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狐火!~狐少年の奮闘記~  作者: 鈴雪
第八章 朱音の怒り
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第四十四話 朱音の仕返し

前回のあらすじ

朱音の大切にしているマグカップを割ってしまった刹那。

その時は、朱音も笑って許したように思われたのだが……

 その日、僕と舞さんは朝早くに刹那くんの家に来ていた。

『明日の朝、九時までにうちに来て』

 と朱音さんからメールをもらったからだ。

 朱音さんは玄関で待っていた。

「おはようございます朱音さん」

「おはよう。待ってたよ二人とも」

 朱音さんが笑顔で出迎えた。でも、なんか違和感がある。

 なんだろう? 笑顔のはずなのに……背筋が寒くなるような顔をされている気がするのは?

 横を見ると舞さんも顔をひきつらせている。

 そして、僕らは朱音さんに案内される。

「あの、朝早くにどうしたんですか?」

「ああ、是非とも見せたいものがあったからね」

「見せたいものですか?」

「うん。まあ、見てからのお楽しみだ」

 そうやって、話してるうちにかなり広い客間に招かれた。左手が縁側で、庭にある猪おどしが軽い音を立てる。

 そこで、アルトちゃんが座ってお菓子を食べていた。

 ……しかも何故か母さんと兄さんと一緒に。

「あっ、くうこくん、まいちゃん。おはようございます」

「あっ、クウちゃん、舞ちゃん一週間ぶり〜」

「よっ。君らも呼ばれたのか」

 ぺこりとアルトちゃんが丁寧な礼をする。

 同い年だって知ってるけど……やっぱりその姿でされると微笑ましく感じて、顔が綻んでしまう。

 そして、母さんと兄さんはひらひらと手を振ってきた。

「……なんで二人がいるの?」

 一番の疑問を聞いてみる。

 母さんはまだいいとして、兄さんはいつも音信不通でふらふらしてるのに、朱音さんどうやって捕まえたんだ?

「俺は、刹那とちょくちょく連絡取り合ってるから、その連絡手段で呼ばれた」

「わたしはね〜、昨日呼ばれて〜、大急ぎでここまで来たの」

 母さんはのほほんと、兄さんはにやりと答えた。

 って、あれ?

「そういえば、刹那くん居ませんね」

 普段なら真っ先に僕たちを迎えに来そうなのに。

 朱音さんは例の背筋が寒くなる笑顔で頷く。

「ああっ、刹那なら」

 そういって、朱音さんは襖に向かう。そして、襖を開けた。

 襖の向こうの部屋に、安らかな寝顔を浮かべた刹那くんがいた。

 ……簀巻きの状態で。

 ……なんだろう、安らかな寝顔と簀巻きのギャップが非常に痛い。

「あの、朱音さん?」

 朱音さんはしいっと口の前で指をたててから、時計を確認する。

 そして、刹那くんの上で手を広げる。

「……五……四……三……二……一」

 順に一本ずつ指を曲げていって、

「……零」

 朱音さんがそう宣言した瞬間。パチッとタイミングよく刹那くんが目を開けた。

 じいっとこっちを見て、それからもごもご口を動かすが、何もしゃべれない。

 当たり前だ。猿ぐつわ咬まされてるんだから。

「おはよ〜せっちゃん」

「おはよう刹那」

 僕と舞さんとアルトちゃんは、あまりの事態に固まってるのに、母さんと兄さんは気にせずに刹那くんに軽く挨拶。

 ……母さん、兄さん、なんでこんな状況で普通に挨拶できるの?

 それから、顔を動かして今自分の置かれてる状況を確認。それから僕らの方に視線を戻して、

「もがー!?」

 暴れた。だけど、外れない。どうやら縄に術がかけられてるみたいだ。

「なかなか強力な術ね。何重も防護術が重ね掛けされてるからディスペルも難しそうね」

「ですね。だからと言ってあれを解くとなると、力尽くは無理だな……」

 などと、刹那くんにかけられた術の感想を漏らす母さんと兄さん。そっちなんだ二人の関心は。

 そして、朱音さんは刹那くんの悲鳴と抜けようと暴れてるのを無視して、どこからかアタッシュケースを持ってくると、

 ドスッ。

「ぴぐ!」

 刹那くんのわき腹に勢いよく置いた。というか叩き付けた。妙な、そして痛々しい悲鳴が響く。

 布団というクッションがあったものの、そのダメージに刹那くんは悶絶している。もの凄く痛そう。

 朱音さんはアタッシュケースを開けて何かを取り出した。それは……大学ノート?

 しかも、デザインやその汚れからかなり古そうなものだ。

 い、いったい何を?

 朱音さんは笑顔でノートを開き、にやっと笑った。

 くしゃくしゃに丸められた後のある紙を、朱音さんがノートの間から取り出した。

「早速ですが、詩の発表をさせていただきます」

 朱音さんが優雅に一礼。

 って、何? 詩?

 僕の思考は追いつかない。だけど、母さんと兄さんはぱちぱちと拍手をする。

「待ってました!」

「朱音ちゃん、早く〜!」

 ずいぶん楽しそうだね……

 そして、朱音さんが優雅に詠いだした。



タイトル Dear My sister


なんでだろう? この頃あの子の態度が冷たい。

どうしてだろう? あの子の言葉がきつい。

なんでかなあ? この頃あの子がかまってくれない。

Why My Sister?


それは、あの子がそういう年頃だから?

なら僕は待ち続けてあげよう。

前だって時間がかかったんだ。

きっとまた昔みたいに甘えてくれるさ。


I'll wait to the here.


天野 刹那作 


制作日 妹に冷たくされた満月の夜



「以上です」

 謡い終えた朱音さんがもう一度一礼する。

 えっと……なに今の? 理解が追い付かない。

 僕と舞さんとアルトちゃん三人はいきなりのことに呆けてたのに、母さんと兄さんはなにかをわかってるのかうんうん頷いている。

「おお、なかなか痛くて面白い詩だな。意味なく入った英語に、疑問系の三連族。文章からにじみ出る自己陶酔と自虐心のコラボが実にいい。なかな書けるもんじゃない」

「そうね、せっちゃんらしい内容ね〜。さすが、妹Loveのシスコンお兄ちゃん」

 などと感想まで述べている。

 見れば、刹那くんは思考停止に陥って止まってしまっている。

 そして、僕らがきょとんとしていたら、朱音さんが高らかに宣言した。

「お集まりの紳士淑女のみなさま。お待たせいたしました! これより、天野 朱音プロデュース『刹那が私のお気に入りマグカップ割っちゃった記念☆黒歴史公開ショー!』を始めたいとお思います。最後まで楽しんで行ってねー!」

 パチパチパチ! と、ものすごおっく楽しげな拍手。

 ……はい?

 呆気にとられたまま刹那くんを見ると、その顔から血の気が引いて、怯えたようにカタカタ震えている。どうやら、理解したようだ。自分の状況を。

 そして刹那くんは全力で暴れ出した。

「むが、ふもっふ!?」

 猿ぐつわ咬まされてるから何言ってるのかわからないけど、少なくとも、刹那くんがとてつもなく焦っているのだけはわかった。それも、絶体絶命のピンチってくらい。

 しかし、朱音さん特製のバインドは外れない。その動きはさながら断末魔入って苦しみにのた打ち回る芋虫だ。

 そして、徐に朱音さんがノートのページを捲る。

「最初は刹那が自分のサイトで公開してるSSです!」

 そんなことしてるのか。

 でも、なんか聞いちゃいけない気がするし、

「あの、帰ってもいいで……すいません。ごめんなさい。なんでもありません」

 朱音さんの底冷えする瞳に睨まれて慌てて座り直す。

 隣ではひしっとアルトちゃんが涙目で舞さんにしがみついていた。

「だめだよクーちゃん。こういうのは最後まで出てなきゃ」

「そうだぞ空狐」

 母さんと兄さん、二人が僕をなじってきた。

 こうして、刹那くんの公開処刑が開始されたのであった。


鈴:「どうも、鈴雪です」

朱:「朱音です」

鈴:「今回は刹那が簀巻きにされてるので、代理は朱音にしていただきます」

朱:「よろしくね〜」

鈴:「次回、ついに刹那が作ったSSが公表されます」

朱:「どっかで似たものを見たことのある方は温かい目で見守っててください」

鈴:「それではみなさま、また次話で会いましょう」

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