第二十話 刹那って?
「あーん。もっと触らせて〜」
「ダメだから! イヴおびえてるから!」
なんとか舞さんからイヴを引き離す。
イヴは半分涙目で僕の腕に引っ付いている。
「うう、空狐。あんたの事、幸せ者って言ってたけどあれ訂正するわ……この不幸もの」
僕も子供の頃あんな風に抱きつかれて頬ずりされてたんだよ。
その事言ったらイヴに『幸せね』なんて言われたんだっけ。
「うう、またねイヴちゃん」
諦めて舞さんが家に引っ込む。それを見てイヴが一言。
「いやよ、死んじゃうから」
確かに。
その後、ご飯を食べて現在学校に行くため家を出たところ。
「よっ!」
いきなり後ろから肩を叩かれる。
「おはよう。刹那くん」
「おはよ」
刹那くんがにかっと笑う。
昨日わかったことだけど、実は刹那くんの家はうちの斜め向かいの屋敷だったのだ。舞さんの家もかなり広いけど、刹那くんの家には負けていた。
「おはよう。それと昨日はありがとな空狐」
ポリポリ頬を掻きながら刹那くんが笑う。
「いいよ、僕もけっこう楽しんでたから」
いい経験になったし。
それと少し気になっていた事を聞いてみる事にした。
「ねえ、刹那くん」
「何だ?」
「君も退魔士なの? そうだとしたら何級?」
ちょこっと気になっていたんだよね。刀を持ち歩いているし。家の人に退魔士いるし。
「んっ? そうだけど。ランクは」
少し考える素振りをしてイタズラっぽく笑う。
「魔道師ランクはS+ランク」
ちょい待て。
「だから、魔道師ランクじゃなくて退魔士ラン……ク」
はい? S+ですと?
「S+?」
「S+」
こくんと頷いて僕の言葉を刹那くんが肯定する。
うん、みなさんご一緒に。さん、はい。
「ええぇええ?! S+!?」
マジですか? と、だったら、刹那くんの退魔士ランクはもしかして……
「特級なの?!」
「まあ……な」
母さん以外に初めて会った……
「ねえねえ、空狐くん。それってすごいの?」
舞さんが不思議そうに聞いてくる。
「う、うん。特級は退魔士全体を見ても数人しかいないんだから!」
確か十人くらいしかいないと母さんは言っていた。
ふーん、とよくわかってなさげに舞さんは相槌を打つ。
それから、舞さんは僕に顔を向ける。
「じゃあ、空狐くんは?」
「魔道師ランクはA+、退魔士ランクは一級」
個人的にはこれでも、この歳では十分な能力であると思っている。
ちなみに、A+ランクとS+ランクの差はけっこうある。アリと戦車は言いすぎだけど、少なくとも術の力だけで見るなら歩兵のライフルでバズーカに挑むような差がある。
「それじゃあ朱音さんは?」
次に刹那くんに顔を向ける舞さん。
僕もちょっと気になるなあ。
「S-ランクの一級。その内Sランク試験を受けるつもりらしい」
……実はこの町、化け物ばかり?
それから、ふと気がついた。
「にしても、君が15歳だとすると最年少じゃないの?」
特級の情報は協会内でも機密事項ではあるが、少しぐらいは噂ぐらい流れてくる。でも、人間の少年が特級をとったなどついぞ聞いた事がない。
刹那くんはふんと鼻を鳴らして、
「別に俺が十五の人間だなんて一言も言ってないよ」
え?
「もしかしたら人間ですらないかもしれないし、俺が本当の事を言っているとも限らないんだよ?」
えっと、そんなの疑いだしたらきりがないんじゃ?
でも、確かに刹那くんも人外なら、この匂いが変なのも少しは納得できるし……でも、やっぱ今まで会ったどの種族とも違うしなあ。
本当に何者なんだろうか。
「ま、冗談はこのくらいでさっさと行こうや」
そう言って刹那くんはすたすたと歩幅を大きくした。
「あっ、待って」
「わわ」
僕らは慌ててスピードを上げた。
いつかは、教えてくれるかな?
次にまた座談会をやりますんで。