水の国3
水龍宮殿は水の上に浮かぶように立っている。湖に宮殿が映りこみあたかも逆しまの宮殿があるようだ。
白い煌めく壁に紺色の太い柱が瑠璃をひきつめた天井を支えている。
宮殿内にも池が所々にあり水花が浮かんで涼しげである。
玉座には、30を少しばかり過ぎた女王が座している。
水の国の民は総じて白い肌をもつが、女王は抜きん出て白く艶やかである。髪は頭の上に豪勢に結い上げ碧玉と真珠の簪をいくつも刺してある。
アキツは女王に謁見し、頭を下げに下げた。
「ほほほ。もうよい。こなたもあの森は気にくわなくての。」
ちょうどよい、と女王、ナミは笑った。
クラオカミが何度とめか分からぬ溜め息を吐いた。
「本当に申し訳ありません。」
「そちに帰還命令が下ったわ。」
ナミ女王は、水晶の球をアキツに投げ渡した。
アキツは小さな球をキャッチした。
言球コトタマと呼ばれる水晶である。
『アキツヒメ、そうそうに帰還するべし。これは勅命である。』
頭の中に声が響く。
言球に伝えたい言葉を吹き込み、遠くの相手に伝えるのだ。
アキツの顔が更に真っ青になる。
「寂しくなるのぉ」
「これ以上被害が出ては困りますので、嬉しい限りですね」
クラオカミが本音か嘘か分からないにこやかな顔で言った。
(火の国に帰る…。姉王にしばかれる!)
しかも自分は火をまだコントロールできてない。
「そなたに餞別じゃ。水の国と岩の国、夜の国総力で作り上げたもの。」
白い着物を着た祭祀がアキツに木の箱をしずしずと差し出した。
「ありがたく頂戴いたします。」
アキツは受けとり、木の箱を開けた。中には雫の形をした天青石の首飾りである。
「キレー」
「ふふっ気に入ったか。」
「はい!」
「そなたの火の力を抑えるものじゃ。」
「!ありがとうございます。」
嬉しそうに首飾りを手に持つアキツを見てナミ女王はにこやかに笑った。