第四十二話 温泉の帰り
バトル後、結界を消すために外に出る。
結界とは一種の異界を創り出すもので、現実そのもの(僕らのように現実の存在を除いて)に影響を与えない。
だから、結界を消すだけで中で起きたことを消せるのだ。
「じゃあ、帰りますか」
結界を消してから刹那くんが発言した。
荷物を片付けて車に載せる。
帰りは龍馬やハルと一緒で朱音さんの車。運転手は刹那くん。(ペーパーだが免許を持っていた)
兄さんと母さんはバイクで来たようでライダースーツを着ている。
「それじゃあ兄さん、母さん。またね」
二人が微笑む。
「うん。クーちゃんも、たまには里に帰ってきなさいね」
そういいながらギュウっと僕の手を握る。
兄さんはぽんっと僕の頭を叩く。
「今度、ヒマだったら遊びに行くから、ちゃんと修行してろよ」
そう言ってから、二人はバイクに載って走り去っていった。
「バイバイ」
「また」
二人を見送ったあと、車に乗り込む。
そこで気づい。た後部座席に五人乗りは少しキツいし、うちの三人は女子……ぐあっ! しまったあ!!
右から順に、僕、舞さん、ハル、龍馬と座っている。アルトちゃんは舞さんの膝の上だ。
狭い車内にこの人数、うあ、舞さんの体がひっついて……ああ、柔らかくて暖かくてちょっと気持ちいいかも。
ちょっとだけこの状況に感謝。
「じゃあ、出すよ」
刹那くんの言葉とともに車が動き出した。
何となく夕暮れを眺めていると、肩に何かがのっかった。
慌てて顔を向けると、舞さんの寝顔がそこにあった。
起こそうかな? とも思ったけど、やめた。くすぐったいけどなんか暖かい。
みんなを見ると朱音さんや、龍馬もハルもアルトちゃんも眠っている。
ゆったりとした時間が過ぎていった。
運転手の刹那くんもその雰囲気を楽しんでるのか目を細めて……?
いや? あれは船を漕いでる? そういえばさっきから聞いている寝息が五重奏じゃなくて六重なような?
極めつけにサイドミラー越しだがあれはよだれー!?
「起きれーー! 刹那くん! 居眠り運転すなーー!!」
僕はドカドカ座席ごしに殴る。
この騒ぎにみんなが起きた。刹那くんもはっとする。
「なに、なに?」
「何の騒ぎ?」
刹那くんもぶるぶる頭を振る。
僕はみんなの方に向いて、
「刹那くんが、居眠り運転をしてたんだよ!」
……沈黙が降りて、
みんなが刹那くんの方に向いて……
『バカー!!』
全員が怒鳴った。
「すまん! つい……」
刹那くんが慌てたように謝罪をするために振り向く。
そう言ってる間に目の前にトラックがあー!
『前見て前ー!!』
慌てて刹那くんが前を見て、ハンドルを切った。
その後、次のサービスエリアで朱音さんに運転を変わってもらったのは言うまでもない。
二時間後、僕らは常磐市に戻ってきた。
ハル、龍馬の順にそれぞれの家によって降りていく。
そして、ラストは僕ら。
「じゃあ、また明日」
「また今度」
「またね〜」
僕と舞さんが降りると三人が手を振る。
僕らも手を軽く振る。
まあ、すぐそばに彼らの家があるからあまり意味がない気がするけど。
舞さんと僕は家に入る。
「んー、久しぶりの我が家か」
僕は伸びをしながら呟く。
「まだ一日しかたってないよ」
舞さんが笑いながら指摘する。
その顔は僕が変なことを言っただけなのに、何だか嬉しそうな感じがした。どうしたんだろ?
「舞さん、何か僕、変なこと言った?」
不思議に思って聞いてみる。
「えーっとね」
舞さんは少しだけ考える素振りを見せて、
「秘密」
とだけ言って、小走りに家に入ってしまった。
なんなんだ?
すると、頭の上に何かがのっかる。イヴか。
「僕変なこと言った?」
イヴにも聞いてみたが、返事はない。
少しして、
「さあ?」
声音的に、何か気づいてるけどすっとぼけている感じがした。
何なんだろうなあ?
僕は釈然としないものを感じながら家に上がったのだった。