第八十九話 里帰り
朱音さん自慢のマイカーに乗って僕らは妖狐の里に向かう。なんでかはわからないけど、いきなり刹那くんが行くから着いて来いって言ったのだ。
乗っているのは運転手の朱音さんと刹那くん、美狐さんとアルトちゃん、舞さんに僕だ。
「ふーん、あんたも来るの」
「はい、一度行ってみたいって思ってたんです!」
美狐さんにそう返す舞さん。
ああ、そういえば、舞さんって一度もうちに来たことないなあ。
「で、美狐さんは?」
ふと気になって尋ねてみる。
「こいつらが妖狐の里で情報収集してもいいんじゃないかって言い出してね」
ああなるほど。それもいいかもしれない。
そんな話をしているうちに里のある山が近づいてきた。
里から少し離れた場所にある寂れた駐車場に車を止め、そこからは歩きとなった。
なんでも、車というものが当たり前になったから、外から来た人間のためにこんな辺鄙なところに作ったけど、結局、里まで来る人間が少ないせいか管理も適当になってしまった場所だ。
なんかいつの間にか刹那くんと朱音さんが「わりい、ちょっと急用思い出したぜ!」なんて書置き残していなくなっていた。まあ、仕方ないから僕が里に案内することとなった。
鬱蒼と茂る森の奥にある古びた神社と繋がっている石畳を進んでいって、途中で横に曲がる。そこに向かい合うように立っている二つの岩、通称双子岩という里の入り口を見つけた。その岩の間を潜ると、景色が一変した。
「わっ」
「わあ」
「へえ」
舞さんは普通に驚き、アルトちゃんは楽しそうに、そして、美狐さんが感心したように呟く。
「妖狐の里にようこそ」
鬱蒼とした森はなく、代わりにそれなりの規模の街が広がっていた。
基本的に瓦屋根の日本家屋が並んでいる。昔ながらの平屋や、中には二階建ての屋敷もある。古いのも新しいのも混っじっている。
まあ、基本的に日本に住まう妖狐の大半はここに住んでいる。まあ、中には妖狐と結婚したとかで他の人外も住んでるので、妖狐はだいたい九割くらいかな?
ちなみに僕みたいに人間の中で暮らすのは割と少数派だ。
「お、空狐帰ってきたのか?」
と、結界に入ってすぐに、妖狐警護隊、ようするに妖狐版のお巡りさんである古志さんに会った。
古志さんは浅黒い肌にがっちりした体格で、長刀を使う凄腕の黒狐の妖狐だ。確か二級退魔士だったっけ。
なお、里にはある程度の政治能力がある。司法関係は基本、退魔士協会に任せているが、妖狐間の問題を解決するための警察に代わる警護隊なども存在している。
「お久しぶりです。古志さん」
「おう、久しぶりだな空狐!」
にかっと古志さんが笑うと、僕が帰ってきたことに気づいたみんなが集まってきた。
はは、みんな変わらないよねえ。僕と違って……
「お帰り空狐!」
「元気にしてたか?」
「空狐くんおひさ!」
と、僕はもみくちゃにされる。
なんか、帰ってきたなと思えて嬉しい。
「あはは、空狐くん人気だね」
と、舞さんが笑う。
「はあ、狐さんがたくさん。あ、ネコさんもいる!」
アルトちゃんがみんなを見て目を輝かせる。
そして、みんなの視線が舞さんたちに移る。
「空狐、お前」
あ、なんか嫌な予感。
「嫁さん連れてくるなら、先に連絡しろよ!」
その言葉に舞さんが赤く、アルトちゃんは楽しそうに、そして、美狐さんは意地悪な笑みを浮かべる。
あ、いや違うんですが……
「ようこそ、妖狐の里に! たく、空狐お前も隅に置けないなあ。三人も相手作ってくるなんて。誰が本命なんだ? ん?」
古志さんに肘でつつかれる。って、ちょっと三人って!!
「まったくだな空狐、清楚なお嬢さんに、将来有望な幼女、しかも、年上のお姉さんの妖狐、両手に花どころかハーレム作るつもりか?」
と、さらに他の妖狐にも、つつかれる。
「あ、あの、私そんなわけじゃ」
困ったように赤くなった舞さんが言い、美狐さんは、
「私は空狐の嫁なんかじゃないわよ。私は空狐の御主人様」
美狐さんの発言におお! とみんながざわめく。
ちょっと待ってください!!
「お前、少し見ない間にずいぶん成長したんだな。まあ、俺たちの倍成長が早いから当然か」
古志さんがポンと、肩を叩きながらしみじみと呟く。
いや、そこで通常の妖狐と半妖の違いを出されても……
「ちがーう! 美狐さんも変なこと言わないでください!!」
「うっさい、下僕」
僕がガクッとうなだれていたら、ぽんと、アルトちゃんに叩かれる。
「くーこくん」
「アルトちゃん」
慰めてくれてるのかと、一瞬思って、
「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
三つ指組んでお願いされた。
「ノオーーーー!!」
止めでしたよ。
鈴:「ついにラストエピソード妖狐の里編です」
刹:「ついにここまで来たか」
鈴:「さあて、頑張るか!」
刹:「おう、俺の活躍もよろしくな!!」