第二十六話 カナヅチでした
どうも、だいぶ暑くなってきて夏服に衣替えしました。空狐です。
暑い中、舞さんと教室に入って机に座った後グダーっと身を投げ出す。
「だ、大丈夫? 空狐くんって暑さに弱かったっけ?」
心配そうに僕を見る舞さん。
「ねえ、舞さん。知ってるよね? 雪が降ると犬は喜ぶんだよ。つまり、冬が好きなんだよ」
「う、うん」
何を言いたいのかわからないご様子。だから、言った。
「つまり、犬科の動物は冬の反対である夏は嫌いなんだよ」
「なんじゃそりゃ」
じっとこっちを観察していた刹那くんがつっこんだ。だけど、そんなの気にする暇はない。
「うう、暑いの嫌い」
さらに体を机に投げ出す。ちょっとだけ机が冷えていて気持ちよかった。
冬なら炎術の暖房でちょうどいい温度にできるけど、夏では無理なんだよなあ。冷気系は苦手だし。
「なら、いい報告があるぜ」
ほう、いい報告? 何だろ?
表情が緩んでる刹那くん。それが本当に楽しみのようだ。
「来週からプールなんだよ! 楽しみだなあ!」
…………返事がない。ただの屍のようだ。
ふふふ、いい報告? どこが? 僕にとっちゃあ死刑宣告ですよそれ。
「く、空狐くんどうしたの?」
さらに気力を失った僕を舞さんが揺する。
力なく僕は口を開く。
「……げない」
「「はい?」」
二人とも何と言ったか聞こえてないみたいだから、はい、もう一度。
「僕は、泳げないの」
しばらく沈黙して、ぎくしゃくと二人が動き出す。
「そ、そうだったね。空狐くん海に行くたびに浮き輪使ってたものね」
「で、でもさ、ヤバいよ。水泳の担任森本だから、仕返ししてくるかも」
あう。剣道の実技で勝っちゃって以来目をつけられてるんだっけ。
どうしようか?
「しかたないね」
何かを決意するように舞さんがグッと拳を握る。
なんか嫌な予感。
「次の休みに特訓だよ!」
何か決定してしまった。
と言うわけで土曜日。
「暑いなあ」
「だなあ」
「ま、女子は着替え長いから」
特訓のためプールにやって来た刹那くんと龍馬で舞さんたちを待っていた。
龍馬がいるのは、ハルが僕らの特訓を聞きつけて、自分もついてきたからだ。
ちらりと、二人を見る。
刹那くんの体は鍛えているためか余計な肉がついてない。
龍馬も背が高く、体もがっしりしててうらやましい。
「お待たせ」
と、そこで後ろから声。
「あっ、舞さん、朱音さん、ハル。遅かったです……ね」
後半がしだいに尻すぼみになっていく。隣では刹那くんと龍馬もポカーンとしていた。
何というか……ねえ?
朱音さんは黒いビキニで、大人な彼女によく似合っている。しかもスタイルも抜群だから。すごい。
ハルは白いビキニ。白い肌とマッチしていてよく似合っている。
そして、舞さんは競泳用の水着。
ただね、何というか……すご。
そりゃあ、前から舞さんと朱音さんのスタイルの良さはわかってたよ? だけどね、いざこう見るとね?
すらっとした手足は健康的で、濡れた髪がなんとも艶めかしい。
そして、ほっそりしたわりに抜群のプロポーションが水着のおかげではっきりわかってしまう。
そんな美女と美少女たちにさっきから男女問わず注目しているんですよ。
「空狐くん、どうしたの? 顔真っ赤だよ?」
舞さんが不思議そうに僕の顔を覗き込んでくる。
そん時に自己主張する豊かな谷間が目に入って……ぐっ!
「な、何でもないよ! ちょっと暑いだけだから! 早く準備運動してプール入って準備運動して準備運動しよっか!!」
「何回準備運動する気だよ」
刹那くんの声も今の僕には届かなかった。
僕は小学校の後半まで泳げませんでした。
みなさんは?
とりあえず、今は空狐が泳げるようになるか暖かく次回まで見守ってください。