第七十八話 さっそく練習!
バスが旅ホテルに到着してみんなで荷物を降ろす。
ほとんどは個人の持ってきた荷物であるが、部の衣装を含める練習で使う小道具もいくつかあるので、それらは男のメンバーが運び入れる。男子は301、女子は303、先生と朱音さんが304号室となっている。
ホテルはなかなか広い。さすがに練習するのは近所にある体育館だが、居心地はよさそう。
そして、荷物を部屋に運び込んで、刹那くんが真っ先に倒れた。
「せ、刹那くん、どうしたの?」
おそるおそる声をかけると、隈はないけど、どんよりとした目を僕に向ける。
「疲れた……」
それだけ呟いた。まあ、バスの中で色々な目にあったもんなあ……
やれ、どういった経緯で知り合った。名字が同じ理由はなんだ、卒業したらすぐに結婚なのかetc.etc.特に女子が色々聞いていたか。
まあ、表向き刹那くんは僕と同じ十五ってことになってるからなあ……あれ? そういえば、なんで高校に通ってるんだろ?
ふと、気になったけど、事情があるのだろうから聞かないほうがいいのかな。
それから、お昼にお弁当を食べてからさっそく、歩いて数分の場所にある体育館で朱音さんに僕らの演技を観てもらう。
今回、見せるのは文化祭で行う『魔王と一緒』というもの。
内容はある事情で隠居してしまった魔王が気まぐれで拾った娘を従者として傍に置き、次第にその彼女に特別な感情を抱くというものだった。
なんかそのあらすじをハルが発表した時、刹那くんはずいぶんと複雑そうな顔をしていたっけ。
今回、僕はその魔王に使える少女、ななせの役。また女装かよ……
あとの役は魔王役、舞さん、近くの村の村長役、山田先輩、村娘役、鈴宮先輩に桜子先輩、聖騎士役、刹那くんと石田先輩、その従者役、アルトちゃん。毎度のことながら龍馬とハルが裏方。てか、なぜこうも重要どころに一年生を? そして、舞さん男装かいな。
「ヴィジュアル。あとは、似合いそうだなっていう私の独断!」
と、聞いてみたら返ってきた。まあ、誰も不満言わないしいいのかな?
そして、僕らの練習を朱音さんが全体を見れる位置から観てもらう。
「あそこで照明、軽く揺らしてみるといいかもね。あと空狐、もう少し感情籠めて。あ、舞もここでの笑み小悪魔っぽくてよかったよ? 石田くんも、演技なかなかよかったわ」
反省会で、次々と朱音さんは、僕らの改善すべき点を指摘する。そして、いいところをしっかり褒める。
ただ、小悪魔っぽいっていうのはどうかな~と思う僕は若いだけ?
まあいいや。僕は自分の役を全力で演じればいい。
「細かいところを除けば全体的にいい感じね。学生のレベルにしては高いと思うよ?」
全体を通して見て朱音さんがしきりに感心している。
桜子先輩がよっしゃあとガッツポーズを決める。みんな結構喜んでるしね。
「でも、今日の朱音はずいぶん優しかったなあ……」
ぼそっと刹那くんが零す。
「優しい?」
結構厳しい時は厳しかったけど……
と、僕が思っていたら刹那くんはああと頷いた。
「俺を鍛える時なんか、このウジ虫! とか海兵隊風の罵り方でげべ!!」
刹那くんが僕に語っていたら、朱音さんの真空飛び膝蹴りが刹那くんの顔面に突き刺さった。
しゅたっとスカートを綺麗に翻し着地する朱音さん。
「で、なにか意見あるかな?」
笑顔で振り向いた朱音さんに、全員ぶんぶんと首を振った。
「いったあ」
練習後、晩御飯を食べてから、男子部屋に戻った刹那くんは着替えを出しながら、蹴られた頬を擦る。
まあ、自業自得ってことだな。僕も風呂の用意をしながら冷めた視線を送る。
さて、風呂に入りますか。
そして、風呂。かぽーんと桶を叩くような音が聞こえてくる。
「はあ、いいお湯だなー」
風呂の温度は熱すぎず、それでいて温くないちょうどいい温度。疲れと言う老廃物が身体からにじみ出るようだ。
「だなあ、疲れが取れるぜ」
そう言って刹那くんは縁に寄りかかりながら目を細める。まあ、君は特に今日お疲れだろうしね。
うんうん、平和平和。今は部員しかいないからゆっくり入れるし。
僕はゆったりと身体を広げる。
「くうこくーん、そっちはどお?」
仕切りの向こうから聞きなれた声が飛んでくる。
「いいお湯ですよー!」
すぐに返すと今度は朱音さんの声。
「あははー、刹那とまた覗きなんてしてないよねー?」
って、うおい!
「してねえよ!!」
「ないですよ!!」
すぐにそう返して……は?!
先輩達から『お前らそんなことしたんか?』といった白い目。
そして、風呂からあがると、女性陣から軽蔑の眼を向けられてたような……しくしく。
そして、就寝時間、僕らは眠って……いなかった。
布団から顔を突き出して話をしている。
「で、木霊って本当に倉田さんと付き合ってないのか?」
「いや、付き合ってなんかいませんよ、ただの弟分としか思われてませんって」
石田先輩の言葉に首を振る。こういった行事での恒例というべきか、いつの間にか好きな相手の話とかになっていた。
「まあ、君がそういうならいいが、もう少し自分に自信を持たないとな」
と山田先輩が漏らすけど、僕は曖昧に笑った。自身を持てって言ってもね……
そんな感じで、合宿の一日目は深けていく。
鈴:「どうも、鈴雪です」
刹:「刹那です」
鈴:「合宿編一日目終了」
刹:「次は二日目か」
鈴:「予定では三泊四日の合宿なのであと数話は合宿の話な予定」
刹:「俺はその間どれだけいじられるんだ?」
鈴:「まー、まー」
刹:「てめえのせいだろうが!」
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