第六十四話 話し合い
空狐VS刹那が行われた晩、私は刹那宅に訪れた。
そして、屋敷内に入ると真っ直ぐ刹那のいる作業部屋に入ると、刹那はコーヒーを飲んでいた。
「お邪魔するわよ」
「ああ、イヴ。コーヒー煎れようか?」
「お願いするわ」と言うと部屋の隅にあったコーヒーサイフォンのコーヒーを入れる刹那。
「ミルク二杯に砂糖三個ね」
肥るぞ~と返しながら刹那は用意してあった砂糖とミルクを入れて私に差し出す。
私はそのコーヒーカップを受け取って一口。
「うん、おいしい」
「……ブレンドしてる当人としては、あまり嬉しくないんだがな」
うるさいわね~。おいしいんだからいいじゃない。
刹那も自分の分を飲む。
「で、空狐はどうだった?」
ここに来た理由である質問をする。あの戦いの中、剣を共鳴させて探しね。
「なかなかだったな。相性でいえばお前以上に高いと思う」
それは重畳。三つのうち一つを任せられるってわけね。
「ならあれは空狐に任せるとして、本気であの子にあれ使わせるの?」
「朱音は相性がいいだろうから持たせてみるつもりらしいな」
空狐の話を終えて、次の話に移る。朱音がねー。
あっちは彼女の方が詳しいだろうけど問題は……
「知ったら空狐がキレるわね」
「だなー」
刹那が苦笑しながら頬をポリポリかく。
まあ、今は以前からの問題だった三つの武器の使い手が決まったことを喜びましょうか。
それから視線を作業台に移す。
「で、それが例の式服?」
「んっ、そうだよ」
そう答えて刹那はそれを広げた。
デザインは今までの式服からかなり離れている。
今までのは胴着や袴などが基本であったが、それはもっと機能優先なデザインだった。
紺色のインナーシャツとジャケットとジーンズにマント、所々にあるファスナーや金属の装飾には宝石が混じって、意匠の一部は舞のアーマードレスと共通している。
「今まで見た空狐の戦い方から、見た目以上に動きやすく仕立ててあるし、かなり頑丈にしてある」
ほほう。あの子は防御を重視してないしそういうのは大歓迎ね。
「それにいくつかギミックも仕掛けてあるし、なによりこれ!」
刹那が持ち上げたのは鉄甲。銀色の装甲に甲の部分の紅い宝石と、そのデザインは見覚えあり。もしかして!
「お前の最後の武器のレプリカ作ってみたんだ」
やっぱり!
「流石に性能は比べものにならないけど聞いた限り近いものに仕立ててみたよ。表面はミスリル製だから少しの傷なら勝手に直るし、能力を再現するためのギミックも内蔵してあって……」
「ありがとう!」
途中で私は刹那に抱きつく。
「お、おい!」
「すごく嬉しい!」
私はグリグリ胸を押し付ける。
「や、やめ……!」
「どうしたの刹那? ずいぶん賑やかだけど……」
朱音が部屋に入ってきて空気が固まった。あっ、言い忘れたけど今の私は舞くらいの背にしてあるから。
「あ、朱音、落ち着け。多分壮絶な誤解を……」
「刹那、君って人は……」
朱音の肩がプルプル震える。
「だからちが……」
「ありがとう……贈り物すごく嬉しかった」
「イヴ!?」
ブチッと何かが(多分朱音の理性が)切れる音がした。
ゆらっと朱音が揺れて、にっこり満面な笑みを浮かべた。でもその後ろにはどす黒いオーラ。
……あれ? ちょっとやりすぎたかな?
「うん。私が甘かったよ。ちゃんと一緒になったんだから昔みたいに他の女の子に手を出そうとしないと思ってたのに」
「あ、朱音さん?」
刹那が恐る恐る声をかけるが返事は返さない。
「結衣さんにミーシャ大尉にも手を出そうとしてたもんねえ」
「いや、それも誤解……」
そして、笑顔のまま朱音は自分の鎌を取り出す。それを見て私は巻き込まれないようにそっと逃げるが、二人は気づかない。
「問題です。今から私は一回だけ攻撃します。さてどんな攻撃でしょうか?」
「サ、サ、サンダーランス?」
「No! No! No! No! No!」
あっ、否定なんだ。
「サンダースマッシャー……ですか?」
「No! No! No! No! No!」
あり、また外れ?
「ス、ス、ス、スターダスト……インパクト?!」
「No! No! No! No! No!」
えっと、もしかしてこの展開は……
「も、もしかして全部ですかーー!!」
「Yes! Yes! Yes! Yes! Yes!」
「もしかして、ブーストありですかーー?!」
「Yes! Yes! Yes! Yes! Yes! Oh My God!」
朱音が鎌を構える。
「サンダークロウ! サンダーブロウクン! サンダーランス・ファランクス! サンダースマッシャー・マキシマム! スターライトレイ!
一・撃・入・魂! スターダストォォォォォフルバァァァァァスト!!」
目の前で雷と星の命が乱舞する。や、やりすぎたかな?
やっと落ち着いた後、
「まったく、ああいう冗談はやめてね」
朱音が不機嫌そうにそう言うが、充分以上に刹那は罰を受けている。
「ま、まあ……そうだ朱音! 頼んだ酒どうなった?!」
包帯でぐるぐる巻きになった刹那が朱音に聞く。
「ちゃんと直したよ。で、約束のお願いね」
あ、お酒直せたんだ。
まあ、朱音ならね。
「わ、わかってる。新しいドレスと人形な。ちゃんと約束は守るって」
そう言って刹那はぽそっと、
「でも、いいのか? 自分でも買うことできるのにそんなので」
不思議そうに問う刹那。
……この子、本気で言ってるの?
「大変ね朱音……」
「まあ……ね」
遠い目をする朱音。一体刹那はどれだけ女心がわからないんだろうか?
翌日、またも例の訓練空間で舞さんには朱音さんが、僕には刹那くんが担当に訓練することになったんだけど……なんか包帯ぐるぐる巻きで若干生気がない。ど、どうしたんだ?
「あの……刹那くんどうしたの?」
「いや、昨日キレた朱音にボコボコにされてから散々……なんでもない」
イヴが「昨日のあれだけですまさなかったのね」と恐れ戦いている。なにがあったか知ってるのか? まあ、とりあえず、ご愁傷様?
鈴:「憐れ刹那……でも浮気はいけないよ?」
刹:「だから誤解だ……」
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