第二十九話 親発見!
警察署までの道のりは、なんか……痛かった。
こっちを見てこそこそおしゃべりしているおばさんとか、好奇な視線を向ける学生とか。
なんか僕たちの事話してないか? と被害妄想を浮かべてしまう。
「わたしたちどう見られてるのかな?」
舞さんが僕の方を向く。
なんとなく嬉しそう。腕の中の赤ちゃんも嬉しそうに笑っている。
僕は顎に指を一本当てて、
「迷子を連れた従姉弟」
と答えた。まんまじゃんと、舞さんが笑う。
そうこうしている内に警察署に着く。
なんだかじっと見られているような……
恥ずかしくなりながらも建物の中に入る。中では一人の女の人が、なにやら深刻そうに係りの人と話してた。
僕らはその隣の窓口に。
「すいません、迷子がいたのですけど」
「あぎゃ」
ちょうどよく赤ちゃんが鳴いた。
くるっと女の人が振り向く。するとぱあっとその人の表情が明るくなった。
「ああ! 幸子!!」
えっ?
女の人はこちらに駆け寄ってきた。
「どこにいたんですかこの子? うちの娘でずっと捜していたんです!」
どうやら、捨て子ではなかったようだ。
でも、だったらなんでダンボールの中に?
ちょっと首を捻る。
「さっき、散歩してたらダンボールの中にいたんですが」
と言ったら合点がいったように赤ちゃんのお母さんがぽんっと手を合わす。
「まあ、また?」
…また?
「どういうことですか?」
舞さんが聞く。
お母さんは恥ずかしそうに頬に手を当てて、
「この子、なんでかダンボールがお気に入りなんです。前、家でもダンボールの中に隠れたりして、慌ててしまったこともあるんですよ」
ああ、なるほど。猫と一緒にいたのは、捨て猫のダンボールに興味を持って、中に入っちゃったからか!
って変な事に納得すんな僕!
「ありがとうございます。ご迷惑おかけして」
ぺこぺこと赤ちゃんのお母さんが頭を下げて来た。
「いえ、この子かわいいですから、また逢いたい位です」
舞さんが笑う。
赤ちゃんのお母さんもふんわりと笑う。
「ふふ、ありがとう。ところで、お二人とも仲がよさそうですね。恋人ですか?」
こ、恋人お!? あまりの不意打ちに僕の顔が赤くなる。
「ちがいますよ」
「そ、そうです!ぼ、僕ら従姉弟です!」
僕は顔を真っ赤にして、舞さんは涼しい顔で否定する。
なんか、がくっとくる。
「あら、そうなの?」
ああ、恥ずかしいし、悲しい……
「それでは、ご迷惑おかけしました」
頭を下げてから幸子ちゃんのお母さんは、警察署を出る。
「いいお母さんみたいだね」
「そうだね」
「ふぎゃあ」
幸子ちゃんも同意するかのように鳴いて……はい?
よく見れば、いやよく見なくても、幸子ちゃんはまだ舞さんが抱っこしていた。
二人とも顔を合わせて……話している間に渡すのを三人とも忘れてた。
「ちょ、ちょっと待って!!」
「お母さん、幸子ちゃん忘れてますよ!」
慌てて走り出す僕ら。うっかりしすぎですよお!!
そんなこんなでお母さんに追いつく。
「あら、私ったら」
恥ずかしそうに頬を押さえるお母さん。
僕らはぜいぜい肩で息をする。
「あの……」
舞さんが幸子ちゃんを差し出す。
今度こそちゃんと幸子ちゃんを渡した。
「ありがとうございます。そうだ、よかったらうちに来ませんか? お礼をしたいんです」
僕らはちょっと考えて、
「「お供させていただきます」」
正直、この人を一人にするのはすごく怖かったりする。
お母さんはにこっと笑って、
「ああ、そうでした自己紹介まだでしたね」
それから一礼。
「私は上月 涼子といいます。よろしくお願いします」