第二十八話 捨て子?
困ったなあ。
「えーっと」
ピンチです。今までの人生の中でこれほどのピンチは数えるほどしかありません。
ああ、どんなピンチかこれじゃあ、みなさんわかりませんね。では、これを聞いてください。
「あぎゃあ」
わかりましたか? わかりませんか?
つまり、その……僕は赤ちゃんを見つけてしまいました……
愛くるしい顔がこっちを見ている。
うーみゅ。赤ちゃんが公園にいるのはいいとして、なぜダンボールの中? しかも、猫と一緒だし。つまり、捨て子?
考え出したらキリがない。仕方ないから拾い上げる。
思ったより軽くちょっと驚く。
そして、そのまま帰路についた。
そして、家の前。
「ただいま」
家の中に入る。抱えた赤ちゃんは眠っているらしく静かだ。
「おかえりなさい。いつもより散歩早いね。どうしたの?」
舞さんがひょこっと部屋から顔を出して……固まった。
あー、痛い沈黙が流れる。
「あのね、これは」
「不潔よぉぉ!」
お決まりのセリフだった。僕の反論すら許さない。
「わたしにこっそり子供なんて作って」
「ちょっと、それ誤解」
「相手は誰!」
「落ち着け馬鹿姉!!」
はあはあ、と舞さんが荒い息を整える。
そして、
「そうだね。わたしと再会する前のことだもんね。しかたないね」
「ちっがーーーう!!」
思わず大声で否定。
「僕じゃない! 僕の子じゃないよ! 大体この街にまた来たのだって、半年前で、その前は、三年も山のなかで暮らしてたんだよ。だいたい、僕の子なら尻尾と耳があるよ!」
ポンッと舞さんが手を打つ。
「そういえば、そうだね」
ふう。やっとわかってくれた。
それから、舞さんが首を傾げる。
「じゃあ、この子は?」
「散歩してる時に拾ったんだよ…」
「まあ、かわいそう」
よしよしと舞さんが赤ちゃんをなでてあげる。
今に二人で相談を始める。
「どうするのこの子?」
今は、舞さんが抱っこしている。
「どうするって、やっぱり警察に届けででしょ?」
そうだね。と舞さんが頷く。
「でも、酷い親もいるんだね。こんなかわいい子を捨てるなんて!」
ぷんぷんという形容詞がつきそうなご立腹加減だ。
と、そこで、
「おぎゃあ」
あ、起きた。
「あー、よしよし」
舞さんがあやし始めるが、一向に泣き止む気配はない。
「もしかして、おしっこ?」
「んん、匂いはないよ」
くんくんと嗅いでみる。こういったときに狐の鼻は便利だ。
まあ、逆によずぎて化学実験の時にマスクしても鼻が痛くなってしまうけど。
アンモニア嗅いだ時なんか七転八倒。でそれ以来、僕に薬品の匂いを嗅がせないのが暗黙の掟になった。
「じゃあ、おなか空いたのかな?」
「でしょ」
選択肢はそれぐらいしか残っていない。
舞さんは顔を紅くして、
「そ、そう。なら」
恥ずかしそうに彼女は服を捲り上げてええええ!
「な、何してんですか!!」
僕が慌ててストップをかける。
舞さんは恥ずかしそうに口を開く。
「だ、だから赤ちゃんに」
「しなくていいですよ! 出るわけないんですから!」
最後まで言う前に止める。
すると、彼女はむっとした顔になって、
「やってみないとわからないよ!」
「わかりますから……えっと、歯は生えてるな」
確認してから台所で、りんごを摩り下ろす。
もどると、舞さんにあやされている赤ちゃん。さすがに台所に行ってるうちにやってはいなかったみたいだ。
「はい、できましたよ」
それを持っていって、赤ちゃんに食べさせる。
「はい、あーん」
口の前にスプーンを近づけるとぱくっと食べてくれた。よかった。
「わあ、かわいいね」
舞さんが嬉しそうに赤ちゃんを見つめる。
すぐにお皿が空になると、おなかがいっぱいになったのか安心したように赤ちゃんはすやすやと眠る。
「よく食べるね。この子きっと大きくなるよ」
感心したように舞さんが微笑む。
「さてと」
落ち着いたようだからな。
「今のうちに警察に連れてこ?」
「うん……」
彼女は名残惜しそうに頷くと立ち上がった。
はい、投稿日を火曜から水曜に変えさせていただきました、以後よろしくお願いします。
火曜は大学が五時間あってなかなか作業がしづらいけど、水曜なら午前中は授業ないんで。