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狐火!~狐少年の奮闘記~  作者: 鈴雪
第十四章 舞の頼み、そして挑戦
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第七十六話 舞の才能

 舞さんと刹那くんの決闘から一晩がたった。

 朝、物音がしないからどうしたんだろ? と、こっそり部屋を覗いてみたら、いつもなら起きる時間になっても、舞さんは泥のような深い眠りについている。やっぱり疲れたんだね。

 にやーと緩む笑みになんか怖くなったのは秘密である。

 とりあえず僕は舞さんを起こさないように、気をつけながら代わりに家事をこなして家を出る。

 目的は天野邸、朱音さんに少し聞きたいことがある。


 インターホンを鳴らす。

「はーい、って空狐?」

「こんにちは朱音さん」

 すぐに朱音さんが出てきてくれて、頭を下げて挨拶する。

 そして、居間に案内してもらってから意を決して聞いてみる。

「今日はどうしたのいきなり? 訓練は休みって言ったと思ったけど」

「えっと、舞さんのことなんですけど、昨日のあれ、どうやったんですか?」

 はっきり言って昨日の戦いは異常の一言につきる。

 確かに舞さんのお父さんは退魔士の名門『蔵杜』の分家筋の人だったから、魔術の適正が高くても驚かない。

 だが、たった数週間かそこらの訓練で、なにをしたのかわからないけど特級退魔士に勝てたのは異常でしかない。

 なんか策とかあったみたいだけど……

 だから、朱音さんに聞くことにした。なにせ舞さんに魔術を仕込んだのは朱音さんだ。朱音さんならなにか知っているはずだ。

 対して朱音さんはポリポリ頬をかいてから、

「これを見てみなさい」

 と一つのバインダーを差し出してきた。

 ええとこれって、退魔士用の身体検査の記録?

 なんだろうと考えながらピラッとページを一枚捲る。そこには舞さんの名前と顔写真があった。これは、舞さんのデータ!?

「魔法を教え始めた時に、試しにやらせてみたのよ」

 朱音さんの言葉を聞き流しながら、すぐに目を走らせる。体重と胸囲に関しては黒塗りされてて見ることはできないが、今は関係ない。

 ぴらぴらとページを捲り、パタンとバインダーを閉じる。

 ……ふむ。

「そういえば今日は『不屈のなのは』の発売日でしたね」

 プロモカード付きの初回限定版を予約しといたのに忘れるところだった。危ない危ない。

「いや、それ来週だし。現実を見ようよ」

「はい……」

 朱音さんにつっこまれて再びバインダーに目を向ける。

 そこに載っているデータで身体能力自体は至って普通。

 だが、次の項目、動体視力、反射神経、空間把握能力など、神経を使う能力が突出している。

「なんとアンバランスな……」

 僕は冷や汗をかく。朱音さんも困ったように苦笑を浮かべる。

「なんていうかあの子、直感や空間把握に関しては異常なのよ。試しに振り子が動き回る部屋に目隠しして入れてみたんだけど、一回も被弾せずに出てきたんだから」

 なんと、まさかこんな異常な才能の持ち主だったとは……

 今更ながら戦慄する。でも、

「確かにこれだけでも凄いですけど、それで刹那くんに勝てるんかなあ?」

 舞さんが磨けば直ぐに光る原石だったってわかったけど、まだピースが足りないと思う。

 やはり戦闘中に舞さんが呟いたなにかの力なのか?

 何だろう。聞きたいけど、聞いたらいけない気がすごくする。

「まあ、そこはあの杖のお陰でしょうね」

 頭の上に寝そべっていたイヴがボソッと呟く。ああ、そういえば乗っかってたね。

「杖のお陰って?」

 イヴに問い返す。刹那くん特注の杖。確かに性能はすごいけど、どういうこと?

「空狐は気づかなかったみたいだけどあの杖、私のガングニルがベースになってるのよ」

 え? まじ?!

「で、ガングニルは持ち主に闘法を与えるの。舞が闘えたのも、たぶんそのお陰もあるわね」

 そ、そんな機能があったのか。だから舞さんはあんな風に動きまわったり、朱音さんのスターダスト・インパクトをコピーできたのか?

 でも、これだけ材料が揃えば刹那くんにも勝てるかも?

「まあ、いずれにしろ舞には異常なまでの才能があるって納得しなさい」

「はい」

 なんとなく舞さんとの将来が不安になる話だった。


 空狐が帰ってから部屋に向かうと、未だに唸り声が響いていた。

 まったく……まだ悶えてるの。私が断りもなく部屋に入ると刹那は布団に包まって悶えていた。

「刹那、いい加減起きたら?」

「ううう、父さんと母さんの馬鹿……」

 私の呼びかけに返事を返さない上に、ついには両親のせいにし出したよこの子。

 まあ、言っておくと、刹那の趣味は両親譲りである。

 刹那の父親がポエムを作るのが趣味で、刹那も子供の頃、おばさんにお父さんのポエム集を見せてもらったりして、知らぬうちにポエム作りが趣味になったみたい。

 ただ、刹那の感性は母親譲り。なにせ、おばさんはメルヘンな人だったものね。

 刹那と一緒にポエムを作ったのを聞いた時、あまり似てない二人も『ああ、親子なんだ……』とついつい納得した覚えがある。体中が痒くなったこともよく覚えている。

 懐かしいなあミアおばさん……余談だけど、実験好きなのは父親譲りらしい。

「ほら、早く出なさい!」

 無理やり刹那を布団から引きずり出す。

「むううう」

 いやそうに起き上がる刹那に、私は何度目になるかわからないため息をつく。

「なんなら、またリードつけて散歩してあげようか?」

 ああ、あの時はかわいかったなあ。電信柱見たらマーキングしたくてうずうずしてたり、頭を撫でると嬉しそうに尻尾を振ったりして。またやってみたいわ。

「起きました!!」

 しゃきっと、刹那が立ち上がる。よろしい。

「まあ、元気出しなさい。もう、こんなことはないだろうし」

「ないことを願うよ」

 げっそりと刹那はそれだけこぼした。

鈴:「と、空狐に無理やり舞の才能を納得させた回です」

刹:「次回からは合宿編だったか?」

鈴:「うん、それで夏休み編はおしまいになる予定だよ」

刹:「ずいぶん急だな……」

鈴:「いい加減物語がダレて来てるので足を早くしようかと」

刹:「そうか……」


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