第四十三話 引き金
「ん〜、今日も『くうこ』はかわいいわね〜♪」
あたしはつい最近買ったかわいい犬のぬいぐるみを抱きしめる。
この時間は心がとても安らぐ時間。こうやって人形を愛でて、癒される瞬間が好き。
「あ〜もう、そんな眼で見ないで『まい』。あなたもかわいいんだから〜♪」
そういって『くうこ』を置いて羊の『まい』を抱きしめる。
だけど、突然、陶器の割れる音がした気がした。だけど、その音はすぐに消えてしまって、気のせいだったかなと疑ってしまう。
それでも、わたしはなんか嫌な予感がして、『まい』をベッドに置くと部屋を出るのであった。
俺は台所で立ち尽くしていた。
や、やべえ。
目の前には、かわいらしい猫の描かれたカップが無残に割れてしまっている。
やばい。マジでやばい!
キョロキョロ周りを確認。大丈夫。見られてない。派手な音がたったけど、音が起つのとほぼ同時に防音の結界を展開したから大丈夫だ。たぶん……いや、少しは漏れたかも。
考えれば考えるほど不安になるここらで止めとかないと、堂々巡りになってしまう。
俺が割ったカップ。それは朱音が一番気に入っているカップだった。
朱音がカップの手入れをするときにこのカップは特に念を入れて磨いているのを何度も見ている。よく、このカップで嬉しそうに紅茶を飲んでいるのも何度も見た。
そ、そういえば、これは朱音が親友から誕生日にプレゼントされたものでもあったはず……こ、これが朱音にバレたらー!
後の事を考えるだけで背筋が寒くなる。
すぐに破片を集め始めた。
だが、世は諸行無常。
「何してるのかな? 刹那くん?」
驚きのあまり、心臓が飛び出るかと思った。
油の切れたスクラップ寸前のゼンマイ仕掛けの人形のようにゆっくりと音を立てながら振り向く。
そこに、朱音が、いた。
その後、俺はリビングまで連行され、アルトが見守る中、全てを白状した。
もちろん黙秘権などこの場には存在しない。
「なるほど」
一通り事情を説明すると、今まで黙っていた朱音が頷く。
「コップを取ろうとして取り落としてしまい、何とかキャッチしたのはよかったけど、その時に置いてあったあのカップに肘が当たって落としてしまった。そういうことね?」
俺が説明したことをもう一度、朱音が口にした。
俺はこくこく頷く。
「それで、証拠隠滅した後に、回収したあのカップを術で直してから、また棚に並べるつもりだった、と……」
俺はこくこく頷く。
気分は肉食獣の檻の中に放り込まれた羊か、閻魔大王に審判を待つ罪人だ。ちらっと朱音の顔を窺ったが、すぐに顔を伏せた。
そして……しばらくしてから朱音はため息をつくと肩を叩いてきた。
えっ?
顔をあげるとその顔には苦笑が浮かんでいる。
「次からは黙っていようとしないでね。ちゃんと言ってくれたらたら怒ったりしないから」
そう言って朱音は部屋を出ていった。
俺はちょっと拍子抜けしてしまった。もっと怒ると思っていたのに。
「刹那くんよかったね〜」
見守ってくれていたアルトがそう言ってくれる。
しかし、この時俺はまだ知らなかった。この後の恐ろしい出来事に。
……つうか、予想しとけ。朱音とどんだけの付き合いだ俺。
その晩、刹那が部屋でぐっすり寝ているとき、物音を起てず彼の部屋に何かが侵入した。そして……
どうもです。
更新が滞ってましたが、やっと出せました。
次回も早めに出せるようにしたいと思います。