スタジアム〜全てをかけて〜
「うそ...だろ...」
声に出せたのかはイマイチ分からないが...俺は金縛りにあったように動けなかった。
嘘だろ...。こんなのラブコメの世界でしかありえないと思ってたのに...。
思えばフラグは沢山あった。
何より俺の部屋の外から聞こえた声なんてこの状況を示しているのに...くそ...
「いや...そんな人とは思ってませんでしたけど...その...近づかないで...」
「すみません。こればかりは勇者といえど許せません。」
「誠に残念だ...。お前に任せたばかりに...。」
メア、コルノさん、カリーナ王の言葉が順に聞こえた気がした。
お先☆真っ暗
あぁ!懲役何年かな?
いや、流石に罰金とかで済むのかな?
というかこの世界の法律って?
どうでもいいけど露天風呂って下手したらすごく寒いよね!
そんなことを思っていると不意に眼前に迫る風呂桶。
気付けば俺は医務室に横たわっていた。
の、四日後が現在。
風呂に入ってのぼせて顔をうった、と噂はひろがっているのだが...まぁそれでいい。
メアやコルノさんも全く疑わなかった。
これで万事オーケー。
...こうなりかねないほどのアホと認識されてんだな...
そして今の状況を...と言うと。
...俺達は予選会のある闘技場に来ていた。
別に下見とかそんなんじゃなく...そう。呼ばれたのだ。運営に。
「誠に申し訳ございません!明後日が予選でしたのですが...予選は明日に変更いたします!」
アナウンスが流れてくる。
そしてその度のブーイング。
...何分これが続いているのだろう。
参加者は俺達3人の内全員だが...
メアは、魔法の練習が上手く行ってないのか放心状態。
コルノさんは少し厳しい...が、余裕のある感じか。
「...軍人たるもの、明日何が起こるかわからない、という経験は嫌と言うほど味わっておりまして。
それにトーヤ君にも一日ズレただけで瓦解するようなヤワな修行はしていませんよ。」
と、相当自信のある様子。
「ならなんでまだ帰らないので?」
そう。運営からのメッセージはもう聞いた。
それこそ今から練習した方が...
「...実はですね...」
そんなコルノさんが放ったのは俺たちにとって驚くべき情報だった。
「ハアッ!」
「振りが甘い。もう少し思い切り。」
「...ハッ!」
「重心がブレています。」
「..はい。」
そう。俺達は実践を兼ねて練習をしていた。
それも...本戦で使うスタジアムでだ。
あの時...
『少し待っててください。知り合いを待っていますので。』
『は、はぁ。』
人の多いスタジアム内。
よく見ると黒いフードの如何にも『殺人鬼でーす♡』という出で立ちの奴までいて怖い。怖すぎる。
『...お待たせいたしました。確認が取れたのでお通ししますね。』
係員がコルノさんに話しかけた。
...なんの確認だろうか。そういやここに入るときにコルノさんは何か手続きしていたが...入場の為じゃないのか?
『安心してください。別に怪しいことではないですよ。』
コルノさんはそういう。
とにかく俺達は係員とコルノさんに引率されてスタジアムの内部へ...そして今に至る。
「...贅沢にこんなところ使えてラッキーですね。」
広々としたスタジアムなのに俺達だけで使えるなんて...
何か不自然すぎる。
「ネタばらしすると...。実はカリーナ王が特別料金を係員に払ったようで。そのおかげで通してもらえました。」
え?それって...
「賄賂ってやつじゃ...」
「なんのことですか?」
「だから賄r」
「特別料金。」
「...はい。」
いや、完全に賄賂なのだが...。
コルノさんの見えない圧力で言うことが出来なかった。
「とにかく...今はまだ朝です。
明日のこの時間の為に...全てをかけて練習しますよ!」
「いえっさぁぁぁ!!!」
「......うぃ」
相変わらずのコルノさん。
燃え上がる俺。
そして若干おかしいメアの3人。
休憩などいざ知らず。
ノンストップで練習を続け...そして翌日を迎えた。
ー了ー