第四十六話 朱音さまの仕返し・峠
いくつかのSSの公表が終わると、朱音さんは今度はプロジェクターと映像を映すための暗幕を持ってきた。今度は何をする気なのだろうか。
朱音さんは手際よくプロジェクターと持ってきたノートパソコンを繋げる。そして部屋を暗くして……
「これが刹那がある仕事で女学校に潜入した時の写真ね」
朱音さんが一枚の写真を映す。すでに刹那くんは諦めたのか朱音さんの宣言や説明の時にピクピクする以外反応が消えてしまった。
そして、映された写真は女生徒だと言われたら信じてしまいそうなほど完璧な姿。
「おお、恥ずかしいぐらいよく似合ってるぞ刹那。同じ男としては羨ましさは微塵も感じないが」
「そうねえ……朱音ちゃん、今度私からも服を送るねえ。あと、この写真データ後でちょ〜だ〜い」
なんて楽しそうに二人が言うが、まあ、そう言いたい気持ちもわからなくない。
ウィッグ何だろうけど長く艶やかな銀髪と鋭く尖っているけど澄んだ蒼い瞳。長身のすっくりした人で、女子校の制服らしきものを着ている。制服は装飾を極力廃しているけどポイントポイントで女の子に好まれそうな配色とデザインをしている。
その姿は朱音さんと同じ芸術品のような印象を受けた。しかも、触れたら切れてしまう刀剣などの鋭く尖った感じの。
刹那くんも女装が似合うタイプなんだ。ちょっと親近感が湧いたけど、僕の方はどちらかというと、かわいいなんて言われるタイプだからかっこいいタイプの彼が少し羨ましい。いや、羨ましいなんて思っちゃダメだろ僕。
「あの時はかわいかったなあ……たった数日で下級生に『お姉様』なんて呼ばれるようになったんだから。その後でもしばらくの間『おねーさまー』なんて呼ばれて追っかけられた事もあるのよ。正体がばれてもしばらく追っかけられてたっけ……」
ふーん、うらやま……いや、羨ましくない。そう呼ばれるのって何かが終わっちゃいそうな気がする。それにラストのオチもすさまじく嫌だ。
「で、次はこれ」
そう言って、朱音さんが映したのは浴衣に包まれた女の子……って、これも刹那くんか。化粧で分かりづらくなってるが、その顔は刹那くんの顔だ。
浴衣の方は、青い色の生地に、ワンポイントに大きな向日葵が描かれている。すっきりしたプロポーションだから、浴衣とよくマッチしているし、恥ずかしげに顔を赤くしているのも初々しい感じがしてかわいらしい。まあ、こんな評価、本人は嫌がるだろうけど。
「これは、罰ゲームに負けちゃって、妹の遥ちゃんの命令で夏祭りの時にした格好ね。途中で服が脱げて大変なことになったけど……」
同情しよう刹那くん。僕も昔された。あの時はまだ子供だったから許されたけど、この写真を撮った時の歳を考えれば、変態扱いされるのは間違いないだろう。
その後も刹那くんの恥ずかしい写真がいくつか公開すると、朱音さんはふうとため息をついてプロジェクターを止める。
「じゃあ、今日はそろそろお開きね。一度にするとしつこいし」
そう言って朱音さんは襖を開く。その顔はとてもきらきらと輝いている。きっとすっきりしたんだな。
お、終わった……
ようやく発表会から解放されて家に帰ってきた。
「ただいま〜」
「おかえりー」
戸を開けて家に上がるとイヴが出迎えてきた。この前の『顕現』と神術を使用したことで減った神力を回復するために留守番をしていたのだ。
「ずいぶん長かったわね。朱音の用事って何だったの?」
イヴが舞さんの頭の上に座る。本人いわく、僕の頭はいい感じの座り心地らしいが、舞さんの頭も同じくらい座り心地がいいらしい。
「それはね……」
舞さんがイヴに話し出す。
「なっ……」
舞さんの説明が終わった後、イヴが顔を俯かせている。
そして……
「なんでそんな楽しそうなことに私を誘わなかったのよキィーーック!!」
舞さんの頭の上からイヴが飛び上がって僕にドロップキック!!
「ぴきゃ!!」
僕は蹴り跳ばされて床に叩きつけられる。
すぐにイヴが地面に着地。僕はすぐに逃げようと起き上がって、
「留守番なんてつまんなかったわよパァーーンチ!!」
すぐにイヴの右拳が突き刺さって僕はノックアウトしたのであった。
俺、天野刹那は公開処刑のあと、やっと簀巻きから解放された。それから、文句を言う気力もなくノロノロと自分の部屋に戻ってベッドに倒れ込む。
しばらくして、水が欲しくなった。台所行くか……
ベッドから起き上がり台所に向かう。と、途中の部屋で話し声が聞こえた。みんな帰ったはずだよな? 俺は誰がいるのか気になって部屋を覗く。中には……朱音とイヴ?
「人の寝言ってなかなか面白いわねー。その人間の心の奥を覗ける気分。刹那の場合はシスコンっぷりとトラウマね」
とイヴが評価するシーンだった。なんの話だ? そして、みんなシスコンシスコンって……自覚はしてるけどあまり言われたくない。
とっそこで朱音がテープレコーダーを持っているのに気づいた。そこから流れてきたのは……
『うーん、はるかぁ、みじんこなんて言わないでくれ〜』
俺の声ーーーー!?
声にならない悲鳴を上げる。
「でしょ? 刹那が昼寝してる間にこっそりとっといたのよ」
楽しそうに朱音が語る。ま、まさかまだ続いてたんですか?
そこで、朱音がこっちを見て……にやりと笑っいやがったああああ!! 俺が見てるのに気づいたんだな!
さらに朱音が楽しそうに語り出す。
「本当はね、これも発表しようと思ったんだけど、文章は最初にかなりしたからマンネリ気味かなって思って止めといたのよね」
そう言って朱音が出したのは……あ、あれって……俺の作りかけの長編『アンダー・ザ・ムーン』じゃないか!
慌てて朱音を止めようと襖を開けようとするけど……ビクともしない。術がかけられてやがる!!
いくら力を入れても一向に開かない。そして……
かつて、一人の姫君がいました。名前は舞。愛らしい外見と優しい心を持つ彼女は国中の憧れ。
しかし、ある日彼女は魔族の王、刹那に浚われてしまいます。
国中の人間が彼女を助けるために立ち上がりました。
その中には彼女の幼なじみの空狐も。これは一人の少年の愛の闘いの物語。
朱音が朗々と読み上げる。
「くけーーーー!?」
ついに襖を殴り始める俺。だけど、襖を殴っている感触はなく、返ってくるのはまるで鉄を殴っているような感触だった。
「あらあら、ついに友達の名前まで使い出しちゃったの……痛さここに窮まれりね」
チラッとイヴもこっちを見て笑った。てめえ、気づいてんなあぁあぁ!?
「くああああああ!!」
殴っても意味がなくついに頭突きをし始める俺。
も、もうやめてくれーー!!
しかし、二人は俺を無視したまま第二回黒歴史発表会を続けるのであった。
鈴:「お疲れ様刹那」
刹:「や、やっと終わった」
鈴:「次で完全に終わるから」
刹:「うわあああああん!!」
約一カ月ぶりの更新です。すいませんでした。
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