2話 哀しみの舞②
この日、中日本エリアは大きく揺れた。管轄エリア内での悪魔出現は実に30年ぶりになる。B號隊とC號隊は出現ポイントへ出動命令が下りポイントへ移動開始した。それを遠くから見守るエリカ。彼女は前までB號隊に配属していた為、複雑な思いでみていたのだろう。
ユニオンの魔女部隊は大きく分けて、3つの部隊がある。主に下級モンスターやC級悪魔の討伐を目的とするC號。B級または、A級悪魔の討伐を目的とするB號。この2部隊の所属人数は多く、ユニオン構成員の大半を占める。そしてエリカが新しく配属する事になったA號は少数先鋭の部隊になる。A號は単独でA級悪魔の討伐が可能でありユニオンの切り札とも言える存在だが、人数は非常に少ない。防衛時はA號数人で行動し、任務を遂行する。中日本エリアにはエリカを含め、10人程度しかA號は在籍しておらず、この日もエリカ含めて3名しか出動していないらしい。出動の準備をするエリカを横目にA號隊の一人が現れた。
「あら?確かB號の……。」
「屏風院和枝先輩ですね?本日付けでA號に配属になりましたエリカ・オーデットといいます!」
「あー、サチの付き人の!」
「まあ否定はしないですけど〜。」
「カズエでいいわ。では、お互い生き残りましょ」
「怖い事言わないで下さいよ〜。」
カズエは、A號の中でも上位の魔女で、中日本支部のエースとも言われている。そのカズエが何か気に掛けている様子。中央司令室からの情報ではB級悪魔のみの出現との事だが、カズエは嫌な予感を察知しているのだろうか……。そうこうしている内に、先陣を切ったB號の辺りが騒がしくなってきた。どうやら交戦しているらしい。
「エリカ!行くわよ!私達の任務は、B號の支援及び、A級が出た時の討伐だよ!」
「了解しました!え?A級?」
やはり、カズエは何か思うところがある様子だ。エリカもカズエに続いてポイントへ向かうのだった。
「こちらB號隊1班!B級悪魔を確認!これから討伐します!」
「こちらB號隊3班!生存者を確認!避難の支援を行います!」
先陣を切って侵攻したB號隊はポイントへ到達、各所で悪魔との戦闘が開始された。
「いた!ビッグスパイダーだよ!」
「ウェポンモード十五夜発動!サポートお願いします!」
大型のブレードを持ったB號隊の一人は、スパイダーに果敢に攻め込んだ。隊員はブレードでスパイダーを切りつける。スパイダーも口から糸を吐き反撃するが、隊員はギリギリの位置で避けると、すぐさまカウンターを食らわした。
「リーダー!敵一体落ちました!」
「でかした!次へ行くぞ!」
一体のスパイダーを倒し次のポイントへ向かう隊員。
「確か、ビッグスパイダーが十数体出現したとか」
「B級悪魔だから、私達でも討伐出来るよ。一人でも多く救出しないと……。」
「ちょっと待って!!」
「何かあったの!?」
「いや、あれを見ろ……。」
B號隊の一人が指を指した先には、ビルとビルの間に作られた信じられない大きさの蜘蛛の巣があった。
「ねえ、B級が作ったにしては大きすぎない?」
「もしかしてギガントが出現したとか?」
「その様な報告は出ていないが、可能性はあるな。周りの状況に注意しつつ前進するぞ!」
巣の近くまで移動するB號隊。その中で違和感を覚える隊員が出てきた。その違和感は形となって現れようとしていた。
「あ、あの……。リーダー。」
「何かあったか?」
「巣の下にある、ゴミの様なもの。一体何でしょうか?」
「……。確認しよう。」
リーダーは双眼鏡で状況確認を始めた。
「!?!?」
「……何があったのですか!?」
「……。全員戦闘準備だ……。ウェポンモードを展開しろ。ギガントスパイダーがいるぞ!!」
巣の死角から現れた悪魔は、想定サイズの数倍の大きさだった。この悪魔はギガントスパイダー、。A級悪魔の中でも危険種だ。
「口にぶら下がってるゴミみたいなのは、まさか!?」
「そうだ、ヒトだ……。ヒトが干からびてやがる!」
ギガントスパイダーの特徴は、獰猛さと底なしの食欲にある。スパイダーは人間の体液を一瞬で吸い上げる。すでに犠牲者が多数出ている様だった。
「全員、全力でいくぞ!!」
「行け!ファイヤーバード!!」
「ウェポンモード!ひと思いに焼いてやる!!」
B號隊の猛攻により、次第に弱り始めるギガント。かなり有利な展開になってきた。
「油断するな!あと少しで奴は落ちるぞ! このまま続け……。!?」
「リーダー?」
リーダーの目線に合わすと、もう一体のギガントの姿が見えた。チームは囲まれたのだ。この場にいた隊員は絶望した……。
「リーダー!どうすれば!」
「ちょっと待て! 何か策は……。」
この場にいた全員死を覚悟した。一度に2体のA級悪魔を相手にする力はB號には無い。
「中々楽しい人生だった。」
「リーダー!!こんな所で変なフラグを立てないで下さい!!」
全てを諦めようとしたB號を照らすかの如くはるか彼方から、一筋の光が出てきた。すると、轟音と共に光線はギガントの胴体を貫いた。するとギガントはみるみるうちに凍ってしまった。隊員が唖然とする中、もう一体にも光線が照射される。リーダーは光の先に目をやった。光線は、およそ二百メートル先から出ているようだ。
「これで、二体撃破ね。」
「ちょっと遠くだったけど、なんとか当たったね〜。」
エリカから放たれる光線は見事に悪魔を貫いていた。
「仮にもA級を一撃ねえ。あなたにしてはやるじゃない。」
「必殺の冷凍魔法だよ!一番の得意魔法なんだよね〜。」
「あなた、魔法だけは一流なのよね。」
「カズエさん?何か言いました?」
「いえ?さて、私も仕事しますか。」
カズエは掌を上に挙げ、念じ始めた。掌からは大量の黒い羽根が現れ舞い始める。
「雑魚は私が潰してあげる。」
カズエの放った羽根は辺り一面に散り始めた。羽根は街を徘徊するスパイダーの上まで来ると、羽根は大きな黒球に変化した。
「潰れろ!!!」
黒球はスパイダー目掛け一斉に落下し、数体まとめて葬り去った。
「……。あらあらまあまあ。」
唖然とするエリカを尻目に冷静なままのカズエ。
「さて、次のポイントに向かいましょう。」
「そういえば、サチの姿が見えないんだけど。」
「さあね。知らないわ。私あの人の事好きじゃないから、気にしてないのよ。」
彼女らの活躍は、モニターを通して中央司令室にも届いている。
「隊長!ギガント二体、撃破しました!」
司令室に響くアツコの声。二条隊長は、この事態を予想していた様だ。
「やっぱり出てきたわね。アツコ!引き続きA號に周辺の偵察の命令を出してちょうだい!まだギガントが潜んでる可能性があるわよ!」
「了解しました!」
「どうやら金沢やベイエリアに続く惨事は回避出来そうね。」
隊長の読み通りもう一体ギガントが出現していたが、先回りしている人間がいた。
「敵一体確認……。」
一人の少女は、ギガントにとてつもないスピードで近づいた。ギガントもそれに気付き、糸による攻撃をしかける。少女はギガントの猛攻を全て見切ったかの如く避け間合を一気に詰める。そして少女は握った拳をギガントに振りかざす。
地響きと共に、鈍い音があたりに響き渡る。少女が放った一撃はギガントを大きく損傷させた。
「サチーー!大丈夫だったー?」
「エリカ……。」
「サチも参加してたんだね!」
「……。」
「てゆうか、これ……。また素手でやったの?」
「……。そう」
「へえ……。で、街の状況は?」
「もう落ち着いたようね……。」
『総員に告ぐ!!出現した悪魔は全て討伐完了!任務は完了となります!全員本部への帰還して下さい!』
「終わったようね。私達も戻りましょう。」
「みたいですね。サチも戻ろっ!」
「……。」
この日、討伐した悪魔は17体。その内、予期せぬ形でA級のギガントも出現したものの、甚大な被害は出なかった。こうして夜はあけるのだった……。
ヒトは誰しも心に悪魔を飼っている……。
悪魔はヒトの心の闇を餌とし成長し、魔女は育った悪魔と契約を交わし使い魔として使役する。少女は深い心の闇を糧に魔女へと変貌をとげるのだ。彼女らはこれからも哀しみの舞を踊り続ける……