして、意を決して飛び出す。槍のリーチを生かし、敵の剣の届かない距離から突き。だが、流され、懐に入られる。
槍の長所、リーチはこの時点で殺されるどころかデメリットとなる。相手も剣を構え直し、剣を振るい、消えた。
舞さんはふうっと息をついて体を弛緩させる。
「当たり前だけど、まだまだだね」
『いえ、この短期間では十分過ぎるほどかと』
そうだけどさー、とムーンライトに返しながら、舞さんは今のイメージトレーニングを反省し始める。
僕は黙ってこの場を去った。
僕は再び素振りを始める。だが、心ここにあらずというべき状態だろう。僕の心を占めるのはさっきの光景だった。
正直、未だに舞さんがこっちに関わるのは反対だ。
確かに舞さんの周りには関係者が多くいるけど、それでもだ。だいたい舞さんはなんで退魔士に関わるようなことを習い始めたんだ?
考えてみたけど、わからなかった。
僕は切っ先を下ろす。
人を理解するのは簡単じゃない。話を聞いたりして知るしかない。一度ちゃんと話さないといけないか。
僕は大きく息を吐いて、
「空狐くん?」
声に振り向いた。そこに舞さんがいた。
「おはようございます舞さん」
「おはよう空狐くん」
にっこりと舞さんが笑ってくれた。
お昼に僕らはセミナーハウスに近い場所に位置するキャンプ場に訪れる。今日はここでバーベキューでの交流会!
男性陣はかまどなど肉を焼くための、女性陣が肉や野菜など食材の準備を行う。
そして、準備を終えると桜子先輩が前に出る。
「えー、本日はお日柄もよく」
と言って周りを見れば今にも肉に食いつかんと飢える部員たち。
「まあいいや。喰えーー!」
『いただきます!!』
桜子先輩の号令とともにみんなが肉に群がった。
肉、肉、肉、肉〜♪
次々と網に載せられ、じゅ〜っと美味しそうな音を奏でる肉たち。炭火に滴る脂が焼ける匂いも素晴らしい。
どんどん減っていく肉。
と、舞さんがすすっと前に出る。
「先輩そのお肉はもう少し焼いて、あ、こっちは食べごろですよ。ハルちゃん、空狐くん、お肉だけじゃなくて野菜も食べないとダメだよ」
的確に舞さんは肉を配る。
焼き肉奉行だ! そういえばそんなところあったよ!
さ、さすがは舞さん。みんなもなんとなく舞さんに従っている。
「はーい、朱音さん特性ダレだよ」
そう言って朱音さんがみんなに特性ダレを配る。
さっそく頂くと、ピリリと辛く芳醇な香りのタレ。流石は朱音さん。
刹那くんはある程度せっせと食べると持参してきたクーラーボックスを抱えてなにかを準備している。
なにしてるんだろ?
そして、ほとんどの肉を食べ終えてしまった。
はふう、うまかった〜。
「はい、締めの焼きそばですよ」
そう言って、舞さんが鉄板で焼いた焼きそばをみんなに配る。
ソースには朱音さん特性ダレが入っているのか少しピリッとして美味い。
「はあ、満足」
思わずそう呟いて、
「まだだぞ空狐」
そう言って現れたのは、スイカを抱えた刹那くん。
桜子先輩が待ってましたと言うことはそういう係だったのか? まあ、おなかいっぱいだけどデザートは別腹だしね!
刹那くんはテーブルにスイカを置く。デザートにスイカ?
と思ったらよく見ればスイカは彫り物がされている。
あれは、飾り切り?! タイ王国の食材芸術の「カービング」か!? なんちゅう技術力だ!!
そして、ふっふっふと笑いながら刹那くんはスイカの天辺を外す。あ、外れるんだ。
「最後は俺特性フルーツポンチです」
……見た目派手なくせに中は地味だな。
皿にフルーツポンチを入れてみんなに配る刹那くん。スイカの入った普通のフルーツポンチ……じゃなかった。
水餃子が入っている。
『ちょっと待てい!』
桜子先輩以外は中身に突っ込みを入れる。
桜子先輩は普通に餃子を食べて、刹那くんはふっと笑って親指を立てる。
「一食即解(食えばわかる)」
……まあそういうなら。少なくとも桜子先輩は普通に食べてるし。
水餃子を一口頂く。ん?
「これ、杏仁豆腐?」
餃子皮が破れると中から出てきたのは少しミルクの味を感じる杏仁豆腐だった。
「こっちはマンゴープリンだよ!」
舞さんも驚きの声を上げる。
さらに甘い黒酢やら、フルーツが入っている餃子まで出てくる。
「っしゃあ! びっくり餃子のフルーツポンチ成功!」
あ、そんなの企んでたんだ。驚くみんなに喜ぶ刹那くん。朱音さんは呆れたようにため息をついてから笑う。
いつも思うけど、夫婦ってよりは手の掛かる弟と、しっかりものの姉って感じだよな。
「桜子先輩は刹那くんの企み知ってたんですか?」
フルーツポンチをおかわりしながらハルは先輩に尋ねる。
「んっ? 天野がやりたいって言ったからね。特技を生かした交流ってことでいい感じじゃん」
そういってにかっと笑う先輩。
そんなもんなのか?
まあ、みんな楽しんでるし、いいか。と、口の中に中身が赤く透けた水餃子を放り込んで…………ごふあああああ!!
辛! まず!! 水餃子の中にラー油がたっぷりいいいい!!
「あ、外れ引いたか」
刹那くんの呑気な声を聞いた瞬間、身体が動く。
「はあ!」
「ウェイク・アップ!!」
右足を高く上げる。その脚の周りをイヴがくるくる回る。そして、僕は高く飛び上がって……
「てやあああああ!!」
「テレキネシスゥゥゥゥゥゥ!!」
僕のダークネスムーンブレイクを真正面に受けて刹那くんは吹き飛んだ。てかなにテレキネシスって?
鈴:「どうも鈴雪です」
刹:「刹那です」
鈴:「二日目はバーベキューです!」
刹:「お前、最後のあれがやりたくて書いただけだろ?」
鈴:「いや、こういうのにはバーベキューはお約束だろ?」
刹:「まあ、そうかもな」
鈴:「それでは!」
刹:「また次回に」