動き出す火 2
火の国
赤茶色の大地が広がり緑色の山々が連なる。
白鳫石で出来た豪奢な宮殿がそびえ建つ。
宮殿の中は白石畳が敷き詰められひんやりとして気持ちよい。
大きな白い柱に金の花唐草模様が入っている。それが間隔を置いて幾つも並ぶ。
玉座の壁は金で模様が描かれている。玉座は赤に金である。
そこに座るのはまだ年若い女王だ。
艶やかな髪を頭の上で大きな輪にし金の鳳の髪飾りを刺してある。整った顔立ちに勝ち気な瞳である。
大きな赤い勾玉の首飾りが胸元を飾る。
「只今、帰還いたしました。」
玉座の前でアキツと従人のシギは頭を下げた。
「よう戻った。で、アキツ。他にも言うべきことがあるんじゃなくて?」
姉のヒミは軽やかな明るい声であるが、アキツは怖くて顔を上げられなかった。
「も、申し訳ありませんでした。ごめんなさい!」
沈黙の後、扇がアキツの足元に飛んできた。先程までヒミが優雅に扇いでいたものに違いない。
「ひっ!」
「アーキーツーゥゥゥ。妾はそんなことを聞きたいんじゃないのぉ。」
「ひぃぃぃ」
姉王に凄まれアキツはすでに涙目だ。
「火のコントロールはちゃあんと出来るようになったのかしらぁ!それにシギ!アキツから目を離してるんじゃないわよ!」
「申し訳ありません!。姫から逃げられるのも私が不甲斐ないせいです。罰は受けます。」
シギはアキツより六個上の20歳。髪をお団子にまとめてあり、化粧気がまったくない。
「ちょっと待って!悪いのは私で、シギは関係ない!」
「ほぅ。罰は全て自分一人で受けるとはいい度胸ねぇ」
「ひぇっ!」
ヒミがアキツの胸元に下がっている首飾りに目を止めた。
「それはなに?」
ヒミが指差したものにアキツは手で触れた。青い雫型の石だ。
「これは、ナミ女王が下さいました。私の火の力を抑えるそうです。夜の国と岩の国で力を合わせて作ったとか。」
ヒミは目を見開き唇を噛み締めた。拳をギリギリと握りこむ。
しかし、それは一瞬のことだった。
全てを呑み込んで笑みを作った。
「そなたの罰は後で考えるわ。今は休みなさい。」
アキツとシギが退室した後、ヒミは近くにあった金で出来た杯を床に投げつけた。重たい音が響いた。
「落ち着きくださいませ。女王様。」
火の祭祀、マサカヤが杯を拾った。
マサカヤは女王よりも幾つか年上の男性である。祭祀というよりは戦士に相応しいような筋肉質ながっちりとした体格に短い赤茶色の髪だ。
「落ち着けるわけがないでしょ!あのアマ!変なもん作りやがって!夜の国と岩の国と共に!火の国を抑えるつもりか!」
「お口が悪いですよ。」
マサカヤは眉を潜めた。
「こちらに対する牽制ではありませんか?ナミ女王は戦をお望みではないはず。」
ヒミは唇を噛んだ。
「でも、三国が手を組んだてっことでしょ。」
「どうでしょう。夜の国はあまり他国とは関わらないようにしてきましたし。」
「問題は、その石を何個作ってるかよ。」
マサカヤは天井を見上げた。
「女王様。ここはアキツ姫を動かれてはいかがですか?」
ヒミはマサカヤに視線を向けた。
口元を吊り上げた。
「罰、ね。」