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狐火!~狐少年の奮闘記~  作者: 鈴雪
第二章 新しい学校
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第十七話 空狐vs朱音

「いらっしゃい。いやー、やっとここを活用できるよ」

 そう言って刹那くんに案内されたのは……

 地下室。しかもかなり広い。天井までの高さは建物二階分。横と縦は学校の校庭の半分はあるだろう。

「なにここ」

「地下訓練室」

 平然と答える刹那くん。

「何でそんなものあるの?」

「いや、あると便利だろ? いろいろさ」

 いや、使い道がわからんって。

 そんな事を考えながら刀を袋から取り出す。

「じゃあ、やろうか」

 朱音さんが持ってきた棒の布を取ると中から折りたたまれた大鎌を取り出した。黒い服と合わせてまるで死神。見目麗しき死を運ぶ女神。なんてね。

 鎌のほうはかなり強い魔力を発している。たぶん装飾に見える刃と柄の間の紅い宝石は魔石だろう。すごく怪しい光を放っている。

「でも、平気なんですか? こんな地下で暴れて崩れたりしませんか?」

「大丈夫だよ。ここらの地質はしっかりしてるし、周りは三メートルの鉄板とコンクリの二重構造だしね。それに、模擬戦中は刹那が結界術で補強してくれるよ」

 なら安心だ。

「じゃあ、模擬戦開始。ルールは協会の戦闘訓練準拠で気絶、もしくは降参したほうの負け。攻撃は非殺傷設定よろしく」

 刹那くんが改めてルールを言って、

「それでは……試合開始!」

 ばっと僕らはお互いの間合いから離れる。

「ガンバレー、空狐くん」

 舞さんに親指を立てて笑ってから天月を鞘から抜く。

 そしてまずは、蒼い拳大の炎の塊を空中に五個作る。

 呼応するように朱音さんは雷の塊を十個。

「蛍火!」

 五個の炎の弾が跳ぶ。同時に前へ!

「サンダーバレット!」

 朱音さんの雷の塊からも雷撃が跳ぶ!

 こちらの炎と朱音さんの雷がぶつかる。八個相殺! 残り二個!

「破!」

 残り二個を走りながら叩き落す。そのまま、切りかかる!

 受けられる。すぐに朱音さんは後退。僕はそれに追いすがる。

 一合、二合と打ち合うが、長い柄をうまく使われてなかなか懐に入れない。

「不知火!」

 槍の形に似た自動追尾の炎を撃つ。弧を書く軌道で朱音さんに向かう。

「サンダーブレイク!」

 手の平から撃たれた高速の雷の槍で撃ち落とされる。慌てて避ける。そのまま、術は壁にぶつかりかなりの大穴を作った。当たりたくねー。

 予想通りこの人、強いことがわかる一撃だ。

「木霊くん」

 朱音さんがつぶやく。その顔は顰められている。

「もう少し本気を出しなよ」

 ! はい?

「な、何をいきなり」

「耳も尻尾も出てない」

 最後まで言う前に止められる。確かにまだ変化の方にも力を割いている。

「天月だって力を全然使ってない」

 いや、これ訓練でしょ? そこまでやるわけ……

「私は楽しみにしてたんだよ? あの銀狐が褒めてた使い手と戦うことを」

 だんだん声が険悪に、

「まあいいよ」

 そう言って朱音さんが大きく後ろに跳ぶ。そして高速詠唱。追いかけようとするけど……

「バインド」

 がしんと妙な手ごたえを感じると共に光の帯に足が捕まった!

「げ」

 朱音さんが足を止める。

「君が本気を出さないなら……ここで終わりだから」

 彼女の腕に二重に円環が回る。

「サンダーファランクス」

 呪文名と共に、腕の輪からいくつもの光の筋が……


 爆発、轟音。

 隣で舞が悲鳴を上げるがその音すら飲み込まれてしまう。ま、死んでないだろうからほっとこう。

 朱音の攻撃の寸前に何とか空狐は防壁を展開していた。だけど、ファランクスは秒間十発。最大二百発の連射が可能。

「さてと、どうなるかな」

 今日会ったただの少年ならここで終わり。だが、銀狐が言ってたことが本当なら……

「お前は本物かな空狐?」

 隣の舞に聞こえない程度の音量で呟く。

 そして、連射が終わり、土煙の向こうに……

「ははは」

 なるほど、とりあえず、そこにはいてくれてるか。

 耳と尻尾。妖狐としての姿の空狐と、光を纏う刀がそこにいた。


 って〜、

 ぎりぎりだったな。まだ、周りの空気がバチバチいってるよ。

 変化の術に割いてた魔力を防御に回し、天月を開放することで何とか防げた。

『やっぱり私がいないとダメね』

「かもね」

 僕の横に立っている金髪の美女が微笑む。

 陽光を編んだかのような綺麗な金髪。海の深さを連想させる深く蒼い眼。神がかった造作の顔。清楚な雰囲気の白いドレスをしっかり着こなしている。

 本邦初公開! 僕の相棒にして天月に宿る聖霊『イヴ』

 普段は刀の中で眠ってるけど呼びかければ答えてくれるし、戦闘では補助もしてくれる。

 そして、天月も開放第一段階。『夜光』

 刀の中に眠っているイヴを起こし、魔術の制御を分担。同時並行制御が可能な状態だ。さらに、天月も魔力光を纏うことで、魔術的な攻撃力が飛躍的に向上している。

「やっと、本気になってくれたかな?」

 朱音さんが嬉しそうに微笑む。

「ええ、まあ」

 よく考えると本気を出さないのは彼女にちょっとだけ失礼だったかもしれない。

「じゃあ、続きと行こう」

「はい」

 僕も笑う。少し……楽しくなってきた。


「槍炎!」

 青白い一点に集中した炎を撃つ。一直線だが速度はかなりのもの。

 突き出された朱音さんの手の前に防御陣が展開されて受けられる。

「疾っ!」

 そのガードした瞬間に瞬身の術で速度を上げて相手の後ろに回り込んで斬りこむ。

 ぎりぎり受けられる。もうちょいだったな。後退する朱音さんに追いすがる。

 右上から斬りかかる。刃で受けられる。すぐに退いて突き。上体を逸らして避けられるが浅く肩に入る。

「くっ!」

 朱音さんが蹴りを出す。それを右腕で受ける。かなり重く、ちょっと腕が痺れた。

「サンダーインパルス!」

 かざされた手の前に浮かんだ魔法陣から大きめの雷の弾丸が走る。

 足元を爆発させて緊急回避。いきなりの急加速に体がみしみし言う。

 しかし、すぐに自分の間合いまで朱音さんが迫る。

「はっ!」

 朱音さんが強く踏み込んで上段からの一撃。刀じゃガードできそうにないな、なら!

「陽炎!」

 周りの空気を一瞬で暖めて朱音さんの眼を誤魔化して避ける。ただ、問題としてこの術、自分の視界もぼやけるんだよね。すぐに解除する。

 すると少し離れたところで印を結ぶ朱音さん。

 上にいくつもの魔力球。帯電した空気。まさか……

「轟雷円舞!」

 やっぱ範囲系の呪文! 魔力球よりほとばしった雷で目の前に雷の壁が出来た。避けられない、なら! 魔力を見て密度の薄い場所に飛び込む!

「炎界!」

 ぶつかる瞬間に体中から炎を吹き出してガード。だけど、まだこっちの方の勢いが弱くてガードを突き破られる。刀で斬るけど、

「ぐう!」

 数歩後ろに下がる。ちょっとしびれた。

 だけど、すぐに体勢を立て直し、刀を向ける。

 近づけば斬りあい。離れれば魔術。なかなか均衡が破れない。

 正直あっちの方が強い。スピードは負けない自身があるけど、中、近両方が技はこっちが劣っているのははっきりしている。

 ちょっとまずい。

「獄炎!」

 練れるだけの炎を練って地面に叩きつける。轟音。同時に眼を眩ます。

 僕がそのまま突っ込む。

 煙の向こうに朱音さん。そのまま踏み込んで、

「サンダーブレイク!」

 僕に向かって雷の槍が飛ぶ。そして、その槍が突き刺さり、

 −−霞の如く消えた。

「えっ!?」

 実は今のは幻影。『雪月花』気を幻に残して本体は相手の後ろに回りこむ技だ。

 本体の僕は朱音さんの死角に回り込んで刀を振りかぶる。

『充電完了! 何時でもいけるよ!』

 天月が強く光る。

 先に袖下のナイフを投げる。朱音さんが鎌で切り落とした瞬間に、

「烈光斬!」

 刀から纏う光を斬撃として、撃ち出す。

「プロテクション!」

 振り向いた朱音さんが防壁で受ける。

 −−予想通りに。

 朱音さんの表情が強張る。

 烈光斬。防御に『咬む』ことで、一時的に相手を足止めすると同時にその防壁を削る特性を持つ技だ。

 攻撃でしか相殺できず、退くにも防御を止めれば直撃が待つ、我ながら陰険な技を作ったものだ。

 足止めしてる間に彼女に接近。刀を鞘に納めて深く踏み込む。

「斬!」

 居合い。が、

 後ろから伸びた魔力の糸に足が捕まる。半端に刀を抜いた状態でかっこ悪く床とディープキスしてしまう。

「ぷぎゅっ!」

 うそ、罠!? いつの間に!

「戦いは一手先を読むものだよ木霊くん」

 烈光斬を防ぎきった朱音さんが後ろに跳び、こっちに鎌の先端を向ける。

「バレル展開」

 その言葉と共に彼女の前に魔法陣ができる。

 慌てて立ち上がるとかなり強い魔力光が……

 な、なんかでかいの来る?!

 イヴと平行処理してるけど、ディスペル間に合うか?

「星屑たちよ我が手に宿れ。道を照らす光となれ」

「『スターダストインパクト』?! いくらなんでもやり過ぎだ朱音!!」

 刹那くんが切迫した表情で叫ぶ。そ、そんな大技?

 彼女の前で少しずつでかくなる魔力光。だめか、間に合いそうにない。なら!

 刀を鞘に納め直し、魔力を籠める。

 逃げられないならこっちの大技で相殺する!

 お互いの溜めてる魔力の余剰出力が静電気を生み出す。

「一撃入魂、スターダスト……」

 朱音さんが鎌を振り上げる。

「全力全開! 炎龍……」

 姿勢をさらに前傾に傾ける、

「インパクト!!」

 魔力球から光の奔流が迸る!

「飛翔!!」

 抜き放った刀から龍の形をした斬撃が跳ぶ。

 ぶつかり合う魔力と魔力。

「どうだ!」

 お互い押し合って……こっちの技が破られた。

「うそ!」

 僕の必殺技が!

 足を捕まった僕は逃げることも出来ず、防壁も展開したが一瞬で砕けて光の奔流が目の前まで迫り……

 光に包まれた瞬間、強い衝撃と共に僕の意識は闇に堕ちた。


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