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狐火!~狐少年の奮闘記~  作者: 鈴雪
第十三章 コミケ
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第六十六話 作業開始

 そして作業が始まる。

 刹那くんは残りのペン入れを始め、僕はそれにベタ・トーンを入れる。後はホワイトでの細かい修正だ。

 ちなみにこういった作業に分身は使えない。

 実体を作るのと制御にはけっこう集中力と制御能力を問われるのだ。こういう細かい作業には残念ながら向いてない。

 最初の一時間で大体の作業の仕方を覚え、刹那くんにも筋がいいと褒められた。だが……

「だーー! 床は汚いし、棚も整理がなってねーー!」

 トーン探しの途中思わず頭を抱える。なんせ、トーンが番号問わずグチャグチャの状態なのだ。

 さらに床にペンや消しゴムを落とす度にゴミをひっくり返して探すのも嫌になる。死ね、一時間前の僕よ。死んで償ええええ!!

「空狐〜」

 さらに追い打ちのような刹那くんの情けない声。

「今度はなに!」

「わりい、また修正頼む」

 そう言って刹那くんが見せたのは、インクのこぼれた原稿であった。

「また!?」

 作業を始めて二時間なのに、すでに三回目だ。

 僕は額を抑える。君は本当にプロの漫画家なのかとか、このまま期限までにできるのかとかいろいろ問いただしたくなった。

 くそ、こうなったら……

「刹那くんはさっさとペン入れをして! その間に僕は片づけるから!」

 そう言って僕は掃除を始める。このままじゃどこに何があるかわからない!

 ゴミを処理して、床を掃除する。それから、ベタやトーンなど道具を指定の場所に揃える。そんなこんなで片付けが終わりかけ……

 がこ、っと何かが落ちる音がした後、びちゃっと床に何かがぶちまかれる音がした。

 恐る恐る振り向くと、引きつった笑みを浮かべる刹那くんと床にぶちまけられたインク……

「ば、ばかーーーー!!」

 僕は怒鳴った。刹那くんが耳を抑える。

 すぐにインクを拭き取る。こんなん君よく漫画描けるのさ!?

「て、手伝うか?」

「いいから、君はさっさと線画を終わらせる! そしたらパソコンに入れてある表紙を仕上げる! さっさとやって!」

 僕はそう指示をしてインクを拭く。線画が終わらないと、僕も何もできないんだから!

 刹那くんは「わ、わかった」と答えると作業に戻る。

「ちくしょ~、ちくしょ~!!」

 僕は泣きながら掃除を続けた。


 作業を始めて三日が経った。

 何度か仮眠は取ったもののまだ眠い。さらに刹那くんのペン入れはまだ終わっていない。

 あー、もう見捨てて帰っちまおうか?

「疲れた……」

「言うな……頑張ってくれ」

 昨日から作業を手伝ってくれているイヴからトーンを受け取りながら呟く。

 三日目に突入してから二人とも黙々と作業をしていた。もう言い合う気力も根こそぎ奪われ、淡々と自分の席で作業を続ける。

 たまに舞さんが見に来るけど、碌に会話もしていない。

「ねー、刹那くん、やっぱりこれ無理じゃない? 〆切に間に合う分量じゃないよ……」

 しかも、これでもまだ刹那くんはまだ線画が残っている。つまり僕の作業を手伝うのもまだまだ先と言うことだ。

 う〜、そろそろおうちにかえりたい。おふろはいりたい。まいさんのおかおをちゃんとみたい……

「大丈夫だ」

 刹那くんがそう言うが、大丈夫の根拠を問いただしたい。

「今から俺たちは睡眠返上で作業をするんだ」

 あー、それならまにあうね〜。

 …………って、おい。

「それまじ?」

「まじ」

 僕は作業を少し止める。で、

「帰る」

「待ってくれぇぇぇぇぇ!! ここで帰られたらマジ困る! お願い! 見捨てないで!! 俺じゃなくて読者たちを見捨てないでくれ!!」

 横からしがみつく刹那くん。だが僕は気にせずドアに向かって歩きだす。

 もー、やって居られません! それに新刊の片方『奥さまは魔王少女』終わってるんだからもういいだろ!!

「くー、だったら空狐……」

 は? なに? まだ何かくれるっていうの? ふん、そんな甘い甘言に惑わされるわけ……

「サークル『ふしぎなふしぎな風』の『ニューニューなのは様』と『ニューニューフェイトさん』シリーズ全巻やるから!!」

「さあやるぞ刹那くん!!」

 僕は気合を入れ直し席の原稿に立ち向かうのだった。

 なんで僕はこう欲望に弱いのだろうか……くすん。


 そして四日目を迎える。

「ふ、ふふふふ……あーっはっはっはっはっは!」

 僕は笑いだした。すでに変化の術をしてる余裕もなくなった状態で。

 もう今がいつでなにがどうなったのか欠片もわからない。ただただ高いテンションに身を任せている。

「見える、僕にも会場が見えるウウウ!!」

 僕のテンションはすでにレッドゾーン!

 血をインクに、骨をペンにした漫画マシーンなのだ! 自分でもなにを言ってるのかわかんねえけど!

「震えるぞハート! 燃え尽きるほどヒート! 刻むぜ血液のビートォ!!」

「うるさい空狐! あと、尻尾をばたつかせるな!」

 怒られました……


 最終日……

 外ではちゅんちゅんと鳥が鳴いている。僕らは……机に突っ伏していた。残り数ページ。だが、すでに気力も体力も、魔力すら枯渇していた。

 本当に、割に合わない依頼だったよ……

「空狐、生きてるか……?」

「死んでるよ。あと、五時間寝ないと」

 せめてそれくらい寝られれば残り数ページくらい……

 そこに届いたのは絶望的な宣告。

「入稿、今日の昼」

 かみはしんだ……


 そして、残った気力を振り絞って全てが終わった後、僕は死んでいた。いや、だって、五日間で睡眠時間五時間程度。もうひたすら眠りたい。

 刹那くんは入稿に赴いたから僕は遠慮なく眠り続けたのだった。

 次頼まれたら全力で逃げちゃる……

 だが、これすらまだ序曲にすぎないのであった。

お疲れ様空狐。でも、まだ君の仕事は残ってるんだ……がんばれ。

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