第五十八話 舞さんの杖
まさか、舞さんがこんな特技持ってたなんて……
「あの射撃センスはないだろ。てか、狂ってる」
「天才なんてちゃちなレベルじゃないよねこれ……」
「もしかして、銃神ディスの現出か?」
「ないない。てか、何それ?」
銃なんて神話の時代にはないんだから、新興宗教かなにかの神様か?
「ほらスパロボであっただろ? 銃神ディスの心臓っていう悪魔王の名を冠したロボットの動力炉」
「知らないよそんな細かいネタ。あと、なに人を悪魔扱いしてるの?」
またもゲームに関してのネタでした。刹那くん少し自重しろ。
「まあ、人間って妙なところで才能が埋もれてるもんよ。のび太くんみたいに」
まあ、彼も大概だよな〜。ドラえもんに助けてもらってばかりなのに、射撃は天才なんだから。なんで悟った顔してるのさ。
さっきまでの銃捌きを思い出す。うむ、恐ろしい。舞さんの方は、ちょっと不機嫌そう。
「なにも没収しなくてもいいのに……」
あー、そうなんだろうけどつい。刹那くんも額に汗を浮かべながら引きつった笑みを浮かべている。
「じゃあ、どうする? 銃がだめなら杖とか持ってくるけど」
刹那くんがそういうと、
「持ってきたよ」
朱音さんが杖を持ってきてくれた。はやっ!
僕は朱音さんが持ってきた杖を観察する。見た目は機械的でできた杖で、例えるとなのはのデバイスっぽい。
長さはだいたい八十センチほど。フレームは塗装はされておらず銀色の地がそのまま。
先端は二股の槍のように別れていて、ロッドとの付け根付近に放熱用と思われるパーツが二つ。横と側面に一本ずつアンテナのような尖ったものが突き出していた。
残念ながらマガジンらしいのはないなあ……
「趣味丸出しのデザインね」
イヴの言葉には僕も同意。一方刹那くんは
「あ、朱音それ、試作の……」
頬をひきつらせながらなにか言おうとしてるが、その前に、
「舞、どうぞ」
「朱音さんありがとうございます」
嬉しそうに受け取った舞さんが礼をする。そして、
「じゃあ、早速『ムーンライト、セットアップ』って言ってみて」
悪魔のように笑った。
「あかねーーーー!?」
刹那くんが慌てて叫ぶ。
な、なんだ? なにか問題が……
そこで思い至る。見た目なのはのデバイス。もしや……
「ムーンライト、セットアップ!」
そして、刹那くんが止める前に舞さんはセットアップした。途端に杖が輝く。
「わっ!」
目が眩みかけるが少し、彼女の姿が見える。いつの間にか服が袖と裾の短い服に変わり、そこに光の粒が集まったかと思うとローブとスカートがどこからか現れる。そして、胸の前に金属パーツが現れローブを留める。
それからなぜか頭頂部とお尻からにょきっと耳としっぽが出てきた。おい!
そして、予想通りまほーしょーじょが出来上がった。
黒いマントを靡かせて、袖と裾の短い白い服に宝石らしきものが嵌った金属パーツで前を留められた白のローブ。ロングのスカート。あちこちに宝石のような装飾が付けられていて、なのはのバリアジャケットによく似ていた。
そして……ツインテールにまとめられた頭の上で猫耳とお尻の尻尾ががぴょこぴょこ動いている。
気づけば僕は刹那くんに詰め寄っていた。
「君は、よくも! ありがとうございました!!」
イヴが「建て前と本音が両方出てるよ」なんて言われたが気にしない。
刹那くんの方は顔に手を当ててうなだれていた。一方舞さんは、
「うわー、かっこいい♪」
嬉しそうに自分の格好を確かめている。
イヴはそれを見て、
「完全に趣味で作ったものねこれ」
と呟く。そこに刹那くんは、
「違う! 装備をつける手間をかけないための自動装着システムだよ!」
まあ、そうは言うが見た目は完全に趣味の世界だからそんなこと主張しても敗訴確定だろう。
まあ、僕は刹那くんにグッジョブなんだけど。
刹那くんはうらみがましい視線を朱音さんに向ける。
「朱音……なんでそれを?」
「面白そうだったから♪」
がくーっと刹那くんは地面に手をつくのだった。
そんな刹那くんをほっといて舞さんは朱音さんに向き直る。
「まあ、それはまだ試作の段階だから、完成したら舞に合わせて刹那に調整させるから」
それからじろっと刹那くんを睨む。
「くれぐれも、前にした失敗をしないようにね?」
「はーい」と刹那くんが答える。いや、なんか朱音さん深刻そうなのに君そんなに軽い返事をするの?
舞さんも心配そうに笑ってる。
「前、何かしたんですか?」
一応聞いてみる。
「いや、前に作った新装備の機動実験時に事故起こしちゃったんだよ」
苦笑しながら刹那くんが答える。すんません君に任せるのすごく怖くなったんですが……
そこでぽんと朱音さんが肩を叩いてくれる。
「大丈夫。私がちゃんと見張っておくから……少なくとも限界突破とか身体に負担をかけるような特殊装備の実装だけは止めるから」
びくっと刹那くんの肩が動く。付けようとしたのね……
その後、舞さんの魔術の先生は朱音さんが代わりにしてくれることになった。朱音さんは先生もやってたことあるみたいだし、僕がするよりもずっといいだろうと考えて安心だとは思うけど、一抹の不安を覚える僕であった。