第三十八話 宴会ですよ
さて、皆様は僕がこの町にやって来た初日の晩の出来事を覚えていらっしゃるだろうか?
覚えてない方や見ていない方は第七話まで一度お戻りください。
「さけー、もってこーい!」
イヴが小さな体で一升瓶を逆さに振る。本当に酒を浴びて飲んでいたんだから、服と綺麗な金髪は酒でびしょびしょで肌に張り付いている。
うん。服が体に張り付いて目に毒だ。少し自分のプロポーションが青少年に悪影響与えかねない武器だってこと理解してくれ!
その横では兄さんが一升瓶をマイク代わりに熱唱している。
で、龍馬は母さんに酒を飲まされすぎてダウン。相変わらずよっわいなあ。
そして、とうの母さんは今度はハルと飲み比べをしている。
「あらあら、ハルちゃんお酒強いのね〜」
「ええ。もっと飲みましょお母さん」
うん。楽しんでるならいいや。
チラッと刹那くんを見る。
彼の周りには一升瓶やウィスキーやワインがゴロゴロ。
今だって度の強いブランデーを一気飲み。ぷはあっと美味そうに一息ついて今度はワイン。
……本当に人間か? 僕なら今ので眼を回してるぞ。
朱音さんはホロ酔いな感じで舞さんと一緒に飲んでいる。
「そうなんですか〜。刹那くんと朱音さんって幼なじみだったんですか〜」
「そうなのよ〜。その時の刹那ってすごく鈍くてね〜」
なんかこっち見られてるような……
二人は互いにコップに酒を注ぎあう。仲いいなあ。
てかあの二人幼なじみだったんだ。
見ているうちにどんどんテンションが上がる二人。
「いいか舞。幼なじみはサインが分かり難いから分かりやすいようアピールするんだ!」
「サーイエッサー!」
「押して押して押しまくるんだ!」
「サーイエッサー!」
盛り上がってるなあ。
アルトちゃんは僕のそばでジュースを飲んでいる。
この子は飲めないらしく朱音さんからみんなに強く止められている。
「みんないい感じに盛り上がってますね〜」
アルトちゃんがにゃははと笑う。
まあ、素面じゃあこの中に飛び込み辛いよなあ。
「そうだね〜」
僕はちびちびとで酒を飲みながら答える。なんでちびちびかって? もし僕が酔いつぶれたら旅館の人に片付けさせる事になっちゃうじゃないですか。でもね、僕も好きでちびちび飲んでんじゃないんですよ! やっぱお酒はぐいっといきたいですよ!
「じゃあ……行ってきます!!」
「グッドラック!」
ビシッと朱音さんが指を立てる。
どうやら二人は何か相談してたようだ。
僕は気にせず一升瓶を取ろうとして……すかした。
あれ? 確かに目の前にあったと思ったんだけどなあ?
すると、舞さんが僕の目の前に一升瓶をちらつかせる。
どうやら彼女が僕の前からかっさらったらしい。
「うふふ〜ん。空狐くん、飲みたい?」
舞さんが一升瓶を持って聞いてくる。酔っ払ってるなあ。
「飲まないとやってられませんよ」
そう言ってコップに残ったのを一息に飲む。
そして、舞さんにコップを差し出す。
注いでくれるのを期待していたけど一向に注がれる手応えがない。
「舞さん?」
舞さんの方を見ると、舞さんが酒を飲んでいた。
なんだよ。自分で飲むために取ったのか。
お酌をしてもらえるかなっと期待してたのに。
……いや、飲んでるんじゃない? 頬がまるでリスのように膨らんでる?
しかも口を離したら迫ってくるんですけど!?
「ま、ま、舞さん何するつもりなの!?」
「ん〜? ふひふふひ」
何ですとーー!!
す、少し嬉しいけど、みんな見てますよー!!
助けを求めるように周りを見るけど、ダウンしたハルと龍馬以外のみんなはニヤニヤ見てるだけ。アルトちゃんはその眼を期待に輝かせながら僕らを見ていた。
止めて。そんな眼で見ないでお願いだから、助けて……
「いや、舞さん。おおお落ち着きましょう?!」
お前が落ち着けというツッコミはなしの方で。
そして、舞さんが覆いかぶさってきて……
って、あれ? 舞さんが口を押さえてる? しかも、顔が紫になってきた?
「ま、舞さん?」
すごく嫌な予感。これってまさか、初日ラストの……
そして、
「ひもひわるひ……」
大当たり〜〜!!
すぐに周りのみんなが行動する。
皆が目指すはたまたま置いてあったバケツ。
みんな! 僕を助けてくれるんだ!!
しかし、世は諸行無常。
まず、刹那くんが倒れてた龍馬にけっつまづく。
そして、バランスを崩した拍子に彼の手から瓶がすっぽ抜けて、母さんの後頭部に直撃。
そしたら、倒れ込む母さんの手が朱音さんの帯を掴んでしまって、朱音さんの着物がはだけた。
それを見てしまった兄さんが顔を真っ赤にした朱音さんに殴られる。
それに巻き込まれてしまったアルトちゃんが伸ばしていた手でイヴが叩き落とされてしまう。
うそでしょー!
一瞬で全滅。唯一生き残った朱音さんが慌てて着物を正すけど……
もう遅かった。
「うえええええ!」
「いやああああああああ!!」
結局、運命は僕を再びイジメることを選んだようだった……
その後、みんなが片付けるから僕は風呂に入るのを進められて入ることになった。
そして、夜の部屋にて。
「うーん……」
そばでパタンと寝返りを打つ音。
し、しまった。部屋が舞さんと一緒だってことすっかり忘れてた。
さっきから僕の心臓は狂ったようにバクバク脈打っている。
一応、よそを向いているけど、それが余計に想像を掻き立てている気がする。
うう……尻尾がピーンと立っちゃってるよ。こんな時に限ってイヴは母さんたちのところに行っちゃってるし。
にしても暑い。僕の体温が高くなっているからさらに蒸し暑い。
ついに欲望に負けてごろんと舞さんの方を向く。舞さんとは五十センチほど離れている。
こっちを向いている以外特に何ともなっていない。首の下まで布団がかかっている。少し安心した。
すーすーと健やかな寝息が聞こえる。
にしても何だか涼しそうだにゃあ。
うん。もしあの布団の中に入り込めたにゃらひんやりと快適に安眠できる気がするにゃ。
ああ、やばひ。そんなこと考え始めたら本当にした方がいい気がしてきたじゃにゃいか。
うんそうだ。きっとそうすべきなんだにぇ。
とそこで舞さんがまた寝返りを打つ。
僕はビクッとなった。
落ち着けー、落ち着くんだ僕。もしそんなことしたら嫌われるかもしれないじゃないか。
いや、舞さんのことだから別にいいよって言ってくれるかもしれないけど、それでもそれは卑怯者のすることだ。
KOOLになれ、空狐!
よし、何だか落ち着いてきた気がするぜ。
となったら今度こそ寝るんだぜ!!
と、午前三時に六度目の思考を行う。
その後、五時まで後四回ほど同じ思考をして、結局睡眠時間は二時間だった。
鈴:「狐火の読者数、四万Hit超えたよ!」
空:「おめでとう!」
鈴:「くうう、最初の頃はこんなに読んでもらえるとは思いもしなかったよ!」
刹:「よし! 今から宴会だ! みんな呼ぶぞー!!」
鈴&空「「それはダメー!!」」