第五十二話 力をなくしたイヴ
「たぶんあれだ。この槍にも天月みたいにイヴが憑く機能があったんだろうけど、誤作動で力だけ取り込んじゃったんだろうな」
こんこんとスパナで刹那くんが槍を叩く。イヴが言った、神器の修繕ができるというのは刹那くんだったのだ。ビックリだね。世界って狭い。
あと、イヴを舞さんに見てもらってる間に槍を刹那くんのところに持ってきたのだ。
「破損状態も悪いし、完全修復は難しいな……力の中枢の宝玉だけ取り出して直してから新しく身を創るほうが良さそうだ」
槍を観察して刹那くんが結論付ける。大丈夫かな? いや、疑ってる訳じゃないけど心配で心配で。
「宝玉だけでも直せればたぶんイヴの力も出せるから……まあ、しばらく待ってくれよ」
「うん」
刹那くんはそう言って槍をポンポン叩く。
まあ、専門外の僕は何も言えず、任せるしかないんだけどね。
「で応酬は?」
ちゃっかりしてるなあ……
僕は母さん名義の小切手を切って刹那くんに渡す。一言付け加えるとその額は先ほど僕が払った額の百倍である。だけど、
「う~ん、できたらもう一声」
無理です。確かに価値に対して安いと思うが、さすがにうちはかなり裕福だからとはいえそこまで出せないのだ。しかし、刹那くんは「神器なんて難しいものやるんだから」なんてねだるけど、
「うっじむし、おっけら、むし~」
どこからともなく妙な歌が響く。びくりと刹那くんの肩が動く。
そして朱音さんが部屋に入ってきた。どうやらさっきのは朱音さんの歌だったらしい。にしても陰気な歌だな。
「や、空狐。刹那もいいじゃないか友達の頼みなんだから」
「だけどさ〜」
そういって刹那くんが口を尖らせると、
「君のファーストキスの相手ばらしていいのかな?」
「すいません。それは勘弁してください」
一瞬で刹那くんは土下座した。いったい彼の過去になにがあったのだろう?
というわけで、交渉は成立。イヴはしばらくの間、力をなくした状態で僕らと生活することになったのだが……
「もう! 重いわね!」
晩御飯。イヴがフォークを持ち上げながらそう言う。フォークに振り回され、さらにスープの入ったカップも持ち上げられなくなっていた。一言付け足すならフォークは僕らが普段使うのと同じサイズである。
まさか、飛行能力だけじゃなくて筋力も見た目通りに落ちちゃった?
「はい」
それを見かねた舞さんがイヴの代わりに食卓に列ぶハンバーグをイヴにちょうどいいサイズに切って、口元まで運ぶ。
「あーん」
ぱくんとイヴがハンバーグを食べる。まるで雛のようだ。怒るだろうから言わないけど。舞さんの方も子供にご飯を食べさせるお母さんみたいに微笑んでいる。
そうやって舞さんが少しずつイヴに食べさせてくけど、
「もういいや。お腹いっぱい」
イヴがそう言って座り込む。いつもなら一人前食べるのに今日食べた量は普段の半分以下だ。
なんか、ヤバい気がしてきた。
イヴを舞さんに預けた僕は部屋で天月を振っていた。
イヴが力をなくした状態でも大丈夫なのか確かめるためだ。
「一ノ太刀」
刀身に淡い光が宿る。いつもより弱々しいけど一応使えて安心した。
普段は理由があって使わない二ノ太刀、三ノ太刀と試してみる。そっちも大丈夫であった。若干能力が落ちているみたいだけど僕は学生だし、仮免だから仕事もないし、大丈夫だな。
天月の状態を確かめた後、鞘に納めてベッドの横に立てかけてから布団に潜り込む。
「おやすみ」
普段ならイヴから返事があるんだけど舞さんに預けたから今日はない。少し寂しく感じながら僕は眠りの世界に旅立つのであった。
鈴:「う〜む、なんかそうとう戦力ダウン?」
刹:「普段なら空狐持ち上げて飛べるのにな」
鈴:「とりあえず、力のなくしたイヴの戦い、温かく見守っていてください」
刹:「それでは〜」