水の国2
水晶宮
その名の通り、水晶で出来ている神殿である。
柱も床も壁も天井も透き通っている。水晶が厚いせいか隣部屋は見えないようになっている。
アキツはうなだれたまま奥へと進む。
この神殿は調度品まで全て水晶である。水晶のランプに夜の国で作られる星光石が赤々と灯っている。木で燃やすと煙がたつのでこの石はどこの国でも重宝されている。
奥の部屋の天井はドーム状になっており、薄い水晶の天井を通して虹色の光が室内に落ちている。
祭祀を行う部屋である。
部屋の中央に大きな鏡が床に埋め込まれている。これも水晶である。硝子のような澄みきった透明の水晶面がまるで水鏡のように輝いている。
その水晶鏡の前に立っているのは、長身のすらりとした男性で顔は作りものめいた美男である。腰まで垂れる髪は黒々としている。
「クラオカミ様、アキツ姫を連れて参りました。」
水の国の祭祀者、クラオカミは無表情のままで、ミツハの背後で縮こまるアキツに視線を投げた。
「わざわざ、ご足労頂いて申し訳ありません。火の皇女様。」
微塵にもそう思ってないトゲトゲとした口調である。
「貴女は、何度この国を燃やせば気がすむのでしょうねぇぇ」
地を這うような声だ。静かき怒っている。
「ごめんなさい。わざとじゃありません!」
アキツは頭を下げた。
「わざとだったら、宣戦布告とみなしてますよ。」
クラオカミは大仰に溜め息を吐いた。
「ミクリ姫様とご友人でなければ、貴女を受け入れることはしなかったんですがね。」
ぽつりとぼやく。
「で、今回は何に驚いたんです。」
「…。」
アキツが視線を反らした。
「前は辛い物を食べて、食堂を燃やしたんでしたよね。ハハ」
口元は笑っているのに、目が笑ってない。
「その前は狼に遭遇して狼の丸焼きを作ったんでしたね。ハハハ」
だから、目が笑ってないてっ。よけいに怖いんですけどっ
「その前は川に溺れて川を温泉にしたんでしたっけ、ハハ。おかげで煮魚がたくさん浮かびましたけどね。」
次々と罪状が読み上げられてゆくような気がする。
アキツは驚いたりすると、火のコントロールを失い暴発するのだ。
「東の森で何に遭遇したんですか?」
「うっ」
「早く吐かないと氷漬けにして貴女の火を消して差し上げましょうか」
いや、命の火そのものが消えてしまいそうだ。
「東の森でお散歩してたら突然、熊が表れて」
ゴニョゴニョと口ごもる。
クラオカミの端正な顔が呆れ顔に崩れる。
「で、全焼か…。」
クラオカミはこめかみを押さえた。
「え?じゃあ、熊の丸焼が食べられるの!」
はしゃいだ声を出すのはミツハだ。
「…。」
姪の発言に更にクラオカミは頭を抱えた。