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4話 五芒星の姫

街中に悪魔が出現するのは稀である。それはユニオンや退魔師協会が日頃から悪魔の数を減らすべく活動しているからである。悪魔は瘴気が発生する場所に集まる習性がある。瘴気が場所する場所を特定し、対策する事で悪魔出現のリスクを減らすのも彼らの仕事である。とは言え、頻繁に仕事が発生する訳ではなく、魔女や退魔師などは有事に備えて訓練を行っているのだが……。


「まあダルいので、こうして休んでる魔女も多い訳ですよ〜〜。」

「いや、エリカはいつも休暇みたいなもんじゃん。」

「失礼な!最近物騒だし訓練しとるわ!」


エリカとアツコはユニオン近辺の喫茶店でお茶をしている。待機日が被った為、二人で久々にお茶でもしないかというエリカの提案だった。ユニオンの従業員は有事の際にすぐ対応する為に休暇ではなく待機という名目になっている。


「冗談よ冗談ー。で、ユニオンの休憩所や屋上テラスで寝てるのも何かの訓練?」

「……。た、有事にすぐさま出動する為に待機の練習を……。」


睨むアツコ。目線を反らすエリカ。


「アツコ様、参りました。」

「分かれば宜しい。エッヘン!」

「相変わらずアツコは厳しいな〜〜。あ、そういえば私達がいた施設建て直すらしいね〜。」

「そうなんだ。いつの話なのそれ?」

「国の補助金が入るのが来年の夏みたいで〜〜。」

「そっかー。取り壊される前に一回いきたいねー。」

「うん……。あれから20年経ってるのか〜。そりゃアツコもババアになってる訳だわ。」

「まだ28歳だわ!てゆうか同い年やん!」

「冗談やって〜〜。」

「もうーー! しかし、初めてあんた見た時は衝撃的だったなー。」

「あたし全く覚えてないんだけど〜。どんな子だったん?」

「えーっと……。」

「あれは私が4歳の時だった……。」

「うわっ語りはじめた。長いぞこれは〜〜。」


そうしてアツコは昔の話をしだした。



エリカとアツコは同じ施設で共に育った。悪魔の襲撃により両親を失い孤児になる子供が多く、施設の数もそれなりに多かった。アツコもまた孤児の一人であった。しかし、エリカの場合は例外であった。エリカの家はオーデット家という魔女の名家で、幼少時はこの魔女の一家のもとで暮らしていた。しかし、4歳の時に何者かの襲撃を受け一家はエリカを残し滅亡したのだ。彼女は事件のあった家の中で本を抱えながら隠れていたのをユニオン調査団の手によって保護され、彼女は孤児として施設に迎い入れられる事になった。


「ねえエリちゃん。みんなの前で挨拶できる?」

「……。」


 施設長はエリカに話しかけるも返答は得られなかった。エリカはまるで抜け殻の様になっていて、喋れる状態ではなかった事は言うまでもない。


「今日は、新しいお友達を紹介します。みんな仲良くしてあげてね。」

「……。」


 施設長が施設の児童に紹介するも、エリカは無反応だった。児童達が困惑する中、一人の女の子がエリカに声をかけた。


「あたしアツコっていうの!あなたの名前は?」

「……。」

「……。ねえ先生?この子の名前はなあに?」

「エリカ。エリカ・オーデットっていうのよ。」

「エリちゃん!可愛い名前ね!これからよろしくね!」


 アツコの笑顔によりエリカの顔も少し光を取り戻したように見えた。


「ねえエリちゃん?あなたの持ってるその本はなあに?」

「……。」

「……。魔法の本……。」

「まほうのほん?変なの~!」

「……。」

「ねえ、そのほん置いて一緒にあそぼ!」

「……。……いい。」


 エリカは本を抱えながら与えられた部屋に閉じこもってしまった。アツコは次の日そのまた次の日もエリカに話しかけるが、エリカは本に夢中になっているのか、あいまいな返答しか返ってこなかった。そうしてエリカは施設の児童と仲良くなれずに時は経っていくのであった。しかしアツコはそんなエリカの事を気にかけて話しかけ続けた。


 エリカが来てから2年経ったが相変わらずだった。二人とも小学生になったがエリカは通う事が出来なかった。そんな彼女を見かねてアツコはエリカに新しい本を借りてくる事にした。


「いつまでも良く分からない本読んでるからいけないんだ。学校の図書室でもいい。少しでも学校に興味を持ってもらわないと……!」


 エリカの為に本を吟味していた為、帰りが少し遅くなっていた。辺りは暗くなりはじめ、アツコは家路を急いだ。


「しまったー。先生に怒られちゃう~。はやく帰らないとー。……あれ?なんだろあれ……。」


 アツコの見る先には犬の様な何かがいたが、暗くなっていた為よくは見えなかった。


「ワンワン?でもいつも通ってるのに初めて見るよ……」


 そして街頭が灯りはじめるとその犬らしき物体のシルエットが現れた。アツコの目の前に映ったのは犬などではなかった。目は退化したのか全く無く、鋭い牙と大きな口を持つ見たことのない化け物だったのだ。


「……。なにあれ……。」


 アツコは恐怖で動くことが出来なかった。そうしてるうちにも化物は着実に近づいてきた。そして化物はアツコを食わんとばかりに迫ってきた。アツコはどうすることも出来ず、立ちすくむだけたった。


「アツコ!しゃがんで!!」


 どこからともなく声がした。アツコが声がする方へ目線を移すとそこにはエリカの姿があった。


「早く!!いいからしゃがんで!!」


 アツコはしゃがむというよりも足が竦んだ様に座り込んだ。


「……来い化物!!あたしがやっつけてやる!!」


 エリカは化物に向かって掌を向け、念じはじめた。掌から光と共に魔法陣が出現した。


「あたしの友達に手を出すな!!!」


 エリカが出した魔法陣は光りはじめ、そして光は化物に向かって放たれた。


化物は断末魔を上げ、倒れこんだ。そして化物はみるみるうちに凍っていった。


「……。」


 何が起きたか理解出来ず茫然とするアツコにエリカは話しかけた。


「アツコ……。大丈夫?」

「エリ…ちゃん?」

「うん。エリカだよ?アツコ大丈夫?」

「ねえ今のは何!?」


 化物を見るような目でエリカに問いただすアツコ。


「……。本……。」

「本?」

「本にさっきの魔法の出し方書いてあった。」

「へ?あれ本当にまほうのほんだったの?」

「うん、そうだよ。あたしにしか使えないって書いてあったけど。」


 先ほどの恐怖も相まって、あっけにとられえるアツコだったが、すぐに彼女の興味はエリカに向いた。


「ねえ!!エリカって魔法少女なの!?」

「……。違うと思う……。」

「ほかにも何か出せるの!?」

「……。出せるけど遅いからまた明日ね……。」

「うん!じゃあ明日!約束だよ!!」

「……。うん。でもみんなには内緒だよ?」

「わかった!それとあたしの事アッちゃんって呼んでよ!あたしもエリカの事エリちゃんって呼ぶ!」

「……。わかったアッちゃん。」


 そうして二人は友達になった。



アツコはようやく昔話をし終わった。

「それからだよね。話すようになったのも。」

「そだねー、なんだか思い出してきたよ。」

「エリカの持ってた魔道書って結局何だったの??」

「あーあれはね、オーランド家に伝わる魔道書でお父さんの所有物だったんだよ。お父さんが死んだ時に、私に所有権が移るように魔法がかけてあったみたいでさあ。」

「所有権が移ると手元にやってくるとか?」

「無意識に隠し場所を見つけて持ち帰ったらしいんだよね〜。」

「え!?その本呪われてるんじゃないの??」

「まあ、呪術を用いてるから間違いじゃないのがまた面白いんだけどね。」

「……。今は魔道書持ってないんだね。」

「いや?持ってるよ。ノアー、降りなさい。」


エリカは、使い魔のノアをテーブル乗せると背中のチャックを開けて本を取り出した。


「ほら、ちゃんと持ってるでしょ?」

「!?!?いやいや、今何処から出したの!?!?」

「えーと……。あ、店員さ〜〜ん紅茶おかわり下さ〜〜い。」

「あ、こらっ!!」

「細かい事は気にしない!次の話題に移ろ?ね?」

「……。わかったわよ。」


アツコは納得していない様子だが、渋々了承した。


「話は変わるんだけどエリカに聞きたい事があるんだよね。」

「ん?何?」

「あんた、A號になってからも相変わらず配属はサチさんのサポートなんでしょ?」

「まあね~。サチがどうかしたの?」

「いや、サチさんって結構不思議なとこがあるじゃない?エリカはどう思ってるかな?って。」

「あ~。あたしは特に気にしてないんだけどね~。」


 サチは周りから浮いてる状態にある。まず外見だが、他の隊員と比べて背が低く小学生に間違えられた事もあるらしい。髪は綺麗な黒髪であるが、前髪を伸ばしていて顔の半分が隠れてしまっている。そして肌は包帯でぐるぐる巻きにして見えない。それだけではない。実は彼女の使い魔を見たとういう隊員はいないという。彼女の武器は己の拳のみ。それでいてA號に長く在籍しているのだから隊員にしてみれば不可思議なのだ。それ故、彼女の事を不審がる隊員も少なくないとの事だ。


「なんであの子A號に居続けられるんだろう?」

「いや~何でだろうね~。」


 エリカの目が少し泳いだ。


「まあ気にしてもしょうがないでしょ?てゆうか長居しすぎた~。そろそろ出ようか?」


 エリカはそそくさに会計を済ませた。それに続いてアツコも喫茶店から出た。


「さてと、次はどこへいきますか!アツコが決めていいよ~」

「そうね……。またカフェでもいいわよ。」

「もう十分まったりしたじゃん!だから次はも……ヘブッ!!!」


 大きな衝撃と共にエリカは吹き飛び、壁に叩きつけられた。


「え??エリカ!?!?何が起こったの……。!?!?」


 アツコが目を移すとそこには悪魔の姿があった。




「嘘……。A級悪魔サイクロプスだ……。何でここにいるの!!」


 悪魔が出現する時は周辺が瘴気が発生するし、尚且つ悪魔の出現にタイムラグが発生する。その為、ユニオンは事前にシグナルを読み取り対応する事が出来る。しかし、このサイクロプスは何の前触れもなく突如出現したのだ。そしてサイクロプスの周りから一気に瘴気が漂い始め、そこから次々とサイクロプスが出現したのだ。


「最悪……。これじゃあユニオンも対応出来ない!……エリカ!!」


 エリカは先ほどの奇襲で気を失っている模様。サイクロプスはアツコを見るなり持っていた巨大ハンマーを振り上げた。


「あたし……死ぬ……!」


 アツコは目を瞑った。そしてサイクロプスはアツコへ向かってハンマーを振り落した。



 ハンマーの威力はすさまじく、衝撃と共にあたりは砂埃で包まれる。


「……。あれ?……私生きてる……。」


 何故か無事だったアツコは顔を上げるとサイクロプスの攻撃を受け止める何者かの姿があった。茶色いローブを着たそいつはサイクロプスのハンマーを掴んだ。そして謎の人物は一瞬でサイクロプスの懐に潜り込んだ。


 


 それは一瞬の出来事だった。謎の人物がサイクロプスの懐に入った瞬間、まるでダイナマイトが爆発したかの様な爆音と衝撃があたり一面に響き渡った。そしてめの前にいたはずのサイクロプスは姿を消していたのだ。そして謎の人物は腕をおろした。


「!?」


 アツコはあまりの光景に息を呑んだ。謎の人物の両手は車のタイヤ程の大きさになっていた。それだけじゃない。おおよそ人間の手ではなく化物の手になっていたのである。


「な、何なの……。あなたは一体……。」


 謎の人物はアツコの問いに答える事なく次のサイクロプスのもとへ走っていった。サイクロプスもそれに気づき攻撃を仕掛けるが、謎の人物は既にそこにはいなくサイクロプスの後ろにいた。そしてまた大きな爆音と共にサイクロプスは砕け散り、跡形もなく消滅した。その謎の人物の周りには赤い霧が立ち込めている。


「なにあれ……。あんな魔法見たことない……。」

「……いや、あれは魔法なんかじゃない……。」

「エリカ!!大丈夫なの!?」

「なんとかね……。それよりもあいつ……ただ単に敵を殴っているんだ多分。」

「どうゆうこと……!?」

「あいつから放たれる一撃で、敵は霧散してるんだよ。あいつの周りみてみ。赤い霧が出てるでしょ?多分敵の残骸だよあれ……。」

「嘘……。そんな事あり得るの!?ってあれ?」


 アツコが目を向けるとそこにはサイクロプスも謎の人物もいなくなっていた。そして赤い霧だけがあたりを漂っていた。


「もう全員殺したみたい……。バケモンだなありゃ。噂でしか聞いたことないんだけど、相手を一瞬で塵にする位のパワーを持った魔女がいると……。」

「じゃあ、今現れたローブは……。」

「そう、あれが伝説のS號魔女……。通称『赤霧の姫』。そう呼ばれているの」

「S號なんて設定ないわよ!!」

「通称だから突っ込まんといてよ。それよりとんでもない場面に遭遇してしまった……。」


 あたりが悲鳴と絶叫で包まれているなか、路地裏にそいつはいた。そのローブの他にも2人の謎のローブと1体の宙に浮かぶ西洋人形が待っていた。


「まさか奴、ここで悪魔を解放するとは……」

「で、『あの男』は近くにいたのか??」

「うん、サイクロプスと戦ってるときに『あの男』の姿があった……。」

「まあ姫様が言うんなら間違いないですね。それにしても彼の目的は一体なんでしょう?」

「ゴシュジン、テストシテルッテイッテル」

「テストね……ふんっ。次『あの男』を見つけたら生きて返すな。」


 そう言って、謎のローブは深く被っていたフードを取った。黒くて長い髪の毛、顔を半分まで隠す前髪。あのサチの姿がそこにはあった。


「僕たちS號の力であの男を葬りましょう」

「……。ヴェール卿、期待してる。」


 そうして彼らは路地裏の暗闇に消えていった……。









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