第二十七話 泳げた!
「じゃあ、まずはばた足からね」
舞さんに手を引かればた足をする。それをじっと見る刹那くんと朱音さんにハル、龍馬の視線。ぷにぷにした舞さんの手の感触。ううう、ちょっとだけ恥ずかしい。
「これは、特に問題なしか」
「だな。さっき見たけど手も問題なさそうだし」
刹那くんと龍馬がそう評価してくれる。
お? 意外といい評価いただいてますか僕?
「一度やらせてみようよ」
「確かに、腕と足ができるなら他に問題があるんだろうしな」
ハルと朱音さんの言葉に刹那くんは、うむと頷いた。
と言うわけで早速泳ぐ事になります。
「空狐くんがんばれ〜!」
プールサイドから舞さんの声援。
僕は親指を立ててから、壁を蹴って泳ぎ始める。
沈まずに浮く。手をかき足で水を蹴ると前にぐいぐい進んでいく。
おお、なんだ僕けっこういけるじゃんと自画自賛してみる。
だけど、何故か段々と息が苦しくなっていって……
僕は半分ほどで力尽きて舞さんたちに回収された。
プールサイドに引き上げられる。刹那くんがライフセーバーの資格もってて助かった。
「ぜはー、ぜはー」
ああ、空気がこんなに美味いなんて……
舞さんは「大丈夫?」と背をさすってくれる。
「なんで沈んだのかなあ?」
刹那くんたちが顔を突き合わせて相談している。
「いや、単にさ」
「呼吸してないからじゃない?」
と龍馬とハルの意見。
あまりにも簡単な回答だった。
と言うわけで呼吸の練習を見てもらってからもう一度。
今度こそ!
ばっと泳ぎ始める。そして、呼吸を!
「すはー」
口を開けて空気を吸う。
……大量の水と一緒に。
「がぼっ!?」
最初の十メートルで、また沈んでしまった。
「げほげほげほげほ」
器官に水が入って何度も咳をする。舞さんとハルが背中をさすってくれるおかげでちょっとだけ楽になった。
またも三人が顔を突き合わせて相談している。
「今度は呼吸と一緒に水を吸い込んだか……」
刹那くんが深いため息をつく。
「器用と言うか何というか」
「難儀な子だな」
龍馬と朱音さんも深いため息をついた。
うう、呆れられてるっぽい……
「仕方ない……」
そう言って刹那くんがおもむろに腰を上げる。
「最終手段だ!」
そして、二十分後。
「おお! 泳げてる、泳げてる!!」
やった! やりましたよ! うう、苦節十五年、ついに僕は水を克服したのだ!!
その様子を遠巻きに眺める舞さんたち。
「……嬉しそうだな」
ぼそりと龍馬が呟く。
「まあ、やっと泳げるようになれたんだから」
ハルが生暖かい目でこっちを見ていた。
その間も僕はバシャバシャと泳ぎ続ける。
「やったね。空狐くん!」
ただ一人、自分の事のように嬉しそうな舞さん。
「いや、犬かきだし……いいのかい?」
朱音さんが視線を刹那くんに向ける。
刹那くんが微妙な笑みで頬をポリポリかく。
「まあ、本人が喜んでいるんだし、いいんじゃないか? それに狐はイヌ科の生き物だし」
みんな何か言ってるけど、この時の僕にはちゃんと聞こえてなかった。
後日、水泳の授業の内容がバタフライで結局、やり直しだった。
森元ティーチャーはしばらくその事でからかってきた。
……また剣道の授業になったら思いっきりぶったたいてやる!
にしても、うう、がんばったのに!!
……でも、一歩前進できたからよかったかも。そう思いつつプールで練習する僕であった。
すいません。ストックしてた別の話の後半入れちゃいました。修正しときます。
そして、空狐ごくろーさまでした!
にしても、初めて泳げたときすごく嬉しかった事を覚えてます。
皆さんはどうですか?