第七十一話 向日葵
舞さんを天野邸に準備した会場に連れていくと、
『ハッピーバースデー! 舞!!』
クラッカーの炸裂音が鳴り響いた。
頭に紙吹雪とか乗っけたままキョトンとみんなを見る舞さん。
それなりに広い庭に三つの白いカバーが被さったテーブルとその上に置かれた料理に、生けられた向日葵。
それからみんなが次々とおめでとう。と言う言葉をかけられると、少しずつ表情が変わり、ついには泣き出してしまった。
「み、みんなありがとう……わ、忘れられちゃったのかと思ってた……」
舞さんの言葉にハルが笑う。
「なに言ってるの舞? 忘れるわけないじゃない」
龍馬も頷くと舞さんは涙を拭って笑顔になる。
「ありがとうみんな」
笑顔になる舞さんにみんなが笑う。
「よっしゃあ! まずはプレゼントからだな!」
刹那くんは楽しそうに布に包まれた何かを持ってくる。その先端は二周りほど大きい。
「見よ! 我が技術の結晶! 最新にして最高の機械魔術具!!」
そう言いつつ刹那くんは舞さんにそれを渡す。あ、見よって言ったけど自分で見せるつもりはないのね。
舞さんがいそいそと布を剥がすとそれの全貌がわかった。。
それは杖だ。この前見せてもらった舞さんように作り直すと言っていたあれ。
完成品なのか以前のように銀の地は出ていない。先端のパーツの中心にある青い宝玉に二股の槍のような金色のパーツ、柄と先端を繋げる青いパーツにカートリッジ。
「わ! まるで手に吸い付くみたい」
舞さんが楽しそうに杖を握ってくるくる回したり構えたりする。
「当然! 舞さんの身長と手のサイズ、さらにはこれまでに得たデータから可能な限り合うように作ったのだから!」
胸を張る刹那くん。まあすごいっちゃあすごい。でもなんか変態チックにも聞こえるんですが?
「これが取り扱いマニュアル。緊急時用マニュアルも入ってるからよく読んどいて」
そう言って刹那くんが渡したのは辞書並の厚さを持つファイル。
機械式になるとそういう弊害もあるのか……
「今回の杖には出来うる限りの工夫を盛り込んでみた。術者を補助するためのAIに、カートリッジも出力補助だけでなく特殊弾頭を使うことで、」
刹那くんが杖の素晴らしさを説明しだすが僕らは無視してプレゼントを続けた。
「バカはほっといて次いきましょー!!」
イヴの言葉にみんなが頷く。
まず先鋒は朱音さん&アルトちゃん。
「じゃあ次は私とアルトちゃんから」
「まいちゃん誕生日おめでとう!」
朱音さんに促されてアルトちゃんが綺麗に包装された贈り物を渡す。
丁寧に舞さんが包装を解くと、中身は桜色の可愛らしいワンピースだった。
舞さんがわあっと目を輝かせる。
「アルトちゃんと色々見て買ってきたんだ。好みだったらいいんだいけど」
舞さんが首を振る。そして、ぎゅっと抱きしめる。
「すごく素敵です。ありがとうございます!」
嬉しそうな舞さんに二人が微笑む。
「じゃあ、あたしからも」
そう言ってハルが渡したのは……本? しかも片方はずいぶん年期入ってそうな……
「舞が欲しがっていた『今日の献立百選』シリーズに草壁宗治著『料理の心』だよ」
舞さんはそれを受け取るとすぐにパラパラ捲って内容を確認。嬉しそうに笑う。
「『料理の心』は絶版なのに! ありがとうハルちゃん!」
喜ぶ舞さんを見て笑うハル。
そして龍馬が続く。
「じゃあ、俺からはこれ」
龍馬が出したのは虎柄の猫のクッションだった。強く抱きしめるとにゃあと鳴く機能まである。
「りょーまくん、ありがとう! この子すごくかわいい!」
嬉しそうにクッションを抱きしめる舞さん。
さて、ラストは僕ですか。僕はポケットから手のひらに乗るほどの大きさの小箱を取り出す。
「僕からはこれです」
そう言って舞さんに箱を開けて渡す。中身は指輪です。
「舞さん、前にそれ欲しがっていたよね?」
そう、前に遊びに行った時に舞さんが欲しそうに小物店で見ていたものです。
舞さんは顔を紅くして僕の言葉にこくこく頷く。
「ありがとう……すごく、嬉しい」
そう言ってそっと指輪を胸元に抱きしめてくれます。
「空狐のくせに気の効いた贈り物ね」
イヴが揶揄してくるけど気にしません。
と、舞さんがあれっと首を捻っていた。
「く、くうこく~ん、これサイズ小さいよ~」
え!? しまった! サイズとかちゃんと考えてなかった!!
だけど、朱音さんが助け船を出してくれました。
「あ、なら」
と言って、すぽっと、指輪を嵌めてしまう。
舞さんの左手の薬指に……えええ!? ぼんっと赤くなる僕ら。
「あ、朱音さん!!」
何をしてるんですか!? 舞さんも恥ずかしそうに指輪を見る。
「なにって、ちょうどよく嵌りそうだったから嵌めただけだよ?」
だからって、そこはないでしょ! そこは!!
舞さんも真っ赤な状態でうわ言のようになにか呟いてた。
そんなこんなでパーティーは楽しくみんながぶっ倒れるまで続いてお開きになりました。
…………うん、みんなごめん。こっそりイヴが酒混ぜてたのに全然気付かなかった。あいつ、僕とアルトちゃんには入れなかったんだもん。
そして、僕と朱音さんにアルトちゃんはみんなの介抱に奔走することとなった。
「ごめんなさい。僕がちゃんとイヴを見張っていれば……」
「いいの。それにいつものことだし」
朱音さんはそう笑ってくれますがやっぱり心苦しい。今度、保護責任者としてガツンと言ってやらんと。
僕はそう決意して、
「ところで空狐、あれ」
朱音さんが何かを示します。それは……生けられた向日葵。
「向日葵がどうしたんですか?」
朱音さんはくすっと笑います。その笑みはとても艶っぽくドキッとする。
「あの花の花言葉ってなにか知っている?」
向日葵の花言葉? 僕は首を振った。朱音さんの質問の意図がよくわからない。
そう、と言って朱音さんは再び向日葵に視線を戻す。そして、
「向日葵の花言葉、それは」
一度区切って、柔らかく微笑み、
「『あなただけを見つめてる』」
教えてくれました。まるで大切に抱きしめていた言葉を放すように、そっと。
「大切にしてあげなよ」
朱音さんの言葉に僕は小さく頷いた。
ハッピーバースデー舞。
そして僕。