第四十話 兄弟対決
朝ご飯の時間。ひじょーに気まずくて、食べた気がまったくしなかった。
母さんとイヴが一緒に楽しそうにこっちをチラチラ見ながら食べてたし、舞さんもずっと俯きながら食べていた。その様子を見て龍馬とハルがひそひそ話している。
まあ、あんな事あったばかりだもん仕方ないな。
あの後確認したことだけど、布団は僕のだった。
つまり、僕が狼藉を働いてしまったわけじゃなく、寝ぼけた舞さんが僕の布団に入ってしまっただけであったのだ。
無意識で欲求のまま行動してしまったわけじゃなくてちょっとだけ安心。しかし、だからといって舞さんの気が晴れるわけじゃなく、やっぱり気まずいままだった。
そして、朝ごはんが終わってから、
「そういえば君らは久しぶりにあったばかりだったな?」
朱音さんが思い出したかのように呟く。
「そうですけど?」
確かに三年ぶりの再開だ。でも、それがどうしたのかな?
うんうんと朱音さんが頷く。
「銀狐、久しぶりなんだから空狐の出来具合見てやったら?」
えっ?
兄さんもにっと笑う。
「そうっすね。久しぶりにやってみますか」
なんか兄さんも乗り気だ。いつの間にかその手には兄さんの愛剣『桜花』が握られている。
桜花は肉厚の野太刀で、長さは兄さんの身長ぐらいで、見た目通りかなり思い。以前、僕が使った時はその重さに振り回されたことがある。
逆に、兄さんにとって今の僕用に調整された天月は軽すぎて物足りないらしい。
このことからわかるかもしれないけど、兄さんの戦法は僕とは対局にある。僕は身軽さを生かした戦い方、兄さんは頑丈さと力が武器の戦い方。妖狐としては、僕の方が主で、兄さんの戦い方は珍しい。
「お手柔らかに〜」
僕は苦笑いしながら答える。
僕もわりと乗り気だな……まあ、兄さんと戦うの久しぶりだし、気分転換にもなりそうだしなんて言い訳をしてみるが、本当は自分より強い相手と戦ってみたいだけかも。
僕もバトルマニアなのかなあ?
旅館の後ろにある山で僕らは対峙する。刹那くんが張ってくれた隔離結界のおかげで人目は気にしなくていい。
観客は母さんや舞さんたち。龍馬とハルも見学している。
「久しぶりだな。こうやって試合をすんのも」
兄さんが笑みを浮かべながら剣を構える。
僕は苦笑。
「だって兄さん、いつもどっかでぶらぶらしてるから、なかなかね」
違いないと兄さんは笑う。
僕も刀を構える。
「いくぞ」
兄さんが真面目な顔になる。しかし、やっぱりその頬は緩んでいる。
「はい!」
右手を突き出し、左手に刀を持って地面に水平に構える。そして、息を整える。
兄さんがゆらりと動く。
その瞬間に、足の裏で爆発を起こして一気に突っ込む。射程に入った瞬間、刀を突き出すが、横に避けられる。
反転、踏み込んで刀を横に一閃。
兄さんが剣の腹で受ける。流されると目の前に桜花の刃。なんとかかいくぐって、兄さんの懐に入る。
切っ先に小さな炎を灯して、爆発。加速させて兄さんの腹を柄頭で殴る。かなり硬い感触。 兄さんはにやっと笑って剣を振りかぶる。あまり効いてないみたいだ。振りかぶるその刀身には淡い光。
ヤバい!
「上弦」
技名とともに刃が迫る。
なんとか後ろに跳んで避けるが前髪が数本空中に跳ぶ。風圧で体勢も少し崩れた。
僕はすぐに姿勢を立て直し刀を振りかぶる。
「烈光斬!」
刀身から斬撃を飛ばす。
しかし、牽制として撃ったけどあっさり兄さんに切り落とされあまり意味がなかった。
迫る兄さんに刀に炎を上乗せして下から一刀で迎撃。
「下弦の月!」
兄さんが使った上弦の炎バージョンを使う。本来、威力はこっちが上だ。
「上弦の月」
だけど、僕の一刀はあっさり兄さんに負けた。
僕は数歩たたらを踏む。すぐに兄さんが迫る。
僕は刀を振る。だけど、踏み込みが浅かった僕は刃の圧力に負けて後ろに跳ばされる。さらに兄さんの追撃。
咄嗟に地面を蹴って高く飛び上がり木の上に退避する。一息つこうとして、兄さんが剣を振りかぶるのを見た。
轟音と共に木が両断される。
「うわ!?」
足場が崩れて下に落ちる。木の破片が頬を切った。何とか着地に成功したけど、そこに兄さんが迫る。
重そうな一撃が来る。横に転がって逃げる。
すぐに跳び退りつつ天月を鞘に戻す。炎術を込め、鞘の中で炎を圧縮、加速。
兄さんも気づいたのか刀を振りかぶる。その刀身に先よりも強く大きな青白い光。
「炎龍」
「精龍」
同時に足を止め前傾姿勢になり、
「「飛翔!」」
これまたどちらも同時に踏み込み、龍を模した力を解き放つ。二匹の龍は僕らの中間でぶつかり、喰らいあい、相殺。轟音と共に爆発。
その瞬間に砲撃の後の隙をつくため爆発を隠れ蓑に僕は跳び出す。
蒼く燃える炎を乗せた刀を逆手に持ち、柄頭に左手を添える。その切っ先を地面に潜らせて走らせる。
そして、間合いに入った瞬間に刃を地面から解き放つ。これは地面を鞘と見立てた抜刀術。
「迅雷!」
「YA○BAの技じゃん!」
龍馬、そういうツッコミは止めて。それに、あれは炎ないよ。
兄さんが避けるが左肩に浅く入る。
すぐに兄さんの反撃。突き。
僕は影を見る。突きは三次元の世界では非常に避けづらい。しかし、二次元の中なら上か下だ。影を見れば簡単とは言わないが、少しは易しくなる。
突きを避けてから横に跳ぶ。同時に牽制の術を編んで発動。
「炎剣!」
燃え盛る炎の剣を八本作り、それを指に挟み投げる!
「アンデルセンか!」
龍馬のツッコミはスルーする。
兄さんが炎剣を弾く。その隙に刀の先に炎を集中する。獄炎クラスの炎がバチバチと音を立てて燃える。
朱音さんに教えてもらった砲撃系の術式をベースに作った新術。その名も、
「桜火砲!」
砲撃術をぶっ放す。避けきれないと判断したのか、兄さんは剣を盾に防御術式を展開する。
直撃、轟音。土煙で何も見えない。
少しして……煙を引き裂いて兄さんの炎が飛んでくる! 咄嗟に刀で受けて、爆発。後ろに吹き飛ばされる。
い、痛い……たった一撃の、おそらく抜き打ちで威力が落ちているはずの術なのにそれだけで、僕はダウンしてしまう。もう少し防御面、反省しよっかな?
何とか体を起こすし、兄さんを見る。
兄さんもぼろぼろだ。ところどころ煤けているし、服もちょっとぼろぼろ。感じる魔力もいつもより弱くなっていた。
お互いぼろぼろだけど……今なら使えるかもしれない。あれの反省を込めたあの技。
「兄さん」
僕は兄さんに呼びかける。
「なんだ?」
「うまく避けて」
僕は前傾姿勢をとる。
兄さんは顔を強ばらせる。気づいたかな?
「空狐、まさか……」
そのまさかです。
対抵抗魔術展開……完了。周りの木々が不可視の何かに圧されるように揺れる。
肉体強化……完了。
刀を左右に二回振ってから構える。ここまでで、十秒も時間を使った。もう少し早く展開できればいいのに。
さらに前傾になり、
「秘剣、朔夜」
地面を蹴る。ものすごい音を立てて地面が爆発したと同時に視界が狭まるほどの加速度を受ける。
兄さんが上に跳ぶ。
僕は自分のスピードを制御しきれず、兄さんがいた場所に刀を振る。
「覇っ!」
轟音。地面が深く抉れた。思ったより威力があったな。
少しして兄さんが地面に降り立つ。技の後を見て顔をひきつらせていた。
そして、頭をひっぱたかれた。
「お、ま、え、は、俺を、殺す気、だった、のか!」
兄さんが頭をグリグリしてくる。
「いたい。いたい」
あうううう。技ができたら試してみたくなるのが人情ってものですしー。
しばらくして兄さんがやっと解放してくれた。
「あと、この技の使用は俺と母さんに止められてただろ?」
ああ、そのこと。
「大丈夫だよ。術式変えて威力はセーブしてあるから死夜ほど負担はないよ」
僕はパタパタと手を振って否定する。
あれは流石にねえ〜。試しに使ったら全治二ヶ月、意識不明の重体だったもんなあ。
「そういえばピンピンしてるな」
僕は、はははははと力なく笑う。
「肉体強化も対抵抗魔術も死夜の半分以下だからね。まあ、それでもしばらくは筋肉痛確定かも」
実は今も体中の筋肉が悲鳴を上げている。残りの魔力も半分以下でかなり疲れてもいるし……
ふーんと兄さんは納得して、
「まあ、あれだ。強くなったなお前は」
そう言って笑顔でばしんと僕の背を叩いた!
「ぴぎゃ!!」
体中に激痛が走る。
僕はその場にうずくまった。
「そんなに酷いのかよ」
兄さんが呆れた顔をする。
「お、お願い……しばらく、僕に、触ら、ないで」
僕はそんな情けない懇願をするのであった。
しかし、この後、僕はみんなに体を叩かれまくって危うくお彼岸の住人になるところであった。
鈴:「大変遅くなりまして申し訳ございません」
ぶかぶかーっと土下座している気分。
刹:「まあ、遅くても気にする人いないと思うけど、なんで遅くなった?」
鈴:「いやあ、合宿にいったりバイト多めに入れたりと、今年の夏休みはする事目白押しだったから」
刹:「なるほど」
鈴:「あと、この回は何度も直してたからそのせいも」
刹:「ほほう?」
鈴:「最初は朱音と月狐が戦う予定だったけど、今のに変更したり、描写をがんばろうとして挫折したり、好きなアニメの技とか入れたり抜いたり、プラズマザンバーブレイカー入れたかったなあ……」
刹:「それでは、みなさま。この回は作者の未熟さが現れてる回と思いますので、なにか指摘する部分がありましたらぜひぜひお願いします」
鈴:「こらー、無視するなー!」
刹:「それでは、バイバイ、シーユー!」