第二十三話 イヴのダイエット
先日の買い物から数日後。朝ごはんを食べているところで、
「ダイエットよ!」
イヴがいきなりそう宣言した。
僕はサラダをぱくつく。
「で、なんでいきなりダイエット」
イヴはこの前買ってきたドレスを取り出す。
「これを着るためよ! このままじゃ私は負け犬になってしまうもの!」
そう言ってイヴがしゅっしゅっと拳を振る。
そんなに太ってないと思うけどなあ……
メリハリのきいたボディーライン、細い手足。言われてみればちょっとだけお腹が出てる気がするけどそれほど出てるとは思えない。
女って何でこういうのにベクトルが向くのかな?
僕はそんな事を考えながら朝ご飯をパクつく。
「じゃあ、今日のご飯少なくする?」
舞さんがイヴの前にあるご飯を見る。
イヴを紹介した日から舞さんは彼女の分も用意している。
「……明日から」
イヴがベーコンの切れ端を食べながらお願いした。
「どうするの? やっぱり走るの?」
放課後、彼女に付き合って僕らもダイエットをする事に。
ちなみにイヴはどこから出したのかジャージ姿。
「うふふ、空狐」
不気味な笑いを漏らすイヴ。
怖くてちょっと引いてしまった。
「な、なに?」
「体貸しなさい」
またかい。
僕はため息を吐く。舞さんが不思議そうにこっちを見ている。
あ〜、もう。
「この前貸したばかりでしょ。またこん……」
「あれの場所も舞にばらすよ?」
「どうぞどうぞ使ってください」
弱いと言うなかれ。男としてあれの場所をばらされるのは辛いのだ。
部屋に戻る。くそ、イヴのいない間に隠し場所変えなくちゃな。
天月を部屋持って外に出る。
僕はため息を吐きながらイヴを見た。
「じゃあ、やるよ」
「よろしく」
イヴが刀の中に戻る。少ししてから刀から光が漏れ出す。
「天月第四形態」
しゅるっと刀から漏れ出す光が体に巻き付いていく。
「『顕現』、イヴ」
ぱっと光が辺りを明るくする。
光が収まるといつもと違う感覚。
「やっぱり慣れないなあ」
こきこきと体を動かす。
いつもより体が軽い。背は変わらないけど、なんだか動き辛い。
胸元の二つの感触も男としてはちょっと恥ずかしい。実はイヴはわりと胸が大きい方だ。舞さんより少し小さいくらいか?
だけど、それ以外に特に違和感を感じなくなってきていてなんだか悲しくなってきた。そういえば、これ十回以上やってるんだっけ。
「体の支配権渡すよ」
『OK』
僕は自分の体の支配権を手放し傍観者になる。すぐにイヴが体の支配権を手する。
今は僕の体を使ってるのはイヴだ。姿もね。
「やっほー、舞。この姿は初めてね」
驚いてポカーンとしている舞さんに声をかける。
自分が言っている訳じゃないけどなんとなく新鮮な気分だ。
「えっとお」
舞さんはちょっと悩んで、ポンッと手を叩く。
「イコちゃん?」
「『名前まで合体させなくていいから』」
二人同時につっこむ。
「じゃあ、どっち?」
「イヴよ。今は空狐に体を貸してもらっているの」
普段はこの状態でも、主体は僕だけどね。
「うん。わかった」
舞さんが頷いた。
まずは、走る前に準備運動から始める。
「そういえば、妖精なのにイブちゃんも太るんだね」
一緒に走ろうと準備運動していた舞さんが思い出したように呟いた。
「う〜ん。まあね」
実際は単に服が着れなくて悔しくてダイエットし始めようと思っただけだけどね。
太ったわけじゃないんだよなあ。
「空狐、うるさいわよ」
はいはい。すいません姫さま。
ぐっぐっと身を捻る。この状態は体も柔らかい。
にしても……何だかなあ。
体を動かすたびに二の腕に柔らかい感触がするのはなかなか恥ずかしい。
胸の方も触られた感じがして……ううう。
「ねえねえ、その身体ってどういう仕組みなの?」
舞さんの目、好奇心でいっぱいになってるなあ。
イヴはちょっと考えて、
「変化の術の応用かな?」
適当に誤魔化した。
これは、宿したイヴの情報を元に彼女の元の姿を再現する術だ。
変化の術も使っているかもしれないが、原理はよくわかってない。
「ついでに言えば人格の方もね、共有はしてないわよ」
体は共有してるけど、人格そのものは別個になって存在する。多重人格に近いのかな? どんなのかは知らないけど。
もちろん、問題がないわけじゃない。初めての頃はどっちが自分かわからなくなる時もあった。一度だけだけど、体が入れ替わったりした事もある。
そん時は母さんに手伝ってもらってすぐに元に戻れたが。
でも、慣れるとこの体は女になる事に目を瞑ればなかなかいい。空を飛べるし、能力もいろいろ上がる。
イヴがぐりぐり首を捻って、
「さてと、そろそろ行きましょ」
その言葉とともにダイエット作戦がスタートした。
『イヴのダイエット』修正しました。
変身、ジョギング、その後の三本にします。
それと、座談会の内容募集してます。
メッセージや感想で何かお願いいたします。