第四話 空狐、家族を語る
「うし、はじめますか」
食事、僕らは荷物の整理を始めた。大体はすでに宅配で送っておいてさっき着いたのだ。
中の荷物は服と日用品と本を少々後はゲーム。服をタンスに入れて、机に物置いて、本棚に本を入れるだけだけど。
まず、僕はタンスに服を入れる。ありゃ?
「これって」
出てきたものを見てあははと、つい乾いた笑いを漏らす。
それは、僕の母さんが僕に着せて楽しんでた服の内の一着で、ふりふりひらひらのゴシックな黒いドレス。あの人、こっそり忍びこませたな。
この服を見たら、なんとなく昨日家を出たときのことを思い出す。
『クーちゃん、ちゃんと荷物持った? ハンカチは? ティッシュは?』
『持った。持ったから!』
心配になって駅まで送りに来た母さんを腕からなんとか引き離す。
母さんは髪と目の色は僕と同じで、長く伸ばした髪は紐で束ねている。張りと艶のある肌はどう見ても二十半ばも越しているようにも見えない。
さらに服装はひらひらふりふりのレースをたくさん使った、ブラウスとスカート。しかも似合っているんだからさらにすごい。
自分でいうのもあれだが、絶対に二児の母には見えない。いくら純粋の妖狐とはいえ十年に一つは歳をとるはずだから、人間年齢で40は過ぎているはずなんだけど。
『本当に大丈夫ね? もうお母さん心配で心配で』
『大丈夫だよ! ちゃんと兄さんと違ってちょくちょくメール送るから!』
『本当ね? 嘘ついたらだめよ』
汽車に乗り込み窓の外に顔を出す。汽車の外ではまだ心配そうに僕を見る母さんがいた。
そこで汽車が動き出す。母さんは手を振りながら、
『がんばってね! 次に逢う時孫の顔見れるの楽しみにしてるから!』
「はあ」
ラストはあれだったが心配してくれるのは嬉しいな。だけどこのドレスは邪神封印級の処置を施しとかないと。
服をタンスにつめた(ドレスは袋にいれて固く縛って奥に)次に本を片付ける。持ってきた十冊の本と明日から使う教科書を机の棚に入れる。
最後に筆記用具や、大事なものを袋から出して机の中に入れる。
と、一枚の紙切れが落ちた。
「おっと」
ぱっと取る。
それは、写真だ。子供の頃の僕と男の妖狐と女の妖狐が写っている。
僕の家族みんなの写真。
そして、この男の妖狐は僕の兄さん木霊 銀狐。
見た目は、僕の背をずっと伸ばして、男らしくした感じ。あと髪は僕と違って月明かりを弾けば銀色ではなく、名前の通り銀色だ。
小さな頃から父親のいない僕にとって、父親代わりの人。剣術もこの人に教わった。
ただ、問題がある。
「今、どこにいるのかな? 兄さん」
兄さんには放浪癖という困った性分があるのだ。
そして、現在。また放浪に出てて、僕が生まれてから三回目だ。
一回目は僕が四歳の時の二年間。次は八歳の頃の三年間。そして現在、十三の時から二年間の間消息不明。
まあ、心配はしてないけどね。
ここまでくるといい加減心配する方があほらしくなる。しかも僕が生まれてからは自重しているほうらしいし。
確か母さんの記録には僕の生まれる前に最長二十三年間の間、放浪していたとか。旅先で弟が生まれるということを聞いて慌てて帰ってきたらしいが、もし僕が生まれなかったらきっとさらに放浪していただろうとは母さんの言葉。
そして、あの人は強い。状況によっては母さんと互角に渡り合える。そして、当時、二級なのに(一級の筆記でちょっとミスったらしい)異例として特級退魔士に推薦されたほどの実力者だ。でも、本人にその気がないからその推薦蹴ったけど。
こんだけ強ければ心配する必要すらない。
そんなことを考えながら片づけを終えた。
「よし」
そこで、こんこんとドアがノックされた。
「空狐くん、片付け終わった?」
「うん、終わりましたよ」
舞さんが部屋に入ってきた。
「あれ?そんなに変わってないね」
「変わってますよ」
僕は指をさす。
「まず、机の本棚に本が入ったでしょ。それに鉛筆立てに鉛筆が四本と筆に定規が入ったし、そこに刀だって置いてありますよ」
「ずいぶん細かい変わったところだね……」
あははは、と微妙な笑みを浮かべる舞さん。
「で、何の用ですか?」
「あ、うん。あのね」
舞さんはもじもじしてから
「久しぶりにあれ触らせて欲しいな」
先日の登場人物紹介でこっちより先に銀狐の名前出ちゃってたのに気づきました。失敗しちゃった……
あと、内容をちょっと変更しました。