第九十二話 喫茶フォックス
美紀も入れて五人で僕らは里を見て回ることとなった。
と言っても年末休みでほとんど見るべき場所、たとえば退魔士が使うような道具を作る、もしくは取り扱うような場所は休みなため、外から見るだけになった。
あとは、普通の街にあるようなものばかりだ。こんな隠れ里でも現代的なものは進んで取り込んでいるんだよね。
ゲーセンには最新のアーケード躯体があるし、おもちゃ屋にはマニアが欲しがる絶版の古い玩具から、最新のものまで置いてある。ただし店長は常に情報を手に入れてるため、そういったものは時価である。
「ねえ、そっちで空狐上手くやってる?」
「うん、毎日楽しそうだよ。くーこくんたちといるのは私も楽しいよ!」
アルトちゃんの返答に美紀がほっと息をついて笑う。
「よかった。たまに連絡はあったけど、やっぱり周りの人からも聞きたいからねえ」
「ああ、なんとなくわかるかな」
あははとアルトちゃんと美紀が笑う。
すぐにアルトちゃんと美紀は仲良くなった。
相性がよかったのかな。
「うん、私もね、空狐くんがいてくれてさびしくなくなったなあ」
なんて舞さんが言ってくれた。
さびしくなくなった、か。確かにあの家に一人はちょっと広すぎそうだしな。
「へ、へえ、そうなんだ」
対し舞さんには警戒しっぱなし。最初のインパクトがきつかったかな。
そして美狐さんは、途中で買った妖狐の里限定『稲荷サブレ』と『稲荷マン』に舌鼓を打っている。
「こっちのサブレはお土産としては定番だけど、買っていく人間がいるの? でもなかなかいけるわねこの稲荷マン」
妖狐の里らしい土産ってことで作ったらしいく、稲荷マンは饅頭の皮の代わりに油揚げに餡を詰めたものだ。皮の味付けに試行錯誤したらしく、意外とおいしい。
「と、こんな感じかな」
ぐるっと妖狐の里を一回りして、里の中心にある十字路についた。
「ちょっと待ちなさい空狐、忘れ物があるわよ」
美紀が頬をひくひくさせながらそんなことを言い出した。
えっ? 忘れ物?
僕は腕を組んでう~んと唸る。
「なんだっけ?」
僕はわざとらしく小首を傾げて尋ね返した。
瞬間、美紀が爆発した。
「うちよ、うち!」
怒鳴る美紀に冗談だよと答える。
いや、覚えてたけどさ、今は美狐さんがいるからなあ。
きっと、行けば砂糖を吐きたくなる姿を見せてくれるだろう。
「美紀ちゃんのお家って?」
「里に一軒だけの喫茶店『喫茶フォックス』よ!」
アルトちゃんの問いに美紀は胸を張って答えた。
美紀の家、『喫茶フォックス』はレトロな雰囲気のお店で、里の中心から離れたところにある。
「ただいま!」
「お邪魔します早紀さん」
からんとドアにかけられた鐘が鳴る。
「おかえり美紀、久しぶりねくーくん」
店に入ると店長である美紀のお母さん、早紀さんが出迎えてくれる。
早紀さんは、見た目は三十前後で、美紀と同じ髪の色だけど、綺麗なストレートで、腰くらいはある。そして、美紀と同じ釣り目だが、柔和な笑みを常に浮かべてて、どことなく優しげな印象を与える。
白いシャツに赤茶色のスカートの上にかけてるクリーム色のエプロンにはデフォルメされた狐のアップリケがあしらわれている。
それから、舞さん、アルトちゃん、美狐さんと続いて店に入る。
「あなたたちははじめましてね。美紀の母の早紀です」
三人に自己紹介をする早紀さん。
「あ、倉田舞です。はじめまして」
「アルトです。はじめまして!」
「玉藻美狐よ」
と、みんなも挨拶する。
それを見てあらあらと早紀さんが笑う。
「あのくーくんがこんなに彼女作ってくるなんて、美紀も頑張らないとねえ」
「ちょ、ちょっと、ママ!」
早紀さんの言葉に美紀が慌てる。
ここでもか? ここでもそのネタでいじられるのか?!
僕はつい眉間を抑えてしまう。
「冗談はよして。とりあえず、珈琲とケーキ全種類ね。順番は……」
なんて返しながら美狐さんはカウンター席に優雅に座りながら注文する。
って、全部なんですか美狐さん……予想通りですが、太りません?
「うう、か、彼女って」
真っ赤になりながら舞さんも座る。
「くーこくんモテモテだね。私はシュークリームとハーブティー!」
アルトちゃんはよいしょっと、少し苦労しながら席に座って注文した。
はあ、まあいっか。気にしなければいいんだしね。
僕はそう自分に言い聞かせながら、席に座った。
「じゃあ、またね空狐」
「みなさんもまた遊びに来てくださいね」
ケーキをおいしくいただいてから美紀と早紀さんに見送られて僕らは店を出た。
にしても、またも美狐さんがケーキ全品制覇は圧巻だった。もういいですって言いたいくらい。
「いい感じのお店だったね」
「ねー!」
舞さんとアルトちゃんが上機嫌に笑う。
「確かに早紀さんのお店は里でも人気だからね」
冬だから空はすでに星と月が出始め、街灯に明かりがついている。
冬らしい肌寒さの中、三人で思い思いに店の感想を話しながら帰路について……あれ、三人?
舞さんとアルトちゃんがいて、美狐さんがいない?
「あのさ、美狐さんがいないんだけど」
僕の言葉に二人がきょろきょろと周りを見て、
『本当だ!』
声を上げる。
ど、どの時点でいなかったっけ? 確か、店を出た時はいたはずだし、そう遠くには行ってないか?
くんくんと鼻を鳴らすと、不快な残滓が漂ってきた。獣臭にも似た野性的且つ妖艶さを含めたこの感じは、美狐さん?
「こっちだ」
僕らはそれをたどって美狐さんを捜すこととなった。
鈴:「ども~狐火続きUpしました!」
刹:「まだか、俺の活躍は!」
鈴:「まだだ、もう少し辛抱してくれ」
刹:「そうか……はあ、いろいろと準備してるのになあ」
鈴:「まあまあ、今までの鬱憤は晴らさせてやるからさ」
刹:「おう……」
鈴:「それでは、また次回に!」