プロローグ~『努力なんて』~
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今日の俺はとことん不機嫌だ。
いや、今日だけじゃないか。
原因は何を隠そう『中間☆テスト』という悪魔の儀式のせいだ。生徒同士を同じ条件下で競わせ、優劣を付ける行事。
聞いてみれば案外平等に聞こえるかもしれない。
でもやって見てわかる。自分の才能と他人の才能の差が。
で、肝心の理由だが...
話は数時間前に遡る。
「...冬弥。このテストの点数は?」
「知ってるでしょ。俺がしっかり勉強してたこと。」
「それで...この点数...?」
口のはしがヒクヒクと震えている。
点数を見終わったのであろう。テーブルに置かれた五つの紙には
『37点』
『58点』
『34点』etc...
と、言う残酷な文字。
「本当は...こっそりゲームしてたんでしょう?」
「してない。」
「今なら...怒らないから。」
でた。常套手段『今なら怒らないから』
「してないっつーの。」
「嘘つかないでッ!!」
「...!」
「努力して!この点数になるはずがないでしょう!」
「したんだ!俺は...」
「だったらその態度はなんなの!
こんな点数しか取れないくせに偉そうに...!」
分かってる。分かってるんだ。でも...
「アンタみたいな出来損ないをもって本当に後悔」
言葉の途中で、母さんは言葉を切った。
いや、切らされた、のか。
俺は母さんを、殴っていた。
そして時間は今に戻る。
「なんで、あんな事したんだろう.........」
自分が出来ないなんて分かってるんだ。
でも...出来損ないなんて言わなくても...よかったじゃないか。
今は家...ではなく近所の公園でボーっとしている。
あの後、学校の制服とカバンを持ったまま家を飛び出したのだ。
「せめて...何かとりえがあればなぁ」
頭上に浮かぶ月を見ながら呟く。
あの月のように、暗い夜を照らす事のできるようになりたい。
「こんな夜遅くに何をしている!!」
煌々と輝く懐中電灯とともに警察が走ってくる。
誰かに通報でもされたか?それとも見回りか?
とにかくまた面倒なことになったもんだ。
「すいません。ここで休憩してたらいつの間にか寝ててしまったようで...」
「ふぅ。なにか大事が無くて良かったよ。帰りは気をつけなよ。」
警察は優しくそう言ってくれる。
でも、まぁ俺が帰るなんてことはもう無いんだが。
「時に君はなんでこんな夜遅くに?」
「...さっき言ったでしょう。」
「いいや。そうじゃなくて...
あれかい?親御さんと喧嘩したのかい?」
「まぁ。そうですが...え?」
なんで...わかった?
「テストで怒られて、不貞腐れてここへ。ね。
まぁ親御さんを殴ったのはよくないなぁ。」
「お、俺そんなこと言ってない!」
「まぁ仕方ないよね。平等な条件下なんて聞こえはいいけどそれって生まれ持った才能の勝負だもんね。」
「...!!!」
「『才能で勝てない分努力』なんて言うけど。その才能のある人も努力してんだっつーの。それに才能のない奴なんて、努力する才能も無いんだから努力なんて無駄だよね。」
「そんなこと!」
ない。とは言えなかった。
自分の努力と結果がフラッシュバックしたから。
「正しくは、『努力は出来る人もいるかもだけど、それを成就させる才能がない』かな。」
警察は俺に背を向けて歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「ごめんね。勤務をサボるわけにも行かなくて...」
いきなり普通の警察モードを醸し出すその男の肩を掴む。
「...そうやって僕も殴るつもりかい?」
...!
「ち、が...」
身体に電流を流されたかのような感覚とともに胸に来るズキンという痛み。
「君は。もうココにいる意味はない。」
なにを...言っているんだろう。
だけれどそれを問いただすことはできなかった。
何故か溢れ出す涙。
殴った時の感覚。
胸のズキンという痛み。
なんとも言えない、酷い感情。
そして...あの時の母さんの顔。
いろいろな物が頭を渦巻く。だからだろう。
その後のことはほとんど覚えてない。
気づけば俺は、学校にいた。
真夜中の学校で。授業の時のように自分の席に座り、誰もいない教卓に礼をし、教室を出る。階段を上がる。
この学校は屋上が開放されている。
洗濯物を干す時など使うからだ。
そして
屋上へいき、フェンスを乗り越え
夜景の輝く街をその目に焼き付けながら
俺は地面に叩きつけられ
壊れた人形のように手足をだらしなく伸ばしながら息絶えた。
読んでくださりありがとうございました。






