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狐火!~狐少年の奮闘記~  作者: 鈴雪
第十四章 舞の頼み、そして挑戦
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第七十五話 決戦! 舞VS刹那

 決戦当日、愛剣の『永久』を携え、俺はアトリエの砂浜で舞を待っていた。

「頼むぞ永久」

『うん、僕らを甘く見た彼女を驚かせて上げるさ』

 永久もやる気満々、さあ、いつでも来い!


 一時間後、見学の為に空狐とアルトがアトリエに入ってきて、急遽砂浜の一角に造られた観戦席に座っている。そろそろ舞も来るかな。


 さらに一時間後、俺は膝を抱えて波打ち際を眺める。

『彼女来ないね』

「うん」

 永久の呟きに小さく俺は頷く。

 見れば空狐とアルトは暇つぶしに水切りで遊んでいた。あ、六回跳ねた。


 そして、さらに二時間後、イヴが必殺大車輪山嵐水切りを完成させた頃にやっと、やっと舞と朱音がアトリエに入ってきた。

 ふっ、巌流島の宮本武蔵を参考にしたんか? だが、しかし、俺は船のオールで倒されたりはせん!!

「ごめんね、ちょっと遅れちゃった」

 舞が笑いながら謝る。

「三時間くらい待つなんてどうってことないさ」

 そう、この程度ならまだ我慢できる。だが、俺の言葉にえっと舞が零す。

「七分遅れじゃなくて?」

 ……おりょ?

 少しの間、静寂が走って、ポンと朱音が手を叩いた。

「ああ、アトリエ内は時間が加速してるから」

 あっ、忘れてた。

 その途端に舞は引きつった笑みを浮かべる。

「ご、ごめんね刹那くん! 私気付かなかった!」

 謝る舞にいいよいいよと俺は宥める。

 この時に気づけば良かった。彼女が小さく笑っていたことに。


 アーマードドレスを着込みムーンライトを構えた舞と俺は砂浜で対峙する。

「それでは、『ドキドキ☆舞の魔術習得なるか決戦!』を開始します。協会ルールに従い、非殺傷設定でお互いの良心にかけて全力を尽くし、降参、もしくは気絶した時点で決着の一本勝負」

 間に立つ朱音が朗々と口上を述べ、

「それでは、始め!」

 朱音の号令とともに動き出す。

 舞は砂浜を強く蹴って後ろに飛び、水の上を走るための術『虚脚』を展開し、足元の水を固着して水上を走る。対してこっちもそれを追いかける。さて、まずは出始めに……

 手元に魔力を集め、舞に向けて打ち出す。空狐にも使った炸裂式の魔弾だが……目の前でいきなり弾が炸裂した。

「うわっ!」

 体勢が崩れる。見ればムーンライトの先端に魔力の残光。

 撃った瞬間に撃ち落としたのか。正確な射撃なのはわかってたが、一週間前より早くて鋭い。むう。

『すごいね彼女』

 永久の意見に同意する。

 次に展開するのは空狐戦に使った魔力の槍。これなら、そう簡単に撃ち落されないはず。魔力を手に集め、槍状に収束しようとして、ぼそっと舞が俺に聞こえる程度の声で呟いた。

「Why my sister」

 ……はい? なんて言ったのかのな、かな? Why my sisterでしたっけ?

 槍の収束が乱れた。

 ななな、なんでそれを!?

「なぜたった二人の家族なのに、なぜたった二人の兄妹なのに、なぜ僕を嫌うのかな?」

 びし!

 紡がれた一説、に体が石になる。

 あ、あ、あああああ!!

「うふふっ」

 そして、舞のまるでなんでも知っているぞと言いたげな笑み。言い知れない悪寒が全身を襲い、止まっていた術式の構成が一気に制御を失い崩れる。

「スターライトバスター!!」

 撃ち出される砲撃魔術。それが、術の制御を離れた魔力の塊を撃ち抜く。あ、やば……

 制御を失い、外部から力を加えられた魔力が暴発する。

 視界が俺の魔力の色と舞の色、黒と蒼に染まった。

「ぎゃっ!!」

 自分の悲鳴がまるで他人事のように感じる。

 自身の集めた魔力の暴発に巻き込まれる。不意を突かれた程度だからダメージは低い。でもこんなのありなのか?!

 朱音がオブサーバについているから予想すべきだったが、まさかこんな手を使うなんて。

 だが、大丈夫だ、落ち着け。冷静になって対処すればどうにかなる……はず。そう自分に言い聞かせながら剣を構えなおす。しんどい戦いになるとは思うけど……耐えろ俺。

 前に飛び再び牽制用の術を編む。動きながらなら、言葉で構成を崩せても暴発を狙うって遣り方は難しいはず!!

 だが、冷静に舞は優雅な、だけども俺には悪魔にしか見えないような笑みを浮かべながら杖を動かす。

「Sky high」

 うげ! 昔の大学ノートに書き込んだもの?! なんでそこまで知ってるんだよ!! あれはもう処分したはずだ!!

 構成が崩れかけ、足も止まりかけるが、無理やり足を動かす。水面を蹴って、水飛沫が上がる。

 心の底から楽しそうに舞は微笑みながら朗読を始める。

「空は青くて、綺麗で、いつまでも眺めていようよ、泳いでみようよ」

 耐えろ、動いてんだから正確には当たらな、

「トルネードバスター!」

 カートリッジを消費して撃ちだされる砲撃。

 先ほどの砲撃の倍近くの速度でそれは迫り、手元の術を寸分の狂いもなく撃ち抜く。

「ぐあ!!」

 再び炸裂する術、くそ! まさかここまで正確に当てられるなんて!!

 舞の才能に戦慄する。だが、かっこつけた以上、このまま終われるかあ!!


 私は空狐の頭の上で二人の戦いを観戦。

 舞は初めての戦闘に対する緊張なんて微塵もない不敵で楽しそうな笑みでなにかを呟く。そのたびに刹那は術の構成を乱し、制御を失いかけた術に追い討ちのように砲撃を撃ち込む。なんていうか、空回りしている刹那が滑稽ね。

 ちょっと周りに視線を移す。

 空狐は舞と刹那の戦いに戦慄していた。まあ、びっくりよね。優しいお姉ちゃんみたいな印象を舞に持っていただけに。

「い、一体なにを言われてるの?」

 戦いどころではない刹那にどうしたんだ!? と狼狽している。まあ、がんばんなさい。きっと、これから尻に敷かれるだろうから。いや、元から半分しかれてたわね。

「ふーん、私の時よりも思ったより効くんだ」

 朱音がなにやら感心したように呟くが、空狐にはよく聞こえなかったみたい。

 朱音、あなた悪魔ね。自分の旦那の黒歴史を切り札にさせるなんて。

「舞ちゃんたのしそー」

 アルトは無邪気に二人の戦いを見ている。中身はそこそこの歳だしただそれだけじゃないのもわかってるわねきっと。本当に面白いものを見ている笑顔だもの。

「そうねえ」

 そう返しながら視線を戻すと、一気に戦いの流れが進んだ。


 ああ、くそ! なんなんだ、なんなんだよこれ!! さっきからこっちは攻撃一つできないじゃないか!!

 焦りが募る。しかも舞は構成を崩した術だけを狙って、俺にはまだ直接攻撃を入れていない。つまり、まだ余裕があるとも取れる。

 くそ、本当に負けるぞこのままじゃ!

 ああ、だから落ち着け、こう言う時こそ落ち着くんだ。素数を数えろ、素数は孤独な数字、俺に勇気を与えてくれる。

 ゼロ、一、三、五……あれ? ゼロって素数だったっけ? って、違うだろ!

 こ、こうなったら接近戦だ! バスター使えない距離で魔術を使わずに!!

 足の裏に集めた魔力を炸裂させ、前に飛ぶ。だが、

「わんわん事件」

 ぴしっと、体が固まる。そ、それは……

 思い出したくない。ブラックホールに放り込みたい記憶が、脳裏に浮かび……

 は! そういえば、そろそろあの映画の前売り券発売の時期だっけ。忘れてた。

 せっかく朱音と一緒に見に行こうと思ってたのについ忘れてたよ。まったく、しっかりしようぜ俺。明日、買いに行こう。

 映画ならコーラだな。ポップコーンと一緒に食べる。ポップコーンならキャラメルだ。あの香ばしさと甘さのコンビネーションがなんとも言えないのさ。

「魔道実験中に起きた事故で--」

 きゃうん!

 面白そうな舞の声が現実逃避すら許さず、俺の意識を無理やり現実に引き戻す。

「刹那くんに犬耳と尻尾が生えた事件だったんだってね。副作用の犬の本能のせいで穴を掘って靴を埋めたり、朱音さんにリードを持ってもらって散歩に行ったりしたんだってね?」

 あ、あはははは。

 何だろう、舞を見ていたはずなのに、だんだん海面が近づいてるぞ?

 ああ、舞の言葉に足場を作る術の構成も崩れたのか。だから空中でバランスを崩し、水面に激突していたのか。でも、もうどうだっていい。

 止めどなく流れる涙と水しぶきで霞む視界が一瞬悪魔の姿を捉えた。

「勝った」

 満面の笑みで舞が呟きと共に穂先をこっちに向けるのが見えた。

 おう、さっさとトドメを……


 突然、空中で刹那くんがバランスを崩した。

 え?

 そして、水面に叩きつけられる刹那くん、舞さんはなにかを呟いてから、腰打めに構えた杖の穂先を刹那くんに向ける。そして、

「スターライトバスター! アクセルバスター! トルネードバスター!」

 バスターの三連撃、操り糸が切れた人形のように力なく吹き飛ばされる刹那くん。

 だが、そこで終わらない。舞さんはムーンライトを突き出す。

「一撃入魂!」

 その先に集まる魔力の塊……って、これってまさか!!

「スターダストォォォォォインパクトォォォォォ!!」

 収束された魔力が解き放たれ、奔流と呼ぶのも生易しい光の球が刹那くんを撃ち抜いた。

 やっぱり朱音さんの十八番、スターダストインパクト!!

「朱音さん、こんなのも教えたんですか!?」

 追い討ちをかけたことよりもこっちに驚く。だが、朱音さんも引きつった笑みを浮かべて首を振る。

「ううん、練習で一回せがまれて見せたっきりだけど」

 なん、だと? つまり、見ただけで再現したってこと?

 どうやら朱音さんも同じ答えにたどり着いたらしく、二人して絶句するのだった。


 舞さんの手によってずたぼろになって浜に打ち上げられた刹那くんを回収する。

「へっへーん! 見てたよね空狐くん! 私、刹那くんに勝ったよ!!」

 そんな僕に嬉しそうに舞さんが胸を張る。

「え、ええ、そうですね」

 僕はなんとか笑顔を浮かべながら朱音さんに刹那くんを渡す。正直、今は舞さんがすごく怖いです。特級退魔士の刹那くんを駆け出しの舞さんが倒す。正直、才能どころの話じゃないよなこれ?

 イヴは楽しそうに「ああ、この子が成長するのが楽しみね」なんて言ってるけど僕はちょっと不安です。てか、戦闘中の笑み、あれは演技ですよね? 演技!

「だから、魔術の練習これからも続けるからね!」

 舞さんの言葉に頷く。約束だもんなあ……

 僕はしぶしぶ答える。刹那くんが勝てなかったんだ、僕が勝てるわけないしね……才能って怖い。


「うう、あああ、朱音、なんであんなことまで教えたんだよ……」

 治療を終えてから恨みがましく朱音を睨む。

 わんわん事件。正直忘れたい記憶である。危うく本能に従って電柱にマーキングしたくなったりとか、お手をしてしまったりとか……ぐああああ! 思い出したくない!!

「まあまあ、でもあの時の刹那はかわいかったよね。お手したし、おかわりしたり。頭を撫でると千切れそうなくらい嬉しそうに尻尾を振って……」

 思い出しながら朱音はほうっとため息をつく。

 そ、それ以上言わないでくださーい!!

刹:「ぐふああああああ!!」

鈴:「ええどうも鈴雪です。お待たせしてすいません。約一ヶ月ぶりに狐火投稿しました」

刹:「ぐおおおおおおお!!」

鈴:「刹那、舞に黒歴史攻撃で敗れるの回です。舞のサディストっぷりをしっかり見せられてたらと思っています」

刹:「いううううううう!!」

鈴:「えー、横でうるさく悶絶してる馬鹿がいますが気にしないでください。それでは、また次回に」

刹:「きゃんきゃんきゃん!!」

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