森林~『何も出来ないなりに』~
読んでくれてありがとうございます
「分かりましたか?槍は間合いを取るための『守り』の武器でもあり、相手の届かない場所から一方的に攻撃できる『攻め』の武器でもあるのです。」
「槍...槍のすごさは分かったんですけどね。
重たすぎませんか...?」
俺は地面に座り込み、レクチャーをしてくれるコルノさんを見る。
ソローロから出発後、コルノさんは鬼神のような強さで槍を超高速で操り、出てくる亜人のような生物。賊を薙ぎ払っていった。
メアはというと、魔法の心得があったようでコルノさんの後方支援に回っていたのだが...
そう。問題は俺だ。
魔法も、能力も。ましてや戦いの心得なんてもっての外。
日本で平和に暮らしていたこの俺がそんなことできるはずがない。
「...お願いします。俺に基本でも戦いの技術を教えて下さい。」
それが無力感に痺れを切らした俺のセリフだった。
初めはコルノさんは乗り気では無かったのだが...
次第に熱が入っていき、その内あのように槍について熱く語り出す迄になってしまった。
「まず...ずっと襲ってくるオークみたいなのはなんですか?」
豚の化け物のような...とにかく、亜人がちょくちょく俺らを攻撃してくるのだ。
それが気掛かりでしかたないんだが...
「オーク...? あぁ!亜人兵の旧称ですね。
奴等は魔力と動物の掛け合わせで生まれたのですが...『破壊』と『暴力』を生き甲斐としているようで...」
なるほど。RPG系のゲームを想像すれば良いのだろう。
第一、王さまの命でアイテムを取りに行く時点でもうゲームのシナリオ感が半端ない。
「で、海星の玉というのは?」
「ホーピリアでは半年に一度闘技会が開かれるんですが...確か今から一週間後の闘技会の優勝商品ですね。」
「それはどんな大会なのですか?」
「はい。確か...武器ひとつまでを持ち、一対一のトーナメント制で勝者を決めるのだったかな...
ちなみに予選会もありますからね。」
「武器ひとつ...魔導書はどうなるのですか?」
これはメアだ。
「はい。魔導書も魔力を増幅させ、強力な呪文を生み出す武器の一つです。しかし...」
「...なんですか?」
「なぜそんなことを?貴方は魔法は使えても...魔導書は持っていないでしょう?」
「...まぁ。」
メアは曖昧な返事をする。
しかし...流石にないんじゃないか?
魔導書っていうのは、どうやら高い魔力と高い魔法的センスを持った物にしか使えない。
それにメアは魔術文字...すなわち日本語は読めない。
そこからしてもう彼女が魔導書を使うなんてことはないはずだけどな。
「...少なくとも、問題は...」
コルノさんが言いにくそうにしているが、多分既にその問題はこの場の全員が分かっているだろう。
「俺、ですよね。」
「...」
1部隊の隊長だというのに人を気遣う気持ちの強い人だな。
だが、俺が戦う術を持ち合わせていないのも事実。
先程のようにコルノさんに修行をつけてもらってはいるが、一朝一夕で強くなれるはずもない。
「まぁ、少なくとも大会では一人が優勝すればいいわけです。...だから、自分が頑張ります。」
コルノさんが心配しなくても、と、元気づけてくれるが、俺は相当捻くれているのか、気は楽にはならなかった。
「取り敢えずはホーピリアを目指しましょう。
乗り合い馬車や、魔法という手もありますが...一応僕はその...隊長でして...」
「は、はぁ。それは知ってるんですが...」
なんだっていうんだ?
「トーヤ様、彼が言いたいのは、乗り合い馬車では軍人の乗客は敬遠される。魔法では、他国の兵に見つけられ、備考の可能性も考えられます。」
「...え?...あぁ。そうか...」
「...優秀なメイドをお持ちですね。」
少し照れたように笑うコルノさん。
いやいや、照れるとこじゃないだろ......
その時だった。
「...それにしてもこの森どこまであるんでしょうね?もう結構歩いた気が...」
メアがつぶやく。
「いつもなら...もう森を出てる筈です。
多分、...道は間違ってないです。」
腕時計のような器具を見ながらコルノさんがいう。
俺はこの世界に関しては土地勘というものが0に等しい。
だから、もう一つの異変にも気が付いたのか。
俺が途方に暮れて上を見たとき...
何か緑色の物が旧接近し、俺らを薙ぎ払っていった。
「うわぁ!」
「キャアッ!」
「...!!」
この時コルノさんは見事なバランスで立ったままよけ切る。
だが、メアはというと、完全に地面に倒れ込んでしまった...
俺はというと、接近にいちはやく気付いたおかけでしゃがんでよける事ができた。
コルノさんが武器の槍を抜く。
それは俺を捕らえたときの汎用のような槍ではなく、練習の時に使っていた安物そうな槍でもなく...
『魔槍』という言葉がぴったり当てはまるような...不思議な魅力をもつ紅い槍。
そしてそれで前方を思いっきり薙ぐ。
俺らを不意打ちしたそいつは身を翻し、俺の方へと向かう。
が、そこもコルノさん。
重そうな槍をまるで指揮者が指揮をするような華麗な動きで相手を寄せ付けない。
「え?あ、あ、うわぁぁ!!」
不意にコルノさんの背後。
メアが倒れていたところから声が上がる。
悲鳴。
見ると、緑に染められた白衣...緑衣とでも言うのだろうか。
とにかく、薄い緑色の服を着た少年がメアの後頭部に一撃を喰らわせていた。
少年はメアを運んで森の中へ逃げていく。
その瞬間。コルノさんの方から凄まじい音。
みると、何か禍々しい紋章と共に吹き飛ばされる来訪者...と思いきや、謎の敵はそれでもダウンせず、反撃を食らわそうと構えている。
「くそっ...!こうなったら...」
「いけませんッ!」
メアを助けに行った俺へ飛ぶ怒号。
「相手の目的は...多分僕かメアさんです。
貴方が勇者ということは...バレてない。ですが何かの間違いで貴方が殺されたりしたら...!」
「メアは!」
「...言ってしまって申し訳ありませんが...何も出来ないなりに、出来ればここに待機しておいてください。僕が追います。」
...! くそ...
悔しかった。言い返したかった。
俺だって、何かできるはずだ。昔から努力だけはやめなかった。
と、言おうとしたはずなのにそれは言葉とならず、俺の胸のうちへ消えていった。
「はっ!せぃあっ!」
格闘技の掛け声のように覇気のこもった声で、放つコルノさんの一撃。
それは深々と敵の腹を貫き...次の瞬間コルノさんはそこら
中の木の枝を足場として、少年を追いかける。
『待機しておいてください。』
『何も出来ないなりに』
コルノさんに言われた言葉がグルグルと回る。
ちくしょう...
そう思ったその時。微かに背負っていたバッグに違和感。
何かが...震えていた。
恐る恐るに見てみると、そこにはバイブレーションで震えるスマホ。
着信はきていない。
きっと充電切れか...?
そう思って画面を開くと
『電池残量 100%』
...ありえない。
俺は基本的にスマホの電源は消さない。
つまり、この一週間充電なしで100%を保つなんてのはいくら何でもありえない。
そして、スマホをよく見ようとした瞬間...画面がいきなり強烈な光を発し始め...俺はその光に飲み込まれた。
ー了ー
読んでくれてありがとうございました