第九十一話 美紀
じいちゃんと会ってから母屋に戻ったら、いつの間にか来ていた刹那くんが客間でのんびりとお茶をしていた。
「刹那くん、もう用事終わったの?」
「まあな。簡単な用事だったし」
僕が尋ねると答えが返ってきた。
かちゃっと湯呑を置く刹那くん。
「まあ、予想通りと言ったところね」
刹那くんの頭頂部にいたイヴが、頭を蹴ってこっちに飛んで、今度は僕の頭の上に乗った。
いないって思ったら刹那くんについて行ってたんだ。
「あれ? 朱音さんはいないの?」
気づいた舞さんが尋ねる。
「ああ、朱音なら月狐さんと買い物いってるよ。『クーちゃんが帰ってきたからごちそうつくらないと』って言ってたな」
ごちそうかあ。母さんの手料理なんて久しぶりだから楽しみだなあ。
なお、普段はこの家には使用人が二、三人いるけど、今は家に帰って年末の準備をしているはずだ。
「ねえねえ、くーこくん、まだ時間あるし、この里の案内して」
「あ、そうだね。初めて来たんだから、案内してほしいな」
なんて僕はアルトちゃんと舞さんにせっつかれる。
えっと、刹那くんは……
「俺は疲れたからパスな」
僕が声を掛ける前に、刹那くんはそう言って僕らに背を向けた。
「あー、私も手伝い疲れたから残るわ」
イヴもそう言って僕の頭から降りてお茶菓子を食べ始めた。
なんだか本当に疲れているみたい。簡単って言ってたけど相当しんどい作業だったのか?
というわけで、舞さんとアルトちゃんに美狐さんに里の案内をすることになった。
しかし、屋敷を出たところでいきなり足を止める事となった。
「久しぶりね空狐!!」
一人の妖狐が僕らの前に立ちふさがる。
見た目の歳は十歳前後の少女で、身長は僕より頭一つくらい小さいで、動きやすそうなオーバーオール。肩ぐらいで揃えた茶色がかった黄色い癖毛に頭頂部でピコピコ動く狐耳。吊り目気味だが整った顔立ちに、いかにも怒ってますとさらに目を釣り上げている。
「あ、久しぶり美紀」
と、僕は久しぶりに会ったこっちの幼馴染に答える。
「なにが久しぶりよ! 帰るなら帰るってちゃんと言いなさ……ひゃあ!!」
途中で言葉が途切れた。なぜなら、疾風迅雷の速度で舞さんが抱きついたからだ。
「か、かわいい! すっごいかわいい!!」
舞さんが美紀に頬ずりしだす。そういえば、舞さん可愛いもの大好きだっけ。
でも、今の動き、僕よりも早いというかキレがあったって言うか……なんか敗北感感じるよ。
「ちょ、ちょっと助けなさいよ空狐!!」
舞さんに頬ずりされながら、美紀が僕に助けを求める。
ああ、しまった。
「あー、あの、舞さんそろそろ離してあげて」
と、僕が言うと、しぶしぶ舞さんが美紀から体を離す。
それに、ふうっと美紀が人心地ついたのか、息を吐く。
「ねえねえ、空狐くん、この子の知り合いなの?」
若干荒く息を吐きながら舞さんが聞いてくる。な、なんか怖いよ。
「ん、あ、うん。彼女は信濃美紀、その、こっちでの僕の幼馴染」
と、舞さんに美紀を紹介する。
「ど、どうも。信濃美紀よ。こ、こう見えてもあたしはあんたたちと同い年よ、子供扱いしないでよね!」
と、美紀がふんぞり返る。
それを、舞さんが微笑ましそうに見る。まあ、見た目完全に背伸びしている女の子だもんなあ。
「美紀、こっちが今、僕が下宿させてもらっているとこの家主の倉田舞さん」
と、美紀に舞さんを紹介する。
「倉田舞です。よろしくね美紀ちゃん」
「く、空狐がお世話になってるみたいね。よろしく」
と、舞さんが微笑みかけながら手を差し出す、美紀は少し引きながらも握手をする。
ああ、完全に苦手意識できたな。
「私、アルトだよ! よろしく美紀ちゃん!」
「玉藻美狐よ、よろしく」
続いてアルトちゃんと美狐さんも自己紹介をした。
で、それを終えてから、
「美紀ちゃん、まるでお人形さんみたいだね、ねえねえ、も一回抱っこさせて」
舞さんがはあはあ息を吐きながら美紀にお願いする。いや、怖いってそれ。
「こ、子供扱いしないで! 空狐もなにか言いなさい!」
美紀は目じりに涙を浮かべ怯えているようだけど、気丈に舞さんを睨む。
「舞さん、やめてあげてね」
僕が釘を刺すと、残念そうに舞さんが肩を落とす。
それに対し、アルトちゃんは何度か僕と美紀を見比べて、
「にしても、美紀ちゃんって、私たちと同い年ってぜんぜん見えないね」
と、こぼした。
「あんたに言われたくないけど、妖狐としてはあたしが普通よ。空狐が特別なだけ」
憮然と美紀が答える。それに対しははっと僕は笑う。
「空狐くんが特別って、どういうこと?」
舞さんが聞いてくる。
「普通の妖狐と半妖狐の差、って言ったところかな? 僕みたいな半妖は普通の人外と違って人間と同じ成長速度だけど、純粋な妖狐は人間の半分くらいの速度かな」
なお、特に力の強い者は成人後、老化が始まるまでかなり間があるが、うちの母さんがいい例だ。四百になってもあの若々しさはすごいと思う。
故に美紀と僕では同い年でも見た目に差が出てしまう。僕が成人することは美紀はまだ人間でいえば十一か十二位の歳だろう。
それが僕がここから出て行った大きな理由でもある。
みんなは普通に仲間の妖狐として僕を扱ってくれるけど、それでも僕という存在にみんなが違和感を抱いているのが……はっきりわかる。
特に学校、中学校の頃は成長の違う僕はみんなとは違うカリキュラムだったし、以前までのクラスメートたちとも付き合いづらくなった。
でも、そこまで説明するのもあれだから、僕は行くよと、今度こそ、案内の為に歩き出した。
鈴:「二か月近く放置してすいませんでしたー!!」
刹:「こっちもちゃんと監督できなくてすいませんでしたあ!!」
鈴:「ううう、放置してたんじゃないよ? ただ、何度も書き直しては、没にして、やり直ししてたんだよ?」
刹:「少し言い訳臭いな」
鈴:「すいません……」
それでは、感想、コメントなんでもお待ちしております。本当にすいませんでした!