第十五話 空狐は女装がお好き?
部室は適度に広い。大体普通の教室二個分ほど。さらに。隣の準備室に続く扉があるからそれを入れるともう少し広いだろう。
そして、あっちこっちに大道具らしきものがつまれているのは、たしかに演劇部の部室っぽい。
その教室に部員が集合していた。昼休みは大体みんないるらしい。
で、僕らは壇上に立って自己紹介。
「と、言うわけで彼が新戦力の木霊 空狐くんです」
舞さんが紹介してくれる。
「どうも、木霊 空狐です。よろしくお願いします」
ぱちぱちぱちと拍手が鳴った。
ちなみにここにいるのは、僕を入れて九人。一年生が僕を入れて五人。二年生が三人と三年生が一人ずつ、これで部員は全員らしい。
その中には見知った顔であるハルと龍馬も入ってる。
「て、俺は!?」
っと、刹那くんが主張するけどいちいち心を読まないで欲しいな。
ちなみにハルは龍馬と一緒に賭けで巻き上げたパンを食べていた。
「では、なんか質問ありますか?」
そう言って舞さんがみんなを見る。
「はいはい」
背の高い女の人が手を上げる。後ろで束ねられている髪は黒。目も黒い。背が高い以外はいたって普通の感じの人だ。
「はい、桜子先輩」
「どんなことができますか?」
ん〜? できることねえ。いざ聞かれると何って、ぱっと出ないもんなんだな。
顎を押さえて考えて
「(子供の頃は)女装が上手だったよ」
と、悩んでいたら勝手にハルがああ!
「ハル! 言わないでよその事を!」
もっとも知られたくなかったのに! 思わず頭を抱えてしまう。
「はいは〜い」
もう一人の女子が手を上げる。こっちは対照的に小柄で、ショートカットで眼鏡をかけている。
な〜んか嫌な予感がして顔を上げる。
「実際にやってみてください♪」
朗らかな女子の笑顔に僕の背筋が瞬間的に凍る。
そして、舞さんがこっちを見て……にやっと笑いやがりましたーーーー!!
「自由への逃走!」
僕は出口に向かって走る。嫌だ、学校でまで女装なんて絶対嫌だ!
走れ!! 走るんだオレ!! 全てを風に変えて!!
しかし、部室から出ようとした瞬間、後ろからがっちりと羽交い絞めされる!
後ろを振り向くと楽しそうに笑ってる刹那くん。
「刹那くん放して!」
刹那くんは残念そうな顔をして、
「諦めろ空狐、お前の未来は今終わった」
嫌じゃあああ! なんとか逃げようとバタバタ暴れるけど思ったより力が強い。体重の軽い僕はあっさり引っ張られてしまう。
「はいは〜い、こっちこっち」
ハルががちゃっと隣の部屋に続く扉を開ける。その中にはたくさんの衣装が……はう。
「ハルまで!」
救いを求めるように龍馬を見るが、肩を震わせながらそっぽを向いて
「がんばれ」
それだけ、
「薄情モノおおおおおお!」
そして、僕は準備室に連行されて……
十分後−−
舞さんに連行されて僕は準備室から出てきた。
そして、
「はう」
くらっと桜子先輩がふらつく。
「うわあ」
もう一人の女子B(暫定名)が口に手を当てる。
「ぽかーん」
呆けた顔の刹那くんが擬音をわざわざ口にする。
「すげえ。女は化けるって言うけど男も化けるんですね」
「女だって言われたら信じてしまうかも」
男子Aと男子B(こちらも暫定名)がぼそぼそとそう言う。
「相変わらずすごいな」
龍馬が冷や汗をかいている。
「ふふふふふ」
ハルが満足そうに笑ってる。
「さすが空狐くん!」
舞さんが褒めてくれる。嬉しくねえ!
「ううううう」
今の僕を解説すると
ウィッグを頭につけて長髪に、服はさほど派手ではないものの豪奢なドレス。簡単ながら化粧も施されている。
くうううう。せめてパッドだけでも断固拒否しとけばよかった。
「倉田さん」
ひそひそ話してた四人がこっちに顔を向ける。
「「「「オッケー!」」」」
びっと四人が指を立てた。
世界よ滅んでしまえ。いや、滅ぼしてしまおう。うん。
「ねえねえ、く〜う〜こくん」
舞さんが僕にばっと鏡を見せる。ああ、今はこの人の笑顔が憎い。
「ね、ね、いいでしょ?」
本当に嬉しそうな顔だなあ。きれいに着せ替えれば僕が喜ぶと思って……
「うっ!」
思わず一歩引く。
しまった、いいと思ってしまった。
鏡に映る女の子(注:僕)ははっきり言って可憐。よく見知った顔のはずなのに、まるで知らない女の子の顔。衣装一つでここまで変わるんだ。
品のいい顔の造作。長く綺麗な灰色の髪。鮮やかな紅い瞳はまるでルビーのよう。そして、アクセントに引かれた薄いピンクのルージュが彼女の美しさを引き立てている。
ドレスもほっそりした体にぴったり合ってて、その上品さを損なわない程度に存在を主張してて……
もーとにかく美少女なんですよ。うん。(わーい、投げやり)
……ここだけの話、実は嬉しいかも。いや、女装がじゃないよ! こんな風に綺麗になれることが……って何を言ってんだ僕は!
「舞さん、そろそろ昼休み終わりますよ。そろそろ元の格好に」
そこで
カラーン、カラーン。と鐘が鳴ってしまった。
「えええええ!」
嘘! もうそんな時間? 僕、弁当食べてないよ!
「安心しろ。俺たちは食った」
刹那くんが親指を立てる。だけど、君の腹が満ちても、僕の腹は満ちてない! そして、何度も言うけど僕の心を読むなー!!
「わわ、急がなくちゃ!」
さすがに舞さんも慌てた。
その後、ハルと舞さんに手伝ってもらってなんとか二分で着替えを完了。
三人とも急いで何とか五時間目に間に合ったのだが……
「木霊……なんだその髪」
「やだ、ルージュなんて引いてる……」
教室に入った時にそう言われてやっと化粧しっぱなしだと気づいた。そう言えば、道行く人が微妙な顔で見てたような……
うわあああああああん! 僕は好きでやってんじゃないんだああ!
結局、僕は顔を洗ってたために、五時間目の授業に遅刻したのであった。
鈴:「どうも鈴雪です」
刹:「どうも刹那です」
鈴:「先日のご報告通り質問のお便りの返事をさせていただきます」
刹:「まずは最初のお便り『爆弾蛙』さんより『“九尾の狐”の尻尾の数はどのような基準で決めていますか?
あと、数にレア度ってありますか?(例えば九本の尻尾はめちゃくちゃ珍しいとか)』です。これはどうなのですか?」
鈴:「端的に言えばかなりレアです。刹那! 解説」
刹:「尻尾の数は妖狐にとって位の高さと妖力の大きさを示しまして、がんばってもほとんどの妖狐は七、八で止まってしまいます」
鈴:「ふーん。じゃあ、強いの?」
刹:「それとこれとはまた別の話」
鈴:「あ、そう……」
刹:「例えば、体が大きいからって小さい奴には必ず勝てるのか? って事と同じ」
鈴:「なるほど」
刹:「たしかに妖力が高いと戦いに有利だけど、妖狐の強さは例外を除けば大体が幻術による 駆け引きや術の細かな制御の高さだから、
強いと隠蔽とかに不利になるし」
鈴:「ふむふむ」
刹:「実際、この五百年間に三回会ったけど、強さはまちまち。まだ四尾だった銀狐の方が強かったのが一人いたし」
鈴:「ふーん」
刹:「ようするに尻尾の数が絶対的な戦力の差にはなりえないということ」
鈴:「貴重なご意見ありがとうございました! と、ここでお別れの時間のようです。この番組は鈴雪と」
刹:「天野刹那がお送りしました」
鈴&刹:「みなさまよい一日を」
鈴:「この番組は『舞ちゃんセントナイツFC』と常磐学園新聞部の提供でお送りしました」
ちょっち長かったかなあ? まあ、楽しめたしいっか。