第七十四話 前夜祭パート2
舞と朱音は今度の刹那との決闘のための猛特訓を続けていた。
「短時間で多くは詰め込めない。なら得意なところをとことん鍛える!」
「はい!」
朱音の言葉にアーマードドレスを纏った舞が自身の杖、ムーンライトを構えながら力強く答える。
その先には舞の砲撃で破壊されたいくつものターゲット。
「刹那は重く堅い叩ききる剣。なら舞、あなたは槍になりなさい! 鋭く研かれた全てを貫く槍に!」
「はい師匠!」
ムーンライトの先端に魔力が集まり、澄んだ蒼い魔力光が輝く。舞はそれを標的に向ける。
「砲撃の極意は!?」
「敵に先んじて撃ち、貫き、押し通す!」
朱音の問いかけに舞は叫びに近い声で答える。
「よし! 行きなさい!」
朱音の言葉に舞がトリガーを引き絞り、極光が解き放たれた。
僕は二人の特訓を離れた場所から眺めている。
決闘が決まって数日、朱音さんは舞さんに力を入れてるせいか僕はたまにこんな風に暇になる。いや、普段はちゃんと自主トレやるよ? でも今は休憩。
朱音さんの指導の元、舞さんの砲撃はドンドン化け物じみてきている。得意なもの一本に鍛えてるとはいえ、この成長速度は異常だとしか言えないくらい。
一方刹那くんはというと……
「おーい、空狐これ見てくれよ!」
だいぶ興奮した刹那くんが塔からこっちに走ってくる。
その手には銃とビデオカメラを足して割ったような銀色のもの。まさか?
「ついにできた! デルタムー」
言い切る寸前にその手からそれを奪う。ミッションメモリーがインサートされてることを確認しつつ距離を取る。
「Check!」
『EXCEED CHARGE』
引き金を引きながら音声入力すると、電子音と共にエネルギーが充電される。
よし。銃口を刹那くんに向ける。
「やあ!」
引き金を引けば銃口から光弾が飛ぶ。
「げふ!」
その光弾が命中すると、相手をロックオンするための束縛が伸び、刹那くんを拘束する。
動けなくなったことを確認し、一気に助走を付け、砂浜を強く踏み込み飛ぶ。
クルッと空中で一回転して足を突き出す。
「君は一体何を作ってるんだあ!!」
そして、僕のライダーキックが刹那くんに叩きつけられた。
「ぐおあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
Δの紋章を刻みながら刹那くんは遠く砂浜から十メートルほど先まで吹き飛ばされた。そして、一拍置いて爆発。高い水柱が沖合いであがる。
「本当のバカね」
「まったくだ」
頭の上に座るイヴの呆れ果てた言葉に同意する。
あんなものまで作る技術はびっくりだけど、その才能をもう少し有効に活用するべきだとつくづく思う。
数分後、僕たちは土左衛門みたいな姿で浜に打ち上げられた刹那くんを発見。
「大丈夫?」
とりあえず近付いてしゃがみ込む。あんな爆発を起こしたはずなのに特に外傷はない。刹那くんはゆっくり顔を上げて、
「痛いだろ」
とだけ言って力尽きた。それだけで済む君はスゴいよ。
「お疲れ様でした!」
二時にアトリエを出て、その後も軽く訓練をしてから四時に解散する。
「明日もお願いします」
「うん、がんばろうね舞」
うん、こういう風に僕も別れたいんだけど……
「次は馬鹿なことしないでね」
「うるせえ」
僕らはこうなんだよなあ。
で、今日の分の特訓を終え、家に帰るのだが、最近は少し家が辛い。だって……
「ほら、空狐くん、ちゃんと食べてよ。お代わりだってあるんだから」
舞さんが笑顔で催促するが、僕の手はなかなか動かない。別に食欲がないわけじゃない。ただ、食卓に並ぶものが問題だった。
ご飯は普通、だがおかずはピーマンの肉詰め、レバニラ、生のセロリとオニオンのサラダなど僕の苦手なものばかり。
ご丁寧に味噌汁すら具にピーマンが入っている。
最近の食卓はこんな感じで必ず僕の嫌いなものが入っている。僕が出されたものは例え嫌いでも食べるんだから、僕に対する嫌がらせ以外に意味がないよなあこれ。
「一杯食べてね空狐くん、好き嫌いしちゃだめなんだからね?」
「ほらほら、さっさと食べなさいよ空狐」
舞さんとイヴに急かされて僕は夕食を掻き込む。ああ、もうどっちが勝ってもいいから早く終わって。普通に楽しいご飯を食べさせて……
後、数日は続く苦行を思い、僕は今日も枕を濡らすのだった。
鈴:「お、お久しぶりです」
刹:「今回ずいぶん遅かったなあ」
鈴:「いやあ、教習所とか学校の用事とかでなかなか筆が進まなく」
刹:「言い訳はいいから」
鈴:「はい、ごめんなさい……」
一ヶ月ぶりの投稿です。忘れられてたりしないですよね?