第六十二話 空狐vs刹那
そして、この中に入って三時間後。
だいたいの持ち技(あたりまえだけど切り札除く)を見せ終えると刹那くんが現れた。
「おーす、やってるなあ。でもそろそろ飯にしない?」
と提案してくる。
「そうだね。そろそろ舞も課題終わってる頃だろうし」
ということで、朱音さんは舞さんを迎えに、僕と刹那くんは先に食堂へ行くとこに。食堂はだいたい地上四階のあたりにあり、それなりに広く、そばには最新のシステムキッチンまである。
少し待っていると朱音さんに連れられて舞さんが食堂に入ってくる。
「それでは、お昼にしますか〜」
刹那くんが楽しそうにテーブルに豚肉と思われる肉の野菜炒めの入った大皿を置き、それぞれご飯とスープを配る。今回は刹那くんが作ったものらしい。
「んじゃいっただきま〜す!」
『いただきまーす!』
そして、刹那くんの野菜炒めを一口……こ、これは!
肉が堅い……しかし、香ばしくて噛めば噛むほど味が出てくる。野菜の方も肉から出た油や調味料が絡まって妙にうまい。スープはトマトとかきたまのさわやかな一品。いや、うめえ。
「ねえねえ、これってなんて言うの?」
おいしそうに刹那くんの料理を頬張っていた舞さんが刹那くんに聞く。うん、確かに普通の野菜炒めじゃないよな。
「ん? ただのホイコーローだけど?」
……へ? ホイコーロー?
「うっそだあ。キャベツ使ってないじゃん。味付けもテンメンジャンだけだし」
「いや、四川ではこう作るんだよ。お前の言ってるのは日本人好みに作り直したもの」
……あ、そうなんだ。知らなかった。って、よく知ってるねそんなこと。
「刹那って中国料理が好きでね。趣味が高じて中国で料理修業までしてたんだよ」
すごいなそれ。趣味でそこまで……
それからもくもくとみんなで昼ごはんを食べてると、
「そういえばさ、空狐って刹那が戦っていることろ見たことないよね」
「ないですね〜」
正直特級の退魔士の力は見てみたいと思う。うん。きっとすごいんだろうなあ。
と、考えていたらぱんっと朱音さんが手を叩く。
「なら、この後刹那と戦ってみる?」
……え?
というわけで僕は刹那くんと模擬戦をすることになりました。まあ、強い人と戦いたいって欲求はあるし……意外とノリノリな精神状態。やっぱり僕ってバトルマニア?
僕は砂浜の上で天月を構え、刹那くんは……鉄塊を握っていた。
いや、よく見れば布を巻いた細い柄のようなのがある。いや、柄じゃないな。茎だなあれは。
何というかブリーチの斬月をもっと酷くした感じ? こっちは完全に刃がでかい鉈に見える。刃渡りは長く、柄も入れれば彼の身長くらいになるだろう。
……なんか刃があるけど剣というより鈍器っぽい。あれで殴られたら切り口からぐちゃぐちゃになるだろうなと漠然と思った。
「んじゃよろしくな空狐」
そう言って、笑う刹那くんにぺこっと頭を下げる。
「お手柔らかに……しなくていいよ」
正直、手加減はあまりされたくない。まあ、僕はそんな偉そうに言える立場じゃないけどね。
「では、はじめ!」
朱音さんの合図と同時に……刹那くんは後ろに逃げ出した。 いきなり?
ちょっと呆然……ってこのままじゃ射程外に出られる。追いかけないと!
砂浜から駆け出す。すでに刹那くんは水上を走ってるため、こっちも水上を走るための術を使って刹那くんを追いかける。対して刹那くんは魔力を込めた左手を突き出し、そこから拳大の黒い魔力を十個撃つ。
速さはそれなりだけど、これなら十分避けられ……
紙一重で避けようとして背筋に悪寒が走った。直感に従い水を強く蹴って距離を離すと、爆発するように広がる魔力弾。もし紙一重で避けてたら巻き込まれてたな……
「おっしー!」
刹那くんは悔しげに言うけどその表情は楽しそうな色が占めていた。
あぶねー、いつも通りに避けてたらやられてたよ。
僕は気を引き締めなおす。そしてもう一度ダッシュ。また撃ち出される黒い魔力弾。今度はだいたいの範囲はわかったから、それにいくらか大きめに想定して……
その瞬間、眼前に黒い壁ができた。
中間の位置で刹那くんが魔力弾を炸裂させたのだ。しかも、さっきより弾の炸裂する範囲を広げてほとんど隙間ができないように!
やばい! とっさに左上にある弾幕の切れ目に飛び込み……
そこに黒い槍が飛んできた。
見れば投擲を終えた体制の刹那くん。魔力で編んだ槍か!
「二ノ太刀、『夢想』!」
二本の刀で槍を斜め後ろに弾き……
轟音。何かに当たった音がする。そして、同時に目の前の刹那くんが大きく目を見開いていた。どうしたんだ?
評価、感想お待ちしております。