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狐火!~狐少年の奮闘記~  作者: 鈴雪
第四章 イヴの意地
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第二十二話 朱音の趣味

「ふふふん♪」

 機嫌よさげに舞さんが鼻歌を奏でる。

「嬉しそうねえ、舞」

 と呟くのはイヴ。

 僕は肩にイヴをのせて舞さんの隣を歩いている。

 今日は舞さんとの買い物で、彼女はお気に入りのレースをふんだんに使ったワンピースを着ている。

 歩く姿ははっきり言ってかわいいがさっきから注目を集めまくりで、男の『てめー、うらやましいじゃねえか』と言った感じの視線が手を引っ張られている僕に突き刺さっている。痛い痛い。

「着いた」

 そう言って嬉しそうに彼女が止まったのは……

「えーと、舞さん?」

「何? 空狐くん?」

 はち切れんばかりの笑顔がそこにあった。

「ここ?」

「ここ」

 その店はいわゆる……ファンシーショップだった。


 柔らかな暖色系で書かれた店の看板に入り口横のウィンドウには数々のぬいぐるみやキャラクターグッズ。男には入りづらい店だなと思わせる雰囲気を持つ店だった。

 舞さんが古びた感じのドアを開けると控えめな歌を奏でるドアベルが鳴って、僕は慌ててついていく。

 その店の中は見た目より広くて明るい。置いてある人形や小物もいい感じで店長のセンスのよさを感じる。

 なんとなく見ててほのぼのとした気分にさせてくれる。

 最初は躊躇うかもしれないけど一度入ればあまり気にならなくなるだろうな。

 それに、よく見れば、男の人もけっこういるし、(女の人もいるから多分カップル中心)それほど恥ずかしくはないかな?

「うーん、どれがいいかなあ?」

 そう言って舞さんが見ているのは人形用の服。実はこの買い物、イヴの服を買うために来たのだ。

 イヴも僕の肩を蹴って舞さんの横に跳ぶ。

「私はこっちの方がいいかなあ?」

「うーん、こっちもどう?」

 何というか……女の人の買い物って口出しずらいな……でも

「空狐くん何してるの?」

 僕が舞さんの横に並んで頷いたり首を傾げたりしてみせていたのだ。

「ほら、イヴって普通の人に見えないから、舞さんが僕に話しかけているように見せてるんだよ」

 舞さんがイタい人に思われたくないからね。

「健気な行動ね。空狐。私は応援するわよ」

 イヴが何かうんうん頷いていた。


 そんなこんなで舞さんとイヴが選んだのは二人の好みを反映したこの時期に着るのはちょっと辛そうなフリルやレースを多用したフリフリドレス。色は黒とピンクの二つ。

 まあ、イヴに似合いそうだなこの服。

「値段は……ゲッ」

 払えるけど思ったより高い。人形って意外と金がかかるんだなあ。そういえば、UFOキャッチャーでも狙った商品が当たらなくてかなり金もかかるし。(微妙に違う)

「大丈夫。わたしが払うから」

 舞さんがそう言ってくれるけど……

「いいよ。イヴの保護者は僕だから、僕が払うよ」

「誰が誰の保護者なの?」

 イヴがちょっとだけ怒っている雰囲気を漂わせるけど無視。

 ふん、とイヴが鼻を鳴らす。

「なによ、私のおかげで一級の試験合格したくせに」

「えっ? もしかしてカンニング手伝わせたの?」

 驚いたように舞さんが僕を見る。

 確かに他の人には見えないからカンニングに便利そう。だけど、

「違うよ。実技の時にちょっと力を借りたんだ」

 イヴとの並行演算で実技を乗り切ったのだ。多分、イヴがいなかったら落ちていただろう。

 僕は彼女がいなければ(当たり前だが)半人前なのだ。今の戦闘スタイルも彼女のアドバイスのおかげだし。

「それもズルいんじゃないの?」

 確かにそうかもね。いや、実技でいい杖や刀を使うのはみんなやっている。ずるくない。うん、きっとずるくない。(自分に言い聞かせるように)

「まあ、いいじゃん。お会計済ませようよ」

 僕はドレスを入れた籠を持ってレジに向かった。

「逃げたわね」

 イヴがそう呟いたけど気づかない振りをした。



 レジに向かうと知ってる後ろ姿を見つけた。

 ピンク色の髪に、黒いドレスっぽい感じの服。

 あれって……

「朱音さん?」

 舞さんが呟いた通り朱音さんがいた。だけど、なんかソワソワしているな。

 僕はこっそり近づいて、

「あーかねさん」

「うひゃう!!」

 ポンッと彼女の肩を叩くと変な声を上げて朱音さんが振り向いた。

「ななな、なんだ空狐?!」

 あれ? 木霊じゃない。そして、反応すごいな。

 顔も赤いし。

「どうしたんですか? こんな所で」

 舞さんが聞いてみる。

「やっ、何でもないよ。どんな店か気になって入ってみただけで……」

 とそこまで言いかけて、

「朱音買えたぞ〜。お前の欲しがっていた人形」

 タイミングよく刹那くんが現れる。

 その手に抱えられてるのは大きな袋で、中からデフォルメされたかわいらしいドラゴンと熊のぬいぐるみの顔が飛び出していた。

 僕らが振り返ると耳まで真っ赤にした朱音さん。

「朱音さんって……」

「意外と可愛いもの好き?」

 よっぽど恥ずかしかったのか頭を抱える朱音さん。

 それから、ちょっとたって、

「バッ……バカバカバカバカバカバカバカバカ、バカア!」

 ポカポカ刹那くんを叩き出す朱音さん。大人っぽい彼女だけどそう言う行動がかわいく見えてびっくり。

「なんでこんなにタイミングがいいの!」

「狙ったから」

 刹那くんがそう言った瞬間、朱音さんが強く踏み込みテンプルにフック。チョッピングレフトを決めてからトドメにアッパー。

 そして、床に投げ出された刹那くんから放れた袋を見事にキャッチ。

「悪は滅んだ……」

 静かにそう告げたのだった。


 もちろんその後、店長に(何故か僕らも)お叱りを受けてしまった。


 店長からお叱りを受けてから店を四人で出る。

「いや、なあ。店に空狐と舞さんが入ってきたのを見てこういった事起きるんじゃないかって思ってさ」

 あっという間にダメージを回復させた刹那くんがそう告げると、朱音さんが頭を叩いた。

「全く……そういうことはするのは止めてよね」

 恥ずかしそうにそっぽを向いてしまう朱音さん。

「いやあ、意外とかわいいところって滅多に見せてくれないからつい、ね」

「恥ずかしい事を抜けぬけと人前で言わないで欲しいなあ」

 僕の中で今お二人はバカップルに認定されました。

 そんな二人をみていたらすぐに家についてしまった。

「じゃ、またな」

 刹那くんの家の前で別れる。

「うん。またね」

「朱音さん。今度お人形見せてくださいね」

 舞さんが楽しそうに笑う。

 朱音さんは微笑みながら。

「ええ、いいよ」

 そんな感じで今日は終わる。






 おまけ

「ううううう」

 僕と舞さんはテレビを見続ける。

 後ろの怨嗟の声に気づかないふりをするために。

「なんでこんなに小さいのよおお!!」

 イヴの僕らにしか聞こえない叫びが後ろから響く。

 せっかく買った服にお腹が通れなかったとさ。


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